距離計式35ミリ、セレン光電池とEVによるEEカメラ。
EVとは Exposure Value かつて明るさを示すために
使われた。昭和30年代にはこれを基本とするカメラが多い。一つの明るさに対応する絞りとシヤッターの組み合わせを
数値化したもの。絶対値なのでフイルムの感度に左右されない。ミノルタオートコードなど多くのカメラに採用されたが、今はまったく見ない。わかりにくさが
原因だが、私たちオールドタイマーにはその数値で明るさがわかるので便利だ。古い単体露出計を使うときにはこの知識が必須。
フイルム感度をセットし、被写体に向けたときの指針にEVダイヤルを合わせると適正露出が得られる。この機体では
セレンが劣化していないのか、針はしっかり触れるから、平均的な写真では意外に便利だ。ただし、何らかの補正をするのは
カンによるしかない。
{レストア}
手に入れたときには巻き戻しのクランクが無い、全体が汚い、モルト劣化などだった。レバーはジャンクボックスから
ほぼ似たものを探し、幅を調節していれた。少し錆びていたので黒くしてみた。
と書くと簡単そうだが、わずかに幅が狭いのは砥石で両側を少しずつ削って調整、これが結構大変だった。
この頃のクランクの元は引っ掛けではなく、わざわざ細長いネジで固定している。これが紛失していたので、
大型安全ピンの針部分を切って入れ、瞬間接着剤で固定した。十分使えるのでこれでよし。
軍艦部の開け方は変っている。巻き戻しクランクの下には大型の円盤がカニ目付である。これをまわすのだが、意外に
力が必要だった。後は巻き上げノブに隠されているものと、前面向かって左下の化粧ボルトだけで外れる。
セレンの配線がぐるっと廻っていること、距離計窓が普通と逆で、基線長が短く、距離計の精度はたいしたこと無いと
わかった。多少汚れているが、どこも痛んでいないので、軽く清掃した。
下側の点検中にネジが一つ落ちてきた。よく見ると下のカバーについていたらしい。二つのネジのもう一方は最初から
無い。落ちてきたものはサイズ違いで止まらない。おそらく前の所有者が開けたのだろう。最近オークションでは
「修理して使う」ブームで、ズブの素人がバラス例が多い。知識と技術が無いままでたらめに開き、困ると再オークション
という手が多いらしい。
頼むから勉強してからにして欲しい。一度いいかげんにばらすと、正しい位置や部品配置が不明になり、ほとんど
完全品がジャンクになってしまう。困ったものだ。
「作例」
なぜか非常にフレアーが多い。まともとはいえないのでレンズ周りを調べることにした。作例はそこを承知でごらん
いただきたい。ROKKOR がこんな結果とは考えにくいので。
《自作機一号》
もともとジャンクのカメラを使えるように改造した。自作機というより改造機だが、自分としてはここまでやったのは
初めてなので、あえて自作機とする。
何とも情けない姿で登場したのはBUSHMAN PRESS というアメリカ製。昔のハリウッド映画でカメラマンが大きいフラッシュで
スターを撮影していた頃の45(しのご)プレスカメラだ。手に入った時にはまさにジャンク。レンズが無いのは交換式
だからまだしもだが、ボロボロのボディー、レンジファインダーにレンズはなく、バンドは切れて皮ははがれている。
無い物だらけで、このままでは使いようが無い。フイルムホルダーは無いし、ピントグラスにはガラスが無い。安い理由は
誰でもわかる。ゴミ同然の姿で手に入った。
何はともあれ写すならフイルムが入らねばならない。
45のカットフイルムを使う気は無い。フイルム代が高すぎるしそこまでの品質は要らない。
何より決定的なのは、いろいろなレンズを試すつもりだが、45のイメージサークルに届くものは
使うレンズ候補に無い(唯一フジノン150mmのみ)
手持ちのマミヤプレスとマミヤRBのホルダーの流用を考えたが、
RBにはピントグラスが無い。そこでマミヤプレスに決定。これはホルダーをいろいろもっているし、ピントグラスもある。
必要ならオークションでもいろいろ出ているから便利だ。6*4.5、6*6、6*7、6*9と多彩なサイズで
撮り分けられる。レンズの焦点距離は固定でも画角が変えられるので使いまわせる。
ホルダーのアダプターは木で作った。これを強力接着剤で貼り付けるだけにする。こうすれば将来45に戻すときには
木枠を壊して外せばよい。おそらくその日は来ないだろうが。
困ったのはまったく基礎データが無いこと。よって全てピントグラスから現物合わせとした。これが後で大きな問題になった。
ピントグラスとフイルムバックは取り付け部は同じでも周りの形が違う。上から見てS字を描くホルダーはいろいろなところに
干渉する。幸い木なので削って調整した。
ほぼ最終形態。蝶ネジで止めることにした。このバック部はなんとレボルブ機能もあり、縦横切り替えは自由にできる。
ボディーは並行して不要なもの、機能を失っているものを全て外し、再塗装と皮を貼りなおし、各部は清掃した。
使えないし不要な距離計部は当然外して軽量化(こんなものでは意味が無いか)
