日本光学 NIKON F

写し続けている人には、それぞれに初めてのカメラがある。写しているうちに要求水準が上がって、あるいは新しいとか単にかっこいいからという理由で次のカメラ、その次のカメラと手に入れていったとしても、最初に手にしたカメラは忘れがたいものだ。

私の第一号はマミヤ35U、二番目はオリンパスペンF、そして三番目がニコンFだ。
三番目ではあるが、自分で買った一号機にして、一番写しているカメラなので思い入れが一杯ある。

もちろん1960年代に売り出されたニコンFには、今の基準ではなく、70年代基準で欠点を上げても枚挙に暇が無い。
「シャッターボタンがおかしなところについている」「ウラブタを外すフイルム交換は非常に不便」「大艦巨砲主義の時代遅れ連動露出計システム」「高くて手に入りにくいレンズやアクセサリー」・・・

私にとって、それらの点は全く気にならなかった。最高峰と言われたカメラに対する憧れから手に入れたので、これこそスタンダード、仕様に合わせて操作すれば良いと思っていた。よって不都合は無かった。



今回ご紹介するのは、大阪在住のT氏・E氏から貰ったセットである。今までの写真仲間ではなく、今年になってしばらくした頃、新幹線の撮影に来ていたT氏とたまたま遭遇し、ちょっと話しているうちに意気投合したのが馴れ初めだ。

その後、そのまた友人のE氏ともお知り合いになった。大量のフイルムとニコンFは、お二人がデジタルに完全移行しているので、不要だから使えと言うことで戴いてしまったのである。



私のものから見たら、圧倒的にきれいである。本体は数年前にオーバーホールされていて全く問題ない。ただし、使われていなかった50oは、ヘリコイドが固まっていたので整備した。



このレンズは基本的に前から分解する。ネームリングにあるロックネジを少し緩めると、前枠をねじり外すことができる。



前玉を緩めると、後玉も絞りユニット込みで前に抜き取れる。整備性は極めて良い。レンズ・絞り清掃ならこれで完全にできる。



ヘリコイドの整備のため、マウントも外す。矢印のリングは乱反射防止リングだが、これは抜く必要が無い。マウント部は緩み防止されているので、きちんとしたドライバーでしっかり緩めないとならないが、難しくはない。



直進ダブルヘリコイドは分解しなかった。非常にきっちり作られているから、分解したら組むのが大変だ。隙間からスーパーCRCを吹き込み、しばらく置いてから動かすとグリスとなじみ適度な重さになった。CRCは絶対にレンズにつけてはならないので、その後徹底的に拭き取り、手を洗剤で洗ってからレンズを清掃した。



組み立て中。レンズ清掃はオキシドールと綿棒、クリーニングペーパー、ブロアーで行う



完成。1970年代前半に、カメラ雑誌のレンズテストで50oレンズの部で最高性能を発揮したのはこのニッコールF2.0 である。私はそんなこととはつゆ知らず、一番安いから手に入れたのだが、リバースリングで接写でも十分使えた優れものだ。



無限遠まですっきり動くようになった。



基本形。ペンタプリズムは腐食も無くきれいな視野だ



今では極めて珍しい、ちゃんと使えるフォトミックFTnファインダーをつけた状態。確かにごつい



シリアルナンバーから、比較的後期のものとわかった

《塗装》

これで完璧な一台が手に入ったので、このカメラをメインとし、今までのものはだいぶガタが来ているので整備した。

一号機は外観がボロボロなので塗装することにした。オリジナルのママが良いのだが、はるか昔、目立たぬようにと艶消し黒でいい加減に塗り、後に汚くなって剥がす時に傷だらけにしてしまったので、今は見る影もなく汚くなっている。この際塗りなおしてお化粧直しだ。

☆当然ながらメンテでニコンに出すことは出来なくなるから、今後の故障修理は自力になる。





我家のものでは二号機が一番古い。仕事で酷使されたものを中古として買い、ニコンで整備してもらった物だ。プリズム腐食が少しあるので分解してみたら、既に補修されていた。アルミテープを手際よく貼ってあるのは部品が無いので応急処置したものなのだろう。もっとひどくなったら自力で銀鏡反応で再銀メッキすることにして一先ず清掃のみとした。ファインダーは3台に5個あるから困ることは無い。



分解開始。外からネジが見えにくい構造だが、定期整備を前提の構造なので意外に簡単に分解できる。



本来カウンターの分解は必要ではない。給油もかねていたのでちょっと様子を見た。ここは分解しない方が良い。



軍艦部は分解できた。左側はアクセサリーシュー取り付け部を外し、ホットシューの接点も外すと分解できる。



右側はぶつけて凸凹だったので叩きなおして研いで軽く平面を出した。





開閉キーは複雑な構造だ。記録せずに分解するとひどい目に合うだろう。



マスキング完了、この後アルコールとパーツクリーナーで脱脂して塗装するので、以後は手袋をして取り扱う。



塗装中。ミッチャクロンを下に吹いて、二液式ウレタンを吹いた。熱をかけられない本体とウラブタ(皮が剥がしにくい)以外はオーブントースターで焼付けとした。



完成図。Fのヘッドマークの彫りははごく細く浅いので、ウレタンで埋まってしまった。無理をしてもきれいにはならないので色は入れないことにした。後日にもう一つのファインダーの吹きつけを少なくして再挑戦する予定。
まあ遠くから見ればきれいになった、かもしれない(笑)


《試写》

テストボディーは頂いたものを主とした。三枚目の花は再塗装したもので、ベルビア(旧・今回頂いたもの)とプレストで行った。レンズは頂いた50o一本勝負である。FTnファインダーの露出計がちゃんと動いていたので、それを基準にして写した。特に特別な露出補正はしなかった



現像がオーバーでシュールな色になってしまった



ピントが甘いのではなく、ちょっと手ブレしてしまった。期限切れベルビアの感度を25として設定したので、シャッターが遅くなったせいでもあるが、ちょっと反省・・



庭の花、これは後日の撮影・現像



距離1メートル、シャッターは1/500秒、激しく風に揺れていたが、きちんと止まった



1/250秒ほぼ絞り開放



曇りだが比較的明るく、感度400設定で1/500秒、絞りは11と16の間

☆私には二番目に使い慣れた状態(常用レンズは35of2.0だった)だが新鮮に感じた。このレンズは同じものと、Aiのものを持っているが、最近は50oを使うことがほとんどなく、常用する35oレンズとの比較では、望遠で切り取る感じがした。被写体の最重要部のみ切り取る感じだ。

このレポートでは画質やボケ味などの評価はしない。なぜなら私にはこれが基準だからだ。したがって良くもなければ悪くも無い。とまれ、淡々と仕事をこなす正確で律儀なレンズでありカメラである。

☆初号機を塗ったのは文化財破壊と言う意見もあるだろう。これは私の不徳と感受するが、汚いので使わなくなるより、きれいにして使うべきと割り切った結果だ。

ただし、この作業中に部品をいくつか落として紛失しまったのは反省している。思いもかけないところで手が引っかかったりした結果である。一先ず一番古く痛んでいる二号機から拝借して一号を組んだ。もちろん代替部品で二号機を使える状態にする予定(目処は立っている)


《謝辞》

Tさん、Eさん、貴重なものをありがとうございました。私の最も信頼するカメラとして愛用させて頂きます。
また当地に写しに来て下さい。お待ちしています。



戻る