MINOLTA VEST (BEST)



特徴ある三段伸ばしのカメラで、作られた数の割には良く見る。名前が「MARBLE」と表記されていることが多いが、それはシャッターの名前で、正式には「MINOLTA VEST」または「MINOLTA BEST」が正しいようだ(カメラペディア・http://www.camerapedia.org/wiki/Minolta_Vest・による)

1934年(昭和9年)に発売開始、1940年(昭和15年)までカタログ掲載ということだから、まさに大戦前のものである。127フイルムを使う、いわゆる「ベスト判」で、6×4.5(横長)とマスクによる3×4(縦長)の二つのフォーマットで写せる。ユニークな鏡筒(と言うより三段重ねの重箱)を持ち、一部ではセミミノルタのレンズを搭載したから、当時のポケット用高級カメラだろう。
初期のものは固定鏡筒にF8、後に回転ヘリコイドの目測で、5.6や4.5があり、短期間にいろいろマイナーチェンジしたらしい。私のものは最初の形式ではなく改良型だが、ミノルタの正式社名がモルタ商會の頃のものである。ただし、ミノルタは既に製品名として正式に使われている(ケース前面に表記あり)



この形には人気があり、オークションに良く出るのだがなかなか落ちなかった。手に入れたのはレンズ周り以外の皮がすべてなく、無限遠ストッパーも紛失した個体。ただし、エバセットのシャッターはちゃんと動く。もともとノンコートだけに、レンズに大きな傷や汚れは無い。使い続けてきたとすれば、程度は良いといえよう。



念のためピント位置を確認。75mmで5.6なので画像は極めて暗く、なかなかピントの山が見えないが、まあ合っている様だ。高速は無いがタイムがあるのでこういうときは便利だ。



前面両側の皮が無く、巻き上げノブの延長パーツも無い。このままではケースに入れると巻上げ不能だ。



あり合わせの巻き戻しノブをエポキシで接着、形は悪いがこれで巻ける。後で何かキャップをする予定。



アパーチャーグリルはすっきりしている。下に少し写っているアタッチメントで、645から34フォーマットに変更できるが、34は135フイルムより少し大きいだけで、レンズは75oなので少し望遠になる。これが「ベスト半裁判」で、大正生まれの私の母には一番なじみのフォーマットだそうだ。外国の34カメラはその狭さを利用したミニカメラで、50oレンズをつけたものがほとんどなので、物が不足した時代(作られたのは日中戦争の頃)にそれでも写真を写すための工夫だろう。





三段伸ばしは意外にしっかりしている。シリコンをつけたらスムーズでガタが無く、撮影中に不安になることは無い



ファインダーはフレームだけ、これが本物の100パーセントファインダーだ。オレンジのマスクを外すと645の画面になる

《試写》

最初はどんな結果か不安だったのでハーフ=34のモノクロで写してみた。アクロスを使ったのだが、あいにくの本曇りで、5.6開放1/50秒か1/100秒である。



遠景は甘い



近景も甘いが、目測で無理やりの1/50秒(シャッターがレバー操作で極めて手ブレしやすい)だからまあこんなものか



5.6と8の間に絞った。まあ出ている

☆暗くて絞れないことと、ハーフフォーマットにしたことで「時代から見てこんなものか」と思ったが、明るいところでフルサイズではどうかと思い立ち、ベルビアから127を切り出してリバーサルに挑戦した。
モノクロ結果からシャッターはそこそこ動いているとわかったので、露出計に従って写してみた。スキャナの不調でポジの色がおかしいので、フォトショップで調整している。私は色の扱いが下手なのでその点は割引願いたい、フイルムではもっとずっと出ている。



入射光式で5.6−8の1/125というところ。アンダー承知で8で写した。光線引きはフイルムのカブリでカメラの責任ではない。左右はフイルム固定テープと重なってしまったのでトリミングしている。



16まで絞り込んでいる。それでも少しオーバー



2メートルくらいである。絞りは11-16の間にした

フルサイズで絞り込むと、予想外に良い。浜辺の強い紫外線も含め、すべての可視光線を通している感じだが、素直な色はノンコートのレンズの美点だろう。

☆これは昭和10年代半ばのカメラである。日中戦争が全面戦争になり、アメリカとの開戦も間近い頃、非常に物の不足する時代に、手抜きの無いボディーとしっかりしたレンズをつけたものだ。ノンコートで前玉回転式の三枚玉だが、この時代の外国製品に十分対抗できる仕上がりだと思う。草創期のモルタ商會時代から続くミノルタのしっかりした物づくりを感じる。
こういう会社がカメラメーカーとして立ち行かなくなったのは、カメラの性能ではなく、イメージ先行のあざとい商法に負けたからだと思う。誠実なメーカーを永遠に失い、極めて無念である。


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