ついに完成。形は様になったと思うがどうだろうか。レンズは45用のフジノンW150mm、6.5*9.5乾板用の
コリゴン・アナスチグマットというとても
古いバリオ初期型付きの135mm、6*6二眼レフのヤシカフレックス用・ヤシノン80mmを準備した。
この写真はフジノン、さすが大判用なので様になっている。
【諸元】
形態 ジャバラ式フィールドカメラ(連動距離計式プレスカメラ改造) 本体 16.5(縦)18.0(横)10.5-26.5(奥行き 格納時/撮影時)cm 重量 2.35kg(本体+ピントグラス)3.02kg(フイルムバック装着時) レンズ・レンズボードなし状態にて フイルム 120フイルム(ブローニー 6*4.5 6*6 6*7 6*9対応) レンズ 嵌合部φ60mm以内のレンズシャッターつき 専用ボードに装着(2mmアルミ板で自作する) ただし、フランジバック100ミリ以上必要 アオリ ライズ・フォール・ベッドダウン・シフト(レボルビング可能) その他 体力(必須)*気力(必須)と多少の知識(簡単) |
135mmの状態。これで無限遠が出た状態だ。まったく繰り出していないので、接写は相当できることがわかる。
レンズボードはライズ、シフト、ベッドダウンが可能なので、建築写真やブツ撮りなどほとんどの場面に対応できる。
ただし、この状態で3k近い。三脚必須なので撮影は体力勝負でもある。
こちらはヤシノン。フランジバック不足で、ジャバラ格納状態で無限遠がでる。およその位置に固定して
あとは前玉回転でピント合わせ。ちょっと実用的ではない。画面で見る限り、69まで周辺光量の不足はなさそうだ。
少なくとも67はいけそうだ。
いろいろ撮影した結果。クリックすると大きくなるが、重たいのでご注意を
@
A
B
C
D
E
F
G
H
{撮影データ}
フジ・ネガフイルム FUJI100(光線漏れやラチチュードを見るため)測光、セコニック・スタジオデラックスと
オリンパス2100Lのスポット測光データ参照。うす曇から本曇り、ヘイズ非常に多い。三脚使用。
@ABH=フジノンW150mm F8-F32
CE=C.Friedrich Munchen-Anastigmat 6.3 f=13.5cm F11-F25
DFG=RICOH ANASTIGMAT 1:3.5/8cm F8-F11
茶畑、浮島沼など。レンズごとの差が激しい。左が欠けているのはヤシノン、シフトの間違いだがそれにしても
67はきついことがわかる。フジノンは45用だからどんなに振っても大丈夫。
考察と反省
フイルムバックはSの部分がボディーに干渉するので、全体に右にオフセットしている。
それで左右センターが出ていない。45用のフジと二丁掛けと思われる
古いドイツレンズのイメージサークルでは十分範囲に入るが、66用のヤシノンではセンターを正確に
あわせないと67には使えないことがわかった。ヤシノンはフランジバックが短く、レールに乗れなくて
格納状態のままヘリコイドでピンあわせしている。従って性能的なものはつかみにくい。周辺が流れているのは
曇りで絞り込まずに撮影したこともあるが、本質的には収差のためだろう。
Hはわざと近景にピンを合わせてボケ具合を見たが、特に問題なかった。どのレンズも8枚以上の絞り羽を
もつからバックのほけは素直だ。
今後、ヤシノンは自作機二号(6*4.5の予定)の標準レンズにコンバートし、テッサー105ミリを標準用に
使用する予定。こちらは既にテスト済みでその実力はわかっているから安心だ。
一日持ち歩いてわかったが、グリップがあったほうが良いので、父のいらないベルトを拝借してカットした物を
取り付けた。今後の課題として、レンズのセンター出しとその他のレンズ用ボードを増やす作業を予定。
また、簡単なフレームファインダー(およその位置出し用)とアクセサリシューをつける予定。
もう一つ、体力作りに取り掛からないと、体が持たない。または、屈強な助手を雇うこと(金ないのでパス)
再テストの結果
今度は一度目のテスト結果を踏まえ、修整データでしっかり絞り込んで撮影した結果である。フイルムは
フジのプロヴィアでリバーサルで実力発揮をもくろんだ。
最後の一枚は非常に重い。覚悟してご覧いただきたい。
@
A
B
C
D
@ABは順に150mm(フジナーワイド)・127mm(80年程前のドイツレンズ)・80mm(ヤシカフレックス用)で
画角の変化とシャッターのばらつきを見た。さすがに古いレンズは少しシャッター速度が落ちている。約二倍の
露光量なので、今後はもう一絞りする必要がある。
CとDはフジ。Dではアオリを使用している。ティルトを使ってパンフォーカス効果を高めた。ポジで見ると、時計の細かい文字や
子供の顔、銅像の細部と近くの敷石の表面のゴミもしっかり写っている。
後はテッサー105oを加えてこのカメラの基本レンズとする予定だ。
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