KONISHIROKU KONIFLEX

小西六のコニフレックス、この名前はずいぶん前から聞いている。すばらしい作品も見ている。しかしなかなか高価で縁が無い。(と言うより円がない・笑)
このカメラはJFC仲間、Takaさんのカメラである。私がレストアを担当したのだ。バッフルが無いので初期型だろう。

ことの起こりはもう一年以上も前、Takaさんがコーディネートしてくれた焼津オフ会の時である。カメラ談義の中でこのカメラ、正確にはこのシャッターが登場した。

「これは直りますか」というTakaさんに、レストアの大先輩諸氏が「いくらなんでも無理でしょう」という判定だった。私も一目見てこれはどうにもならないだろうと思ったものだ。



この写真は我が家に到着し、油に漬けた後のもの、それでもこの状態である。

ベテランの面々が無理だというのは不思議ない。全ての軸とスプリングが錆びていて、動く部分が無いのだ。シャッター羽根も変形し、張り付いたまままったく動かない。
これでは無理というのも良くわかる。海に落ちたカメラをそのまましておいたのではないかと言うほどの錆び具合だ。直すなど到底考えられなかった。もちろん私もまったくどうにもならないと言ってしまった。Takaさんの落胆が気にはなっていたのだが・・・・・


最近Takaさんは、デジタル一眼レフでいろいろなクラシックカメラ用のレンズを写すことを始めた。それらの作品を見ているうちに、このカメラを思い出した。シャッターはともかく絞りは何とかなるだろうから、このレンズをデジタルで写すことは可能だろうと思った。

そこで、Takaさんに提案し、その前に万一直ればそれに越したことはないということで、一応分解することにした。既にばらばらの部品状態だったが、シャッター付近の分解に取り掛かった。内心、これで直ったら奇跡だと思いながら。



裏から見たところ、絞りもしっかり錆びていたが、これは何とか動きそうだ。それにしても、全てのねじ山にアルミナが見えている。これは一筋縄ではいかないぞとも思った。



これでもシャッターの羽根である・・・錆びて固まってワンブロックになっている。
どこから手をつけたらよいかわからないので、何はともあれ油に漬け込んだ。



数日後、一枚ずつはがしていった。変形に注意しながらピンセットや針で錆付をはがしながらの作業である。
5つのピンに6枚の羽根と言う時々ある形式だ。高速シャッターの羽根の外れ防止の役目かと思う。



何とか分解に成功した。羽根は重なった部分が錆びてボコボコである。可動・固定ピンも良くわからないほど錆びている。



羽根同士を重ねて擦り合わせて基本の錆を取る。やっとどんな表面か見えたのでこのまま再びオイル漬け。



ところで、前球は内外ともに水がついたまま固まったような汚れがある。しかし、手やゴムなどではまったく分解できない。
最悪の場合はレンズが割れることをTakaさんに覚悟してもらい、懐かしのバイクレストアと同じ方法で緩めることに挑戦した。
バイスプライヤーとウォーターポンププライヤーで強引に廻したが、本当にもう少しで後玉を割るところだった。今回のレストアで最大の力と神経を使った部分である。

外れはしたが、ねじ山は傷だらけになったので、思い切って1/3ほどのねじ山をヤスリで削ってしまった。こうすれば、再び使えると見たからである。
組み込み時に残ったねじ山で十分なストロークがある場合、舐めてしまったネジは直すより削った方がきれいに収まるのだ。ただし、正確にもとのネジにあわせて締めるのは至難の業である。ピッチが細かいネジなので、少しでもずれたら斜めになり、間違ったネジを切ってしまう確率が大きいのだ。(ただし、一度しっかり入ればその後は心配ない。)

★まさかいないとは思うが、もし同様の作業をする方は、自己責任にて実行願いたい。

レンズは水垢のようなものと、カビその他で完全に曇っていた。少し拭いたくらいではまったくどうにもならない。止む無く酸化セリウムで最小限磨いたところ、復活した。元々コーティングはほとんどアウトだったし、この方法でなければ救えないので仕方ないだろう。(試写では特に歪みは生じなかった)



