ソ連製 F-21

 話には聞いていたが、スパイカメラなんて007の世界、縁があるとは思っていなかった。



pentaconさんのコレクション、ソ連のスパイカメラ、F-21をテストすることになった。冷戦真っ只中、1970年代からソ連や東欧で活躍した本物のスパイカメラで、KGBがどこかで作らせたらしい。

 35oフイルムのパーフォレーションを切り落として、専用のマガジンに詰めて使う機種である。基本幅は21ミリなのでこの名前になったのだろう。本来は専用の切り出し装置と装填器具があるらしいが、手元にあるはずも無いから、簡易切り出しを考えてみた。



実に可愛いスプールで、これに合うように切り出すのはなかなか難しそうだ。



21ミリ幅の板を用意し、ズレ防止に下の板と両方にセメダインXを塗って乾かし、これで挟んでカッターナイフで切り出すことにしてダークボックスに仕込んだ。



これで短めの第一号フイルムを作り、いろいろ苦労しながら装填した。



本体に収めるとこういう形になる。マガジンはウラブタロックと同時に開き、巻上げ可能状態になる。この辺りはかつて使ったニコンFのものとほぼ同じなので、理屈としてはわかっていたが、私の手には小さいのでなかなか難しい作業だ。



一号の反省として、短すぎるのと幅が不ぞろいで使いにくかったので、新兵器(笑)を作った。21ミリ幅の板の両側にカッターの刃を貼りつけ、フイルムを詰めたパトローネをこれまた貼り付けた。



これをダークボックス内で引き出しながら切る方法で本来の長さを切り出せた。





見当で写すのでファインダーが無い。その代わりにしっかりしたレリーズ受けがついている。本体はコートの中、レンズはボタンに偽装して、ふたして開閉し、ポケットの中のレリーズで写すのが正しいお作法だそうだ。そのためにスプリングモーターの自動巻上げがついている。このレンズはスクリューマウントで外れるが、レンズを交換するというより、引伸ばしレンズとして使うためだろう。



シャッターはBから1/100秒まで、ちゃんとしたカウンターもついている。シャッターボタンは左で細いが作動は軽い。巻上げはマガジン式なので軽く、フイルムが入っていても音の変化はほとんど無い。



レンズの焦点距離は良くわからないが、絞りは2から16まである。基本的に中間距離のパンフォーカスで使うのだろう



フェドヤゾルキに似た仕上げだ



専用マガジンの開閉を兼ねるため、ウラブタロックは二個ある







煙草より小さいが、ずっしりした質感がある

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――― 《隠し撮り装置・写真と解説はpentaconさん》 ―――



コートのボタン型撮影装置及びワイヤーで接続された操作グリップ。

グリップ部のレバーを操作するとレンズの絞りを手元で自由に選べます。グリップを握ると真ん中から開き始めます。さらに握るとシャッターが切れます。

KGBの名誉の為(?)に言えば、このカメラは50年代前半頃から使われていたようです。70年代になると派生形が出現。 電子シャッターを組み込み、より高速シャッターが使えるAEカメラに進化しています(F−22と言うらしい)。

ただメカ式のタイプも並行して作られていたようです。製造元はゼニット一眼レフやゾルキーで有名なクラスノゴルスク機械工場(KMZ)だそうです。


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《試写》

作動テストはミニコピーでやってみた。正直な所画質に期待していなかったので、低感度だが粒子が細かいフイルムで写してみようと思った。



1メートルほどで写してみた。左側の陰は最初の部分のカブリかもしれない。



手抜きで車の中からなのに、意外なほどしっかり出た。この後数枚もまともに写っていた。多少の光漏れがあったり、シャッターの空振りがあったが、画質的には期待以上だ。


画像が期待できるので、フイルムを常用のアリスタ・プレミアム100にした。



これはわざとスパイカメラ風に演出してある。なかなか面白い。



コンビニで本来の盗撮的撮影を試みる。ピントは3メートル固定。



16まで絞って無限遠(完全に無限遠は設定できないので、10メートル)



被写体まで60センチほど。至近距離にきちんと合わせる方法や機材があるようだが、今回はテストしていないので参考データ。


 ハーフより一回り小さいネガだが、予想以上の結果だった。レンズや全体の作り、平面展開でスクリューマウントなどチャイカ2に似たものを感じる。

 スパイカメラと言っても、今のピンホールレンズをつけたデジタル機から見ると、重くごつく撮影枚数(12枚)が少ない。しかしそういうものが無い時代に、ミノックスのようなスタイルではなく、普通のカメラのスタイルを保ったままで小さくしてしっかり実用できるものを作っている。旧ソ連の軍事(諜報)に特化した技術力を感じた。欲を言えばもう一段高速シャッター(せめて1/250)があると、400のフイルムで明るい所から暗いところまで状況に応じて使えるだろう。とは言え、無骨ながらとてもしっかりしていて、軽く手のひらの中に納まってしまうのは、この時代を考えれば素晴らしいものだ。

 このカメラが主に写したのは、ソ連国内や、共産圏だったチェコなどの反体制勢力のメンバーなどだと聞くと、複雑な気分である。とても可愛いカメラなのに、弾圧の材料として写真が使われたのは悲しい。


☆pentaconさん、今回も面白い機材をお貸しいただきありがとうございました。大変楽しめました。


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