小西六 Pearl TRS



国産最高の蛇腹機の一つとして名高いパール。特にそのレンズ性能はプロでも賞賛する人が多い。仲間にも所有する方が多く、私もベビーパールとセミパールはすでに使っている。
今回はパールTRS型だ。距離計は連動せず、その他の部分ではレンズがHexar F4.5なのが特徴だ。次のタイプから3.5になる。この4.5はセミパールのものと同じだろうと思うが、このレンズが良いという意見が意外にあり、スタイルからも欲しいと思っていた。しかし高い!

オークションに激しくジャンクなものが出た。蛇腹はぼろぼろ、タスキは曲がっていくら好きな人でも手を出さないレベル、その代わりに安い。こういうのが私向きだと無競争で手に入れた。



見事に惨めな状態だ。蛇腹は切れかけ、タスキどころかレンズボードがまともに出ていない。この状態で固まっている。(上が狂った状態、下は本来の位置)



中はこの通りヘロへロだ。定法どおり、軽く湿らせて直そうとしたが、そんなことで直るような変形ではない。
推測だが、フタを開くときにうまくリードしなくてまずタスキが引っかかり、それを無理してタスキと蛇腹が変形し、手に負えなくて放り出したものか。



試行錯誤しながらも、タスキを修復してまっすぐ出るようにした。幸にもリンクの曲がりは少なく、固定ピンも飛んでいなかったので、タスキのカシメを外して作り直すという最悪の事態だけは避けられた。平行度も先ず問題ないところになった。



幸と言うか、奇跡に近いがレンズは無傷でシャッターも遅めながら作動している。絞りは重いがこれも問題ない。



レンズやシャッターの清掃と蛇腹の補修を実施。コンパータイプの基本どおりなのでごく普通の作業。まあまあ使えそうだ。



先ずは完成。

「結果」




見事に光を引いていた。これでもあまりひどくないものを選んだのだが・・・一つふさいでも、ふたを一度開閉すると、次のピンホールが出現するという状態で、どんどん補修部が多くなり、畳み込むには厚くなり過ぎた。



覚悟を決めて蛇腹を作ることにした。現物から採寸して型紙を起こす。変形が多いので多少の余裕を取った。これが失敗の元だった。



型紙と薄い黒い紙とを重ねて接着、丸くして折る。型紙には山と谷折りがわかるようにしておかないと、作業が混乱する。結局どういう形になるのか把握していないと難しい。



皮を除いて完成したが、これはダメだった。わずかだが大きくて、取り付け部と干渉してしまう。多少でも干渉すると、たたむことができないし、こすってすぐピンホールができる。また、蛇腹の山谷の大きさは最後のボディー側の貼り付けに影響する。もう一度最初からやり直しになった。



二度目は大丈夫そうなので皮をまきつけて形にする。610さんにならい、ヤンピーは下に接着しないことにした。こうするとヤンピーに無理が掛からず、蛇腹のクセが出にくいのだ。内側だけ折れば良いので工作的に楽で、折りたたみも軽くなる。



堂々の完成。何度も張りなおしているのは秘密(爆)
内側の貼り付け修正はセメダインのスーパーXを使った。黒いので反射防止になり、硬くならないので収まりが良い。


普通の蛇腹の構造は、外の皮の下に矢紙(型を保つための板紙による型・遮光には貢献しない)、それに内部の絹幕(紙の場合もある)という構成だ。今回のものは完全に三重なのだが、開閉に特に問題なし。厚みに余裕が無ければ矢紙を省略しても大丈夫だと思う。タスキもしっかり直した。外観を清掃してついに完成。やったぜという心境になった。

☆最近の中判などに使われるプラスチックの蛇腹は、強度や形状の安定が良く、かびにくいしメンテナンスしやすいが、使用頻度が高いとある時点で突然折り切れが発生し、一気に使えなくなる。皮で作られたものはある意味で生きているので、手入れによっては寿命が長い。ツァイスの蛇腹はいまだに使えるものが多く、材質が決め手ともいえよう。残念ながら、国産は戦後のものでもそろそろ寿命が来ているものが多い。

このカメラにはアイレットが無い。これははなはだ不都合なので、ツァイスのイコンタのようなものを作って追加した。具体的にはアクセサシューとウラブタ開閉部に、平板の金具を入れて行った。もちろんいつでも原型に戻せるようにしてある。これはとても使いやすいので、ケースは不要だ。

《試写》

ここまでに2本失敗した。いろいろ面白いカット(当社比)があったはずだが全てパー。
各部の遮光紙なども全て交換したり追加した。フイルムはアクロス。



これは第二次対策前。まだピンホールがある



距離計調整が済んだ後。ごく近くに合わせてみた。



全て完了後。遠景もすっきり出る。もちろんフィルターは使っていない。



ほぼ至近距離、絞りは5.6だ。これなら良かろう。



近所にて



車の後から内部を写してみた。露出は室内に合わせて4.5、つまり開放である。



ピントを合わせた辺りの描写。まあ良いかなというところ。



ごく近所の家。ヘキサーらしい描写になったと思う。

セミパールのものと同じレンズと思っていたが、少し感じが違う。以前のものは傷が多くシャッターも怪しいので絶対とはいえないが、こちらの方が少しコントラストが高く、切れ味もある気がする。ヘキサーはヘキサノンに勝るという説もあるので、これからいろいろ写してみようと思う。

レストアでは蛇腹作りが最大の難物だった。大物用なら大きいし、皮も厚いので鼻歌でできるが(展開図を起こすのもやさしい)、こういう小さいものは極めて面倒だ。わずかの折位置の違いででこぼこになるし、角の処理が悪ければ捻る曲がるで収拾がつかなくなる。610さんが蛇腹製作を頼まれても、辛気臭い仕事で絶対に嫌だ、とおっしゃる気持ちが良くわかる。理論的には簡単だが、実践はそう甘いものではない。


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