kan's Camera Works Safariview 611

《プロローグ》

私は以前から簡単なカメラ作りや改造をしているが、どれも素人の域を一歩も出ない、いわゆる手作りカメラだけだ。尊敬する610さんのような本格的なものにはなかなか取り組めなかった。知識・技術・工具全てが足りないから当然と言えば当然だが、「これでも”一応”写る」というイクスキューズつきは願い下げだ。

今回はストレスを発散すべく、「出来上がったら常用できるカメラ」を目指した。



かつてトッププロが多くの傑作をものにしたスーパーアンギュロンである。後のいろいろなカメラ用に名前を拝借したモデルではなく、まさにあの頃に4×5で使われていた90oF8.0を手に入れた。傷が多く曇っていると言うのが私が手を出せた理由だ。曇りは大したことが無いし、大判レンズの整備は簡単なので心配はない。これをベースに作ろうと思い立った。

《コンセプト》

手作りと言うと、いろいろな箱に組み込んだり、変わった形を狙うものが多いが、実用だから外観は気にしない。意味の無いデザインは一切排除し、小型化と軽量を目指す。4×5では常用しにくいので120フイルムを使えること。極端な歪曲やアップを写す気は無いから、描写主体である程度広く写るものにする。パノラマもどきではなく、上下は標準的だが、アンギュロンの220oと言う広いイメージサークルを生かし、左右を広げることで、主要被写体の環境をも写りこませる。一眼レフタイプだと大きさや重量が問題になるし、技術的にも大変なので、距離計連動式とする。速写性能は求められないので、距離計と画角確認は別も可とする。



ベースはホースマンの古い69ホルダーである。レバー巻上げより細工がしやすいので採用した。比較したマミヤプレスホルダーは大きすぎる。
612を目指したが、削ってみると平面性の確保とフイルム送りに問題があるので、611にすることとした。
両側を削り、ローラーの外側に木を入れて平面を広げた。木の位置は何度も試行錯誤した上で決定した。



送り出し側のローラーが細すぎるので裏紙を巻きつけて太らせた。



裏紙で確認してみると、何とかいけそうだ。両端の水平度は無理をするとフイルムが送られなくなるのでこの辺で妥協した



ヘリコイドは完全ジャンク(前玉前面がボロボロにカビに食われ、テスト撮影ではフレアーでまともに写らない)ペンタックス67のものを使うことにした。75o用だがストロークは十分ある。



完全に分解し、単体ヘリコイドユニットになるように余分なところはベルトグラインダーで削り落とした。バレルはリング状に切り落とすなど、加工は案外面倒だった。また、75o仕様のままでは回転角=近距離が不足なので、ピントリングを削って300度ほどの回転を稼いだ。これによって14oのストロークが確保できた。



固定していない状態で位置の確認中。ピントリングはレンズシャッターの操作用に約半分の長さに直した。



接続部はシナ合板にて作成。内部の角は角材で補強した。



レンズユニットが乗る前板部分



安定と三脚座の取り付けのため、厚めの木を下部に固定する



三脚座は固定ネジを落とし込み、エポキシ樹脂で埋め込んだ。後で削り出せばしっかりしたメスネジができる。



組みあがった鏡筒部。



角の強化やヘリコイドの取り付けを確認



たくさん穴を開けて、ニッパーで切り取り、ヤスリで削って仕上げる。



本体と接続テスト
フイルムは巻上げの1.5目盛りごとに印を入れた。これで6カット写せる計算だ。



☆ここで大変な間違いに気が付いた。このレンズのフランジバックを勘違いしていた。ネットでの情報は100.3oだったのだが、103oで作ってしまったのである。本体接続側は左右がテーパーでギリギリだからあまり削れない。情報を鵜呑みにせず、ビューカメラなどで確かめるべきだったと反省。

結局、内側に1cmほどエポキシ樹脂を施し、固まったところで前側を削り落とした。目標は無限遠位置よりわずかに短くなることだった。わずかな差はヘリコイドの無限遠設定で飲み込むことにした。



何とか前側の加工が完了し、フイルムバックに固定して、光漏れ対策も兼ねて自動車用のエポキシパテを施す。同時に基本の反射防止塗料も塗りつけた。



見えている針金は距離計連動用のピン。インナーヘリコイドと一緒に動く。



下塗りも済み、形になってきた。



本体と距離計



距離計の下側。レンズによる動きを90oに合わすべく、長穴を開けた延長アームを取り付けた(この部分は、基本構造を知る610さん以外の人には理解不能だが、支点が明確で無いので計算では求められず、現物で矛盾ができるだけ少なくなるように設定した)



基本の無限遠あわせ中。ピントグラスに外の景色が写るとうまく行きそうな気がした。そしてそれは甘かった・・・



最終的に組む前にレンズの清掃をした。これが予想と異なって大変な作業だった。前枠が取れないのだ。途中まで緩んでもそこで止まってしまう。ひっかかりを削って廻し進めても止まってしまい、ノギス改造の強力ツールでも動かなくなってしました。