きれいになった前玉と中玉。右の写真は周りが傷だらけの中玉のアップ。見やすくするために色や輝度を調整している。



巻き上げは固く、カウンターは動かないので右サイドを分解したら、まさに何もない。巻き上げ解除ボタンは中を通って逆サイドに通じているだけだ。前板の繰り出し機構のみである。



逆サイドを開けようと皮をはいだが、止めネジがすべて錆びていて、オイルを付けてもまったくどうにも動かない。側板は予想通り見事に腐食している。もちろんワイヤブラシで錆音視したのは言うまでも無い。



結局、ボール盤に固定してネジの頭を落として分解、後は接着ということにした。内部は単なる油切れだったので、注油してしばらく置いたらあっさり直った。



前板周りには大きなダメージはない。不思議なことに、前板は無限遠よりずっと奥まで引っ込む構造である。
付けられているレンズは85oF3.5のヘキサノンである。一般より長い焦点距離や、75oでも装着可能なバックフォーカス長が取りうる点、大きいシャッター径から見て、将来もっと大口径の80oF2.8などのレンズを付けられるようにしていたとも考えられるが、あくまで推測だ。



ついでにファインター周りを清掃した。コンデンサーレンズの下側を曇りガラスにし、深い切れ目で水平線と垂直線を入れる独特の構造だ。



ファインダーはとても見やすく、周辺まで明るい。



さて、再びシャッターに戻る。既に絞りは滑らかに動くようになった。



あまり変化しているように見えないだろうが、これでも出来る限り錆を落とし、油と一緒に各部を少しずつ動かして、次第に機能が回復しだしたところだ。この作業だけで、都合3日かかってしまった。
レストアのベテランなら「なぜスローガバナーなどを外さないのか、作業が楽なのに」と思うだろう。私も当然そう思ったのだが、いくら油に漬けてもこれらのネジは回らなかったのだ。硬くなっていて、ネジ頭が錆びているので、ドライバーが滑る。ショックドライバーでも無ければ無理だが、そうすると召すネジが痛んでしまうだろう。したがって、全て外さずに作業したのだ。
また、部品は全て固定されていて(シャッター羽根以外)外しにくい構造である。原始的だが何度も動かして油を廻し、軽くなるまで繰り返した。シャッターレリーズレバーはもっとも硬くなっていて、最初はラジオペンチが必要だった。数百回動かすと何とか軽くなったのだ。これでシャッターのセクタリングも軽く作動するようになった・・・・・先が見えた!



ほとどの部分が動くようになった。高速側と低速側のスローガバナーは、割り箸でギヤを強制的に廻しているうちに滑らかに動くようになった。2日ほどベンジンに漬け、あらためてブレーキクリーナーとベンジンで油を落とし、ガバナーなどに注油した後、シャッター羽根のアセンブリーテストを開始した。

ところが、開いたシャッターが閉じない。閉じかけてストップする。再度分解し、羽根の一枚に割れを発見したので、あらためて5枚で組んでみたが、まともに閉じない。残った錆と、シャッター羽根の変形が原因なので、羽の変形をもう一度修正し、仕上げ砥石で一枚ずつ研ぎ上げたところ、スムーズに動くようになった。(軽くなりすぎて、シャッター音はカチャンという情けないものになってしまった・笑)



まだ1/25秒以下のスローが効かない。高速側のガバナーは作動しているが、低速側のスリッパ上の部品にテンションを与えるごく細いスプリングが、錆びて折れてしまっている。

狭いところなので、代わりのスプリングを入れる手段が無い。そこで、折れた残りのところに細い電線のビニール被覆を差し込んで、これを引っ張る形でテンションを与えたところ、低速も復活した。バルブのスプリングも折れていて使えないが、こちらは実用上問題ないので作業しなかった。

