610寫眞機製作所 Rembrandt-II

手作りカメラに詳しくない方には初めてのメーカー名かもしれないが、610寫眞機製作所は博多の手作りカメラ名人、610氏の技術と作品を世に送り出しているオーダーメイドカメラの会社である。
そこで作られるカメラは、その価値がわかる人たちによってひそかに喧伝され、使われている。特に、4×5二眼レフや4×5レンジファインダー機は、その軽量と実用性の高さで人気が高く、多くのプロやわかる人によって宝物の如く愛用されている。

610氏の作品は、単に部品をアセンブルした自己満足用の手作りカメラではない。カメラ専業メーカーレベルの高度な技術と、長年の計測機械設計・製作の技術を生かしたプロの技で、素晴らしい性能を発揮している。また、610氏は「私は下手です」と謙遜するが、温かい目で写す写真のレベルが高く、「写真がわかる、写せる技術者」のカメラである。一台ごとに発注者の希望(無理難題とも言う)を取り入れて、次々に斬新な工夫を取り入れている。古典カメラの構造手法を高い加工技術で現代カメラに生かす、類希なカメラ群と言えば良いのだろうか。

インターネットのおかげで610氏と知り合うことが出来、そのカメラを使い、また技術指導が受けられることが出来るようになったのは、拙い自作をする私には大変な幸運だ。

610氏公式ページ(本カメラは手作りカメラ欄に詳細な製作記とともにあり)

さて、本カメラは610氏の初期の作品である。試作後には立派な写真を写して役目を終わり、棚に眠っていたのだが、今般ホームページの10万カウント達成を記念して譲っていただけることになった。



到着時にはレンズは無く、ピントフードも他に流用されていて、ここから仕上げよとのことだった。早速手持ちのレンズで仮ボードを作り、仮止めしてみた。



全体の長さを圧縮するために、ミラー位置は45度より深く、ピントグラスも前傾している。これによってレトロフォーカスタイプでは無いレンズでも90ミリ程度まで使える。手持ちの大判用レンズを流用するのにありがたい構造だ。



仮止めしたレンズは、ホースマンなどにも使われるローデンシュトックのシロナー150mm5.6で、ボードは木枠によって前進させてある。105mmなどでは専用ボードに直接漬けて使うことになる。



ピントフードはベニア板による固定式とした。私は老眼だが眼鏡は撮影の邪魔なので、ルーペは拡大というより視度調整のためとし、ジャンクのズームレンズから倍率の低い物を流用して装着した。完全なフードなので、暗いレンズでもピントグラスは良好に見える。もちろん全画面が見渡せるようになっている。



古典的フォーカルプレーンシャッターだが、1/1000秒まであるから、実用には事欠かない。



フォーマットは69で、マミヤプレスのホルダーだが、上から見るとS字になっていない。なんとその部分を切り落として180度変更し、ボディーに対する干渉を防いでいるのだ。この部分はしっかりしているから強度の不安は無い。



ストラップ掛けは片側に二個あるが、水平につるすために増設した。ストラップを首に掛けて、上から覗く平均的な中判一眼レフの使い方がこれで可能になった。

《試写》

一眼レフなのでレンズ交換可能である。テストとしてはファインダーとシャッター精度、全体の使い勝手だけだ。曇りなのでプレストで試して見た。



近接はこのレンズでは60cm程度までだが、開放でもすっきり写った。100mm程度のレンズだと接写レベルまで近寄ることが出来る。もちろん鑑筒延長ボックスを用意すれば、等倍撮影さえそれほど難しくないのだ。



ピントを合わせた部分の拡大図。見事なピント性能である。



3メートルほどのところ。雨が降る中で実に正確な描写である。



いつも使うアクロスと錯覚して逆光補正しすぎたが、顔は何とか使える。

写真の評価はレンズの結果に過ぎないが、システムとして非常に使いやすい。スペシャルルビーやグラフレックスなどの過去の定評ある木製一眼レフと比較してもまったく遜色が無い。また、内部反射を徹底して除くように作られているので、逆光でも問題なく使え、適切なレンズと組み合わせれば、スナップも十分可能な機動性がある。ヤシカのポラロイド用の127oが現在の候補だ。精密描写の一眼レフとして、そのくらいの長さがちょうど良いだろうとおもう。
これから長くここ一番の時に使うことになろう。Rembrandt-Tの末裔、つまり610さんがお手本としたリトレックと併用して。

☆610さん、貴重なものをありがとうございます。大事に使います。


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