一度あきらめかけたが、どうしても何とかしたくて、穴を開けて強いカニ目を作った。それでもツールが外れて手に刺さったり、散々苦労して外れた。その後、改めてフィルターネジを徹底的に整備した。数箇所山が壊れていたのは、おそらく以前の下手な整備で傷をつけてしまったのだろう。



前玉の中身。後玉もほぼ同じで、点検的な対称型のレンズである。前が太いのは後と異なって周りがぶ厚いからであった。
レンズは前後とも内側に油汚れがあった。幸にもカビではなかったので完全に掃除できた。



総重量は1.51sとこのフイルムサイズのカメラとしては軽い。ケーブルレリーズでもダイレクトでも特に問題なくレリーズできる。三脚への取り付けは容易で使いやすい。スペースの関係から縦釣りにしたが特に問題ない。左手でピントとシャッターチャージ、右手でレリーズと巻上げを分担するので、操作に違和感は無い。ファインダーは一先ずキヤノンの28o用をマスクして使ったが、特に問題なかった。後日、小型のフレームファインダーを作る予定。距離計は50度程度の範囲が見えるので、急ぎの時はこの範囲は絶対確実に入る、という写し方も可能である。


名称:Safariview 611 (広野を見渡すハンターの目:Higemouseさん命名)

焦点距離(f): F=90mm f8.0
フレームサイズ: 120フイルムを使用 高さ(h) 56mm × 巾(w) 112mm
フイルム送り:69用を1.5倍に印をつけて流用・6枚撮り
総重量:1510g(ストラップ、レリーズを含まず)
サイズ:160×199×177(巾・高・奥行 単位・o、ストラップ固定部を含まず・巻き上げノブを含む)
外装:革・アルミニウム・木材(ウレタン塗装)・ステンレス

撮影距離:0.85m〜∞
垂直画角:35度
水平画角:63度
対角画角:69度

☆35o換算
 対角線32o相等
 水平画角30o相等






ステンレスのラインは滑り止めと革の切り替え用に接着されている(車のワイパー内のスプリング)







《試写》

先ずはモノクロでテストした。フイルムはプレスト。





おそらく問題はあるだろうと覚悟してのファーストカット。予想通り盛大に光漏れしている。また、全体に薄いベース被りが出ている。二枚目は4メートルのところから写したものの部分拡大だが、ピントは全く問題ない。しかし全画面に激しい光漏れがあり、使えないレベルだった。

原因は一つではなく二つ以上ということだ。レン゛スマウント周りを透明なエポキシ樹脂で作っている弊害で、隙間に入った光が確実に後ろまで届くことと、ホルダーの遮光も怪しい。ピンホールを探してはつぶし、フイルムホルダーの遮光紙の交換や追加をしてはテスト撮影の連続だった。



一見はそこそこに見えるが、ピントの切れ味が悪い。アンシャープマスクをずらして掛けたかのような感じがする。また、全体にベースにカブリが見られる。



見事な光漏れはホルダーからで、全体のカブリが納まらない。暗闇で懐中電灯でテストしていたら、マウント全体が薄っすらと光っている。

原因は前方ではなく、前面を削ったことで露出していたエポキシ部を内外の塗装で殺したのだが、わずかな光の進入がマウント内側で乱反射して全体を光らせると言うものだった。一点からの光だとはっきりした跡が出るが、マウント全体が鈍く光るような状態なので、画面全体にカブっていたわけだ。
原因がわかれば対策は簡単、前板には皮を張り、内側は黒い毛糸と黒い接着剤で処理して完了した。ここまでにテスト撮影は5本を数えた。

《本当の試写》

以下、モノクロはPresto 400、ネガカラーはSuper G 100にて。縮小していないカットも掲載するが、巨大なのでご承知を。



大きいカット



大きいカット



大きいカット



大きいカット

☆4×5を読めるスキャナーが不調なので、69で2カット読みこんで合成したが、スキャナドライバーがいくら設定しても同じように読み込まないので左右の合成に無理がある。特に色はあてにならないのでご承知いただきたい。(近日、しっかり読み直したものを入れ直す)*6/3最後のカットを入れ替え済

《総括》

一応の完成を見たが、まだ修正点はある。何より距離計のアームが調整不足で、近距離だとずれが生じるので、アーム長さを伸ばすこと、左右端のピントが甘いので、バックプレートの拡大とフイルムゲートの再調整が必要だ。ただしあまり無理は出来ない。おそらくバックプレートの拡大のみにするだろう。

ともあれ、フイルムホルダーにレンズをつけただけのシンプルなものに距離計を連動させたので、実用度は十分あると思う。普通のスキャナーは4×5が限界なので、これ以上横を広げても処理が大変になる。もちろん4×5に612ホルダーをつければより簡単だが、この大きさや軽さは望めない。あくまで自分の目の延長としてざっと見渡せる画角と、精細な描写が目的だったので、ほぼ成功と考えている。

《謝辞》

製作にあたって、次の方々に大変お世話になったので心より感謝申し上げる。

610さん:技術指導(距離計のノウハウ)、資材協力
ebatomさん:技術指導(レンズの適応性について)
Higemouseさん:命名とネームプレートデザイン
みやっちさん:,ネームプレートと指標の製作、印刷

皆さんご協力いただきありがとうございました。

June 1/2009 kan


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