PENTACON PENTONAU

普及型三枚玉のペントナUは、冷戦時代の東ドイツのペンタコンの製品である。実際の製造は東のツァイスらしい。レンズは、Mayer-Optik Gorlitz Trioplan 3.5/45
75oのトリオプランは使ったことがあり、三枚玉ながらなかなか良かった記憶があるから、これもその延長で端正な写真を作るだろうと期待した。



このカメラは、フジペット35で縁が出来たオランダ在住のRieさんから送られたものである。ちょっと不調と言うことで、レストアするところから話が始まった。



上部構造物はきわめて簡単に分解できる。左右のストラップ金具と巻上げレバーのネジだけと言う簡単さだ。




最初ファインダーを覗いたら驚いた。撮影画面外の部分が銀色に輝いている。夕日に向けたら金色に輝き、肝心の撮影部が見難い。理由は矢印の金属板であった。
反射型ブライトフレームもどきとでも言おうか、特に反射幕の無い前レンズの後にこの金属板が写り、輝くブライトフレームになっているのだ(笑)
いくらなんでもこれでは使いにくいので、パーマセルテープで周りを覆い、ごくわずか縁のみ反射するようにしたら、薄めのブライトフレームになった。これならまあ使える。
下の写真で左にあるのはファインダーの接眼レンズ。はめ込み式の厚い張り合わせレンズで、ここにはコストが掛かっている



このカメラの機構は変わっている。一つ一つは独立した単機能しか持たず、それが動くと次のものを押してリンクする構造だ。
まず巻上げレバーが動くと、これがラチェットでフイルムを巻き上げる(大体3ストローク)巻き上げられるフイルムがスプロケットを介して軸(赤)を回し、それが一周するところで巻き上げラチェットとぶつかり、こちらは停止させる。その時に軸についたカムにレバーの先端が入り、同時にレバーの先に着いたスプリング(黄)がカウンターを一齣押す。
フイルムの最後のテンションでカムが押されている時にシッャターを切ることが出来、シャッターが切れると巻き止めカムはフリー位置に戻り、次の巻上げが出来る・・・
この手順だと巻上げレバーが停止するとフイルムが逆転しそうだが、巻上げギアには別途にラチェットが入っていて、逆転を防止している。これを解除するのが白いレバーなので、巻き戻しにはこれを押し続ける必要がある。

以上の説明だと、詳しい方からは「いつシャッターをチャージするのか」という質問が入るだろう。
答えは「チャージしない」である。シャッターは4速エバセットなのだ、つまりいつでも何度でも切れるから、カムとレバーで押せないようにしているわけだ。
早い話が「オモカメに巻き止めとシャッターを押せない機構を組み込んだ」のである。コダックの初期プラカメに見られる手法に似ているが、こちらの方が芸が細かい。

実は、これがわかるまでに数時間掛かってしまった。何故そんな事態になったのかというと、ほとんどの部分は何も止めが無くて簡単に分解できる。(巻上げギア部・カウンター部)
おかげで軍艦部を外す時にバラバラになって、パズルになってしまった。特に巻き上げノブ下のラチェット用のごく細いバネが伸びてしまい、動作を検証して正規の形に直すのに苦労してしまった。万一このカメラを分解する方は、きちんと記録して慎重に願いたい(笑)

☆この怪しげな巻き上げ機構のため、駒間隔が非常に広い。5カットで1本にしないとネガカバーに収まらない。それも律儀に必ずその幅なのでそういう設定かもしれない<嘘




レンズとシャッターは前から簡単に分解できる。芋ネジを緩めて前玉回転式の基本どおりにすると、その下は黄色矢印のリング一本で固定されているのだ。
シャッターはピン一本で駆動され、駆動バネの振れる位置で速度を出している。分解は大変なので、必要なければ触らないのが吉。清掃と給油は外から出来る。
写真を写し忘れたが、ウラブタは取り外し式で、フイルム押さえにはピカピカの金属プレートがついている。



《試写》

シッャターが1/125までしかないから、アクロスで実施。左手で小さいレバーで分割約3回で一齣進む。また、シャッターは二段モーションで一段目に巻き止め解除する。ここで指を緩めると一枚無駄になってしまう。注意しないとガクッと押してしまい、手ぶれ大増産となる。



のっけから「なんだこりゃ!」である。水藻が揺れる川とわかるだろうか。これでも最高速で11まで絞っているのだ。これで色があれば、印象派の点描か、それもイギリスの風景作家たちの感じか。祖父が好きだったコローの雰囲気さえある。



これは11と16の間だが、意外にちゃんとしている(先のものに比べれは)



絞り開放、1/60秒・・・言葉無し

☆ここで本編の終わりにしようかと思ったが、カラーではどうなるかと思いついた。絞り込んでネガカラーのラティテュードを使えば、もう少しまともかという考えでやってみた。フジの400で絞りはほとんど22でシャッターは1/125固定。露出不足のカラーバランスはソフトでフォローと思ったが、そこまでは不要だった。



無限遠にしてみた。まあ何とか・・・ならんか



露出を計れば400のフイルムだから22の1/2000くらいにはなるだろう。ネガフイルムの底力でしっかり出ている。逆光補正が効き過ぎというところか。

〔感想〕

凄いレンズだ、ここまでグルグルのボケボケは初めてだ。本当に写真用のレンズなのか、レンズが足りないとか位置が狂っているとかは無いのかと改めて点検したが、そのような形跡は無い。立派な三枚玉に見える。しかし、私の知るトリオプランのイメージはまさにどこにも無い!
ソフトレンズとかホルガとかスメハチのロモ写真など、これと比べればお行儀の良い優等生、こいつは、はるか彼方のそのまた先を越えた(ひっくり返った)とんでもレンズだ。まあ色は好みで許される範囲に入るだろう。

それではこのカメラが嫌いかと言うと、そうでもない(笑)

ここまでにレストアしたりしていろいろ使ってきたが、これほど個性的な描写は見たことが無い。何を写しても「超シュール」な絵が撮れる。これを面白いと言わずば、汝何を面白いとぞ言うべき哉・・・ゲテモノかもしれないが、愛すべき質感と写りと見た!

《逆点!》

仲間からいろいろな評価があったが、たかさきさんの「レンズが裏じゃないの」が気になった。非常に面倒なところにある裏玉が臭い。これしか逆さには取り付けられない。



前板というより前全部を分解する構造だった。黄色い印のところのネジを緩めると下がはずれ、上はダイカストに引っ掛けてあるだけと判明、裏玉にアクセスできるようになった。



外すとこうなる



このように三点で止められている。セットリングの外側はテーパーで、一応平行は保たれるのだが、センターはなかなか出ない。何度か組み立ててピントグラスで確認して合わせた。



ついにトリオプランらしい描写を回復した。裏玉は間違って組みつけられていたのだった!



これはまだセンター調整が済んでいないもの。左半分は非常に良くなっている。もう少しレンズをシフトする必要があると確認し、最終調整したのだった。

☆ということで、これでやっとこのカメラを語れる。それにしても、どうして裏玉を裏返しにしてあったのだろう。面倒な前板外しが出来るスキルの人が不安定な形にレンズを固定した理由がわからない。全ては謎だが、何はともあれ一安心した。

《謝辞》

Rieさん、実に面白いカメラをありがとうございます。結構はまりました。いろいろ写して遊ばせていただきます。故障カメラにはこういう組間違いもあるのを知りながら、発見できなかった自分のスキルが、まだまだ足りないことも痛感いたしました。今後も精進いたします。ありがとうございました。


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