☆シャッターの基本スプリングが錆びて劣化しているので、1/400秒は使わない方が良いと思う。正規の位置からもう一段引っ張って1/400秒を得ているので、バネの負担が大きいと思うのだ。



これにて修復作業終了、部品をアセンブルして、塗装のタッチアップなどを行った。
これは巻き戻しノブの再塗装を行い乾燥中のところ。ようやく作業完了となった。



完成図・前板に皮を張る前である。現物はもっとすっきりしている。


《試写》

何はともあれ試写してみた。最初は恐る恐る、なかなか使いやすいので、途中からリズムに乗っていろいろ写した。一本の予定が、アクロスとプレストの両方を試すことになった。

『モノクロ』



ファーストカット、アクロス。幸いピントも大丈夫のようだ。



露出不足だが、近距離でもまず問題なし。



1/100秒だが風が非常に強く、ピントを合わせた花は激しく揺れていた。これは風で花が揺れて幻想的になるのを狙ったつもりだが、見事に外した例である・笑

この辺から「試写モード」から「本気モード」に変わってきた。見やすいファインダーとレバーでもボタンでも切れるシャッターが使いやすく、レストア後の試写と言うことを忘れがちになった。
85oは同時に比較のために持ち出したイコフレックスの75oと見比べると長焦点だ。しかし、ファインダーが周辺まで見やすいので、トリミング無しで近寄ろうと思えばまったく問題を感じなかった。むしろ、同じ位置では75oは広角だと感じた。



逆光だがフレアーとかゴーストなし。暗部のトーンも出ている。



順光ではすっきり描写だ。



引っ掛け釣りをしていた人。次々にボラを引っ掛けている。猫の餌用だそうだ。



改装中の灯台。ハイライトをスポットメーターで測り、その値から1EV明るくした。輝度差のある被写体の描写は問題ない。むしろ、暗い部分がここまで出るのは驚きだ。



工事用のシート・ここからプレスト


海岸のゴミ。斜光線で画角外ぎりぎりに太陽がある。ファインダーではよくピントが見えなかった。フード無しなのでこの程度のフレアーは許容範囲か。



肉眼でもまぶしい直射だ。ISO400のフイルムで、1/200秒F16だからラティテュードを頼りに写した。普通ならNDを使うところだ。いわゆるドオーバーだが何とか耐えている。もちろん多少のフレアーがあるのは仕方ないところだと思う。

☆モノクロでのトーンはさすがだ。柔らかいが芯のある描写、さすがのヘキサノン。

『リバーサル』

丸尾自然公園の周りで撮影。ほぼ快晴だが多少空気中のガスがある。これでも今年としては良い方だ。天候不順でクリアーな遠景は望めない。フイルムはフジのアスティアを使った。以前常用したRVPは風景に良いという人が多いが、きつい発色でレンズが何でも似たものになってしまう気がする。人物用途が主体のアスティアは、景色でも穏かに写ると思う。稀に写すカラーはこれにしている。



一番手前の柿に焦点をあわせたら、他がボケてしまった。F11だが深度は浅い



開放で1/50秒、確かにこの描写だと皺は写りそうにも無い。ソフトフォーカスレンズに近いかな。



富士山の雪に合わせたがこれでも雪はオーバー、なんとも不思議な色合いだ。



ベンチのみ極端に明るかった。ハイライトは飽和しているが、ポジではしっかり出ている。スキャン処理が下手なせいだと思う。



これは見た感じに非常に近い。しっとり写っている。ピントの点も問題ない。

☆このレンズの評価は難しい。経験の浅いリバーサルでは正直なところ良くわからない。モノクロでは条件によって非常に深いトーンが出る感じがする。今までのレンズの特性とはまた違っていると思う。;レンズを磨いたことも、フレアーや発色に影響していると考えられ、これがコニフレックスの実力と考えるのは控えたい。
このレンズの真価はいろいろ写してデータを取らないと、なかなか難しいだろう。この辺のことは、オーナーの工夫に待とう。私としては、「写った」ことが最大の感激なのだから。


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