安原一式



この安原一式は仲間のナンマイダーさんから飛んできた。落として壊れた(正確にはカメラの上にご本人が落ちた)ということだ。遊ぶならどうぞと言う事なので、手持ちのものとバーターした。





軍艦部の大砲の乗るところが分解されていた。一見大したことが無いように見えるが、矢印のところが曲がっている。この変形で前面ガラスが割れたのだから、上の部分が助かっているのは運が良いというべきだろう。(漏れ承ったところでは、推定103sが座る感じで落っこちてきたそうだ。それでこの損傷は金属カメラだからだろう。プラスチックだと恐ろしいことになっていたと思われる)

記事の内覧をしていただいたナンマイダーさんから、詳しい話が聞けたので掲載する。


前略 リュックの中に梱包材にくるんだ状態でいれておりましたが、そこで凍結した路面(坂道)でひっくり返ったわけでして、安原が潰れなければ私は後頭部を打って昇天しておりました・・・


つまり命を救ってくれたカメラというわけだ。これは是非とも直してやらねばなるまい。



出た、ぶっ叩きセット(笑)



角度を見ながらプラスチックハンマーで少しずつ修整してゆく。普通の板金作業では、裏金を当てて表面から叩き出してゆく。その後はパテと研ぎ出しで再塗装するのだが、メッキが痛んでいないから表面を叩くのは最小限にして、裏からたたきだすのを主にした。相手は角材だが、微妙に丸め、角を落としている。こうしないと確実に筋が出てしまう。タコ棒(先が丸い木の棒で、へこんだところにあててハンマーで叩く道具)などもありあわせのものから適当に作ったり流用したりする。
写真は曲がった角の修正中。こういうところは少しずつ、やりすぎないように注意しながら作業する。



これで良しと仮組みしたら、どうも上手くセットできない。下の部分の矢印のところが変形している。巻き戻し軸の下のウラブタ開閉のロック機構が上手く作動しない。全体に向かって右前に押される変形だ。

結局、下の部分も外して直すことになった。



矢印のところを中心に修整した。



ほぼ板金作業が終わったので、割れていたガラスから採寸してアクリル板を切り出す。ちょうど厚みの合う透明ガラスが手元になかったからだが、手に入れば入れ替える(かも知れない)



ガラスを入れた。矢印のところのスタッドが緩んで曲がっているのを発見。締めると曲がってしまう。下の取り付けから曲がってしまったというわけなので、無理せずそのままにした。



まあこれで機能は大丈夫だし、ちょっと見たくらいではわからないだろう。







『辛口カメラ評価』

さしあたりキヤノンの50o1.4を入れて記念撮影。カメラとしては特別なことは何も無い。キヤノン7S辺りとほぼ同等の機能ということだろう。内部はいたって簡単で、材質が良いとか精度が高いという感じはしない。軍艦部周りのネジが統一されていて分解しやすいというのが唯一の美点か。

ファインダーは見やすく50oで使うには良いものだと思うが、強い逆光が入ると距離計即部の端が光り、ピントが合わせ難い。ファインダーの距離計窓のマスクはガラスに粘着材貼ったシールで、既に劣化が始まっていた。

露出計は電子回路の精度や内容はわからないが、半田付けが弱く(分解時にあっさり切れた)経年変化に強いとは思えないつくりだ。フイルム面の反射を測るタイプなので、古いレンズでもきちんと測れるのは良いのだが、空中像でバックが風景そのもの(その部分のカバーなし)なので見難く、明るいところでは使いにくい。曇った日には見えるが、それでも表示がわかりにくい。画面外に露出指示用の窓を作り、LEDを並べるか、むしろ針にすべきだろう。後で対策としてハーフトーンのフイルムの切れ端をファインダー内に貼り、露出表示部に前からの光が入りにくくした。多少視界はカットされるが、見えないよりましだ。

露出計用の電池はなぜかSR44を2個が指定仕様だ。LR44ではなく高いSRを二個使う理由が良くわからない。LEDで表示するのにそれほど電流が必要だろうか。実験ではLR44でちゃんと使えた。

使った結果で大問題は巻き戻しの回転方向が逆になること。左回転は一般的な方法とは言えないし、回転方向の表記も無い。私はサインペンで回転方向を書き込んだ。ファインダーからオフセットするためでも、これは言い訳にならない最低仕様だ。

  ナンマイダーさんの指摘だが、シャッターから光漏れするそうだ。レンズキャップをしないで明るいところに置くと、シャッター幕の隙間から少しずつ漏れる光でかぶるようだ。私は光漏れをテストをしていないが、今も一式を使っている人からの情報なので、間違いないところだ。念のためただ今追試している。これはこういうシャッター共有の弱点で、故障ではないとのことだが、光を漏らさないのがシャッターの役目だ。とても21世紀の仕様とは思えない。コストダウンのための手抜きかとも思う。(追試・レンズキャップをしないで絞り開放にして太陽に向けたところ、見事に光漏れした)

そんなわけで、良い評価は与えられない。前回試したキヤノンPやフェドやゾルキ、ザーリァなどのソ連Lマウントカメラより優れているのは、1/2000秒とTTL露出計だけかもしれない。ご自慢の等倍ファインダーは50oはともかく広角には不向きで、アドバンテージとは言いがたい。質感は可もなく不可もないというところか。光るところが安っぽいが。

《試写》

最近愛用しているアリスタ・プレミアム100にて。レンズはLマウントのニッコール50oF2.0(ニッカ用)









きちんとした結果で、機能的な問題は無い。露出計は平均測光するのか、暗めの被写体では私のカンより明るめを指示する。無視して自分の思うとおりに写してみた。当然ながら、結果はそれが正解だった。

☆作業としては簡単な部類だったが、変形は全体を良く見ないと修整が難しい。それでも2日間の楽しい作業というところだ。試写の結果はレンズとの共同作業だから、特に言うところは無い。


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★このカメラというより、安原について一言ある。散々カメラファンを煽ってこういうものをでっち上げた(実質的に中国で製作)までは許せるが、突然「都合により販売中止、会社は閉鎖、修理工具を金のために売るのでサポートは出来ない」と一方的に宣言して、何の謝罪も反省も無いまま放り出したのはとんでもない話だ。ざれ歌でごまかすなど許せるものではない。製造中止後最低10年はフォローするのが常識だ。
しばらくして、中国からデッドコピーが売られたのは知る方が多いだろう。なるほど、そういうことかと合点したものだ。

「素人のカメラメーカーごっこにカメラファンが乗せられた」とあるカメラ雑誌がまとめていたが、その通りである。最近また出てきて、「かつてカメラを作っていた優秀な技術」と謳って臆面もないのは、まともな人間のすることではない。最低の会社だ。

放り出されてサポートが無く、故障時の不安を抱えるユーザーの声に対応して、Range Finder のビュッカーさんは、このカメラの詳細な分解を無償で掲載されている。安原某は、回顧録などを書くより爪の垢でももらうべし!


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