ニコノス初期型は、教え子のみやっちが持ち込んできた。
ニコノスは世界で最初の実用的35o水中カメラで、フランスの「カリプソ」に端を発し、日本光学がライセンスを取得して改良、この初期型を作った。このカメラの仲間が水中撮影の世界を広げた、というより、このカメラで水中撮影が写真のジャンルになったといっても過言ではない。
その防水性能は当時としては驚異的で、日光中禅寺湖での耐圧破壊試験(アサカメかカメラ毎日だったと思う)では、保証性能をはるかに上回る140メートルまで無事だったという素晴らしいものだ。
ニコノスのジャンクのお約束どおり、ボディー開閉レバー兼用の吊り下げ部が壊れている。もう一つおまけに、持ち込まれたときはまったく固まっていた。ボディーがまったく分解できないという状態だった。
みやっちが赤い顔でレンズを捻ってもびくともしなかった。私も最初はどうにもならないのではと思ったが、久しぶりに全力を出したら動いた。まだ腕力だけは大丈夫のようだ(笑)
このカメラはどこかの工事会社が使っていたようだ。払い下げ品を手にした二番目以降の所有者が、レンズを外してから本体をハウジングから外すというお約束を知らずに、ドライバーなどでこじ開けようとした傷が、背面に残っていて痛々しい。これで何とか作業の目処が立った。幸いにもシャッターなどは元気である。
ニコンのサービスに問い合わせたところ、既にサポートは無く、V型用のOリングのみ保守部品として使えるが、完全な互換性はないとのこと。部品交換が無ければシャッターメンテナンスは行っているようだ。
日常生活防水程度なら現状でもなんら問題ないので、ひとまず軽くグリスアップで済ませた。
問題のフックは手作りするしかない。外して採寸することは無理なので、適当に作って現物合わせということにした。
採寸状況。コンマ以下の精度は必要ない。レバー部はジュラルミンのようだが、入手不能だから、普通のアルミで少し太めに作ることにした。リンクはステンレスの薄板で、3oの真鍮丸棒でかしめると計画を立てて加工開始。
これで何とか形になった。最後の組み立てはカメラのすぐ脇でハンマーを使ってカシメた。本来はその後にピンの頭を削って面一にするのだが、工具的に無理なので、裏側は多少ピンが出ているが、機能的には問題なく、しっかり使えるようになった。(写真は成形中のもの、この後に微調整して表面を一応きれいにした)
裏のハウジングには、旧ニコンのマークがしっかり付けられている。私はU型を使っていたのだがこのマークは見た記憶が無い。
1961年新発売、U型でも1963年ということは、今から40年も前のこと、完成度の高さはさすがだと思う。
ちょっと見にはわからない程度に仕上がった(?)。ぶつけてへこんでいたフィルター枠は直し、昔使っていたレンズ保護用のプラスチック枠(何とまだしっかりしていた。中は黒く塗った)を取り付け、塗装のタッチアップをして一先ず完了。Oリングの手当てが済むまで陸上用ということで、試写することにした。
《試写》
プレストにて一本写してみた。いつもの港だが、久しぶりの快晴でほとんどが1/500秒で絞り22である。パンフォーカスの見本のような写真だ。
この一枚には少しシャッタームラがあった。使っているうちにほとんど目立たなくなった。
もっとピーキーになるかと思ったのだが、意外なほど諧調が出るレンズだ。そう言えば、昔の写真でも他のニッコールより軟調だった。このレンズ自体はX型まで変わっていないということだから、こういう特性なのだろう。
これは、室内で開放1/30秒(Bを除く最低速)である。意外なほど素直に写っている。これなら普通のスナップに使える(レバー式で押しにくいシャッターを除けば)。現在ではコマ間隔がずれている。巻上げごとに一コマ広くなるが、スキャン時に注意すれば問題ないのでこのまま使えると思う。
30年ぶりのニコノス、ジープのようなごつさが懐かしい。