無銘組立暗箱とCooke

これは四国のある高等学校写真部の備品、というより埋蔵文化財であった。リンクしているSonnarさんから修復依頼があり、作業した報告である。

今年の文化祭の出し物として、カメラオブスキュラとして暗箱背面に写る景色を見せたいとのことである。それで寫眞人口が増えれば良いことなので、お手伝いした。




作業と言っても特に大変なことは無い。付属のソルントンシャッターの先幕の交換と、二段目で半分近く切れていた蛇腹の手当てである。
黄色い矢印のところにある木ネジと、レンズ止めのネジを外せば簡単に内部に達する。どのシヤッターも構造は同じなので解説は省略するが、シャッター幕の交換はごく容易い。今回はできるだけオリジナルと言うことで、先幕のみ貼り変えた。この幕の竿は竹で作られていたのは驚きだが、強度はそこそこあるし軽く工作しやすいので、これは良い工夫かもしれない。



結局、蛇腹は一段だけ切り縮めた。それでもここまで伸びるので、実用上の不安は無い。4×5で150mmを使うとしても、これだけ伸びればベローズファクターを計算しなければならないほど接写になる。
したがって、300oくらいまでは普通に使えるだろう。実際に使うようになるかは別として、使えるまで修復しなければ意味が無いので、その他の穴などを点検し、保革油で養生した。



レンズをつけて後ろから見る。特に問題は無さそうだ。少し延ばしたところで十分ピントが来ると確認した。



ついていたレンズはCooke Anastigmat 210mm F4.5 である。
名レンズの誉れ高きクックのこの明るさは相当高価なものだったらしい。フィルターワクが少し曲がっていたほかは大きな傷もなく、清掃と絞りの錆取り、ドライ潤滑だけで実用上の不安は無い。
その他各部に注油し、錆を落としし磨いたのできれいになった。各部の作動もスムーズになった。面白いのは本来はライズ・フォール・ティルトのみ可能なアオリなのだが、フイルム側のスタンダード(ワク部分)のロックを緩めると、実用上意味があるほどスイングが可能になる。実質的に出来ないのはシフトのみで、対応できない撮影方法はごく少ないと思う。







《試写》

本体はキャビネ仕様なので改造しないと4×5などでは撮影できないが、カメラオブスキュラとして使うのなら原形が望ましい。
大判カメラの良い点であるレンズの流用と言うことで、撮影自体はレンズボードからクラウングラフィックに装着し、ソルントンシヤッターはオリジナルと言う条件で行った。
使用したのは4×5のモノクロと、FP100によるカラーとモノクロをテストした。
4×5はまだ現像していないので、ここではポラのもののみ発表する。



空にムラや汚れがあるのは私の管理が悪いからで、カメラに責任は無い。現物は露出オーバーにつき明るさのみ変換した。
ルーペで見ると素晴らしい解像である。本来のキャビネならこの二倍の面積になり、圧倒的な力を発揮するとわかる。古いレンズの曖昧な描写などではなく、実に精密なものだ。



これも同様である。無限がきっちり出るのは大判レンズの良い点だ。



カラーでもしっかりした画像が得られる。カラーバランスはさすがに紫外線の影響を感じるが、焼きでどうにでもなる範囲にあり、十分実用になるだろう。



激しい輝度の差と遠景・近景の描写を見ようと写したが、立派なものである。4×5のリバーサルで写せば他を圧倒する力があるだろう。

今回のテストではクックの実力の片鱗だけを見た気がする。またいつか自分のものとしてゆっくり試したいレンズだ。

☆Sonnarさん、学園祭の成功を祈ります。


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