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パロディナール現像薬

 モノクロ現像には主薬の組み合わせからMQ(メトール・ハイドロキノン)系とPQ(フェニドン・ハイドロキノン)系が多い。 前者はコダックのD-76処が代表で、まさに標準的な小型フイルム用の現像薬だ。後者ではフジ・スーパープロドール、イルフォード・ マイクロフェンが代表で、フェニドンとハイドロキノンの併用による強力な現像力増感薬として用いられる事が多い。更に、MQ系、 PQ系に分類されない古典現像処方として、パラアミノフェノールを利用するアグファのロディナール(現在は同等品のR09)がある。

 ロディナールは長い間使い続けられ、現在はR09という商品名で売られている。1:25などに希釈して一度限りで捨てるワンショットの 現像液で、強い現像力を生かして、超希釈による静止現像(初期以外の攪拌をほとんどしない)などに使われ、先鋭度の高さなどで 人気が高い。

 最近、フェニドンはほとんど入手できない。理由は不明だが現像関係薬品のうちでもっとも高価でもある。MQ系を作るには 欠か せないのだ。これを探すうちに面白いものを発見した。
(フェニドンは、組成C9H10N2O 1-フェニルピラゾリジン-3-オン、1-フェニル-3-ピラゾリジノン、1873年に初めて イルフォードに よって合成された)
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 この処方はMartin Zimelka氏の Parodinalである。「パロディー+ロディナール=パロディナール」らしい。面白そうなので挑戦してみようということになった。

☆以下のプロジェクトは、ツイッター繋がりの無尽探査機氏、tri-chrome氏との遠隔共同作業と、hororishen氏のアドバイスの 結果である。参考にされたい方は各氏の報告も検索して合わせてご覧いただきたい。

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 鎮痛薬のアセトアミノフェンがロディナールと同等の能力があるということだ。アセトアミノフェンなら 普通薬だから通販で安いジェネリックを海外から買うことも可能ということで、話をしていた皆で検索、500mgタイプの100錠で 送料込み1300円未満で手に入れられると知り、早速発注した。



 10日ほどでタイから到着。



 剤形は錠剤だから賦形剤として有機物が少し入っている。カプセル入りの純粋な結晶がベストだが、特に影響しない ようなのでこれを溶かして使うことにした。

水(50℃)250(150)ml
Tylenor500mg30(18)錠
無水炭酸ナトリウム50(30)g
水酸化ナトリウム20(12)g
注意NaOHを入れないと溶けない

 テスト調合は入れ物の関係から150mlにて。実際にはなかなか溶けないし、賦形剤はもやもやの沈殿物として残る。



 溶いた当初はほぼ無色



 24時間で上から着色が始まる。



 だいたい72時間後にはこんな感じになり、以後はあまり変化しない。この色で正常。上澄みのみでも攪拌しても差は無い。 ワンショット用に希釈すると沈殿物は全くわからなくなるので、これはそのまま使うことにした。この状態で90日程度の保存が 可能とのこと。

《現像方法》

 本家ロディナールは基本的に希釈現像で、1:25や1:50が普通だ。非常に現像力が強いので、100倍で1時間、200倍で3時間など 驚くほど薄いものが実用として発表されている。パロディナールは同等と言う事なので、最初は1:100を試してみた。 ほぼ20℃の水にシリンジで5mlを測って入れ、最初は倒立攪拌を数回して放置、中間点で数回攪拌したのみ。いわゆる放置現像 にしてみた。以後は普通に希酢酸で停止、スーパーフジフイックスで定着している。

《試写》

@フイルムはアクロス400(120)でカメラはフレクサレット6にて。主に輝度差がある被写体を露出はカンにて 20℃ 1:100 60min



 水面の反射が強く、ファインダーでは周りはほぼ見えない 1/200秒22



 外の光は強いが、日陰で奥は非常に暗い 1/200秒5.6



 手前は陽が陰っている。右はウラブタ隙間からの光カブリ 1/200秒11-16


AフイルムはラッキーSHD100、カメラはニコノスT型、露出は全てカン 20℃ 1:50 20min



定番のピント等確認シーン。1/250秒5.6



 店内と外との輝度差が激しい。1/60秒2.5 輝度を多少下げ、コントラストを少し上げた。



 意外に露出が難しい。1/250秒5.6

《評価》

 明らかに低照度の部分が持ち上がる。特に1:100ではハイライトの差が大幅に縮まり、結果としてつぶれが避けられる。これは 現像液が静止に近い状態なので、ハイライト部は早く疲労して進まず、ダーク部は反応量が少ないので疲労が少なく、結果として 軟調になるとする説がある。または液が薄いので軟調効果を発揮するという見解もある。現像が上がったフイルムを見ると、 全体に濃い目の画像になる。抜けた部分がごく少なく、多少かぶっているという印象。

 検査機器が無いから何とも言えないが、1:100ではフイルム全体が似た濃度になった。これはベースフォグの増加と 軟調化であり、露出のバラツキを弱める作用がある。ただし、粒状性はエッジ効果によって団粒的になり、120にしては荒く 感じる。また、ベースフォグが強くなるという事だが、プリントやスキャニングで多少の硬調化を図れば容易に解決するから 私としては問題ではない。この3カットについてはスキャナーはオートで取り込んだまま、サイズのみ調整。焼きで多少 コントラストを強くすれば(3号相当で焼くなど)問題ないレベル。

 ラッキーはネオパンSSなどと同様にベースが透明で、逆光ではハレーションが起き易く、いわゆる「光を背にして写す」という 古典的お作法が必要なフイルムだが、この現像はそういう現象を弱める作用がある。ハレは出るが弱く、逆光でつぶれるはずの 暗い部分にトーンが残る。順光ではごくノーマルなトーンになるから、1:50は常用現像法として推奨できそうだ。

 ワンショット(1回使い捨て)現像なので反復使用しないから、きちんと密栓しておけば90日程度は十分保存できるようだ。 ロディナールの例では次第に色が濃くなり、結晶が出てくるようだが、期限内かつ軽く暖めれば問題ないだろう。

 PQ現像液として25倍程度に希釈したものなら反復使用も可能と推測した。計算的には1リットルで7−8本はいけるが 試していないのでテスト後に追加報告する。


☆本編を作成するに当たり、ツイッターにて話を展開した。液の濁り(錠剤の賦形剤)の問題は、単独でアルコールに溶き、その状態で 濾過して取り除き、アルコールを飛ばせばほぼ純粋なアセトアミノフェンが手に入る、など有益な情報が頂けた。これらは今後の製作に 生かせる。また、ブロムカリ添加でフォグを減らす処方などもあるので試してみたい。


☆Martin Zimelka氏、無尽探査機さん、tri-chromeさん、hirorishenさんに感謝!


追 hirorishenさんのご指摘により説明の不備(薬剤の混同)を改善 12/10

Dec 2016


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