OLYMPUS6 & Others

 娘の同級生のお父さん、酒屋のAさんから修理依頼で三台のフォールディングカメラを預かった。お知り合いのHさんのものということ。ちょうど忙しくなる前だったので、フォールディングなら比較的簡単だから引き受けたのだ。もちろん直した後にテストするのを条件に。

 @はオリンパス6、クロームシックスの前の、軍艦部が簡素な前玉回転式の目測機で、66と645のダブルフォーマットだ。



シャッターには問題がなかったが、レンズは汚れている。カビも発生していたが、幸なことに「ズイコー曇り」はなかった。この時代のズイコーは非常に曇りやすく、マミヤ6やエルモフレックスなどのOEM製品も相当の確率で曇っている。
清掃した所すっきりと直った。



グリスがひどくなっていないので素直に分解できた。ヘリコイドはグリスアップ。



シャッターはきれいで、給油のみ



独立したファインダー。なかなかしっかりした工作だ。分解して清掃。











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 Aはミハマ6、何型かは不明(2型と判明)

掲載後、フォレスターさんから型式について情報を頂いた。

「2型の新しい方ですね。旧2型(私の)はシャッターがMSK(自社)kanさんがレストアしたのはNSKとありますから途中で他社に替えたのでしょう?

3型以降はNKSになっています。レンズもMIHAMAからKEPLERに変更、末期に近いSは前玉回転から全群ヘリコイドです。」
 

一見するとちゃんと動いているように見えたが、前玉回転式なのにヘリコイドが固着していて、中玉と共に外れてきた。



ヘリコイドはCRCを隙間に吹き込んで放置し、シャッターの整備。スローがいい加減だったが、清掃と給油で復活。



一日置いたヘリコイド部をゴムシートでつかんでフルパワーで廻したら、粘りながらも外れた。洗剤入りの水と超音波洗浄器で清掃し、それでも残った固着グリスを針で掻き落としてグリスアップ。



巻上げの音が変で感触が悪いのと、ファインダーを清掃したいので軍艦部を分解。



巻き上げノブが上手く外れないので苦労した。黄色い所が巻上げの逆転防止のラチェット部。





巻き上げノブが外れにくかった理由は、黄色矢印の所の板バネが逆転防止=巻き上げノブが外れるのも邪魔していたからだと判明。組むのは簡単だが、構造がわからないと外せないし、無理をすれば壊してしまう。普通とは逆に、ノブを固定してフイルムに掛かる部分の方を廻さないとバネが壊れる。この個体は既にバネが折れかかっていたので、バネを加工して何とかスムーズにした。





所々皮が浮いている。これは使えばすぐに剥がれる兆候なので、剥がれそうな所は全て剥がして再接着した。前板を取り付ける部分の下処理が悪いので、貼り皮に微妙な凸凹が出る。オリジナル尊重なのでそのまま貼り付けたが、出来ればパテなどで平面にして貼り付けたい。こういうところが質感を大きく左右するのだから。











距離計窓つきに見えるのは、66と645が別ファインダーだから

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 Bはウェスター6、これも型式は不明。



ファインダーが汚れていたので軍艦部を分解した。シャッターボタンには巻上げでキャンセルされる二重露出防止機構が組まれている。



蛇腹が痛んでいるのでレンズバレルを外して補修。



これもヘリコイドが固着している。ミハマ同様の処理をしたのだが、全く緩む気配が無い。



先にシャッターを整備。意外にちゃんとしていたので、清掃給油で完全復活した。



固着ヘリコイドは全く緩む気配が無い。覚悟を決めて、ひどい傷をつけず、変形させないように養生しながらプライヤーで強制分離した。グリスはカチカチで固まった石鹸状態だったが何とか復活した。

こう書くと簡単だが、非常にデリケートな力技で、何度もやりたい作業ではない。力を掛けすぎるとヘリコイドのメス側が変形し、廻らなくなる。ひどい場合はレンズが割れる。かといって、弱い力ではツールが滑って仕事にならない。いかにしっかりツールを固定して、ギリギリの力で廻すかがポイントだ。もちろん、ネジ部は完全に養生して作業する必要がある。

これは、この時代のグリスの品質が原因だが、敗戦後の物資不足を痛感する部分でもある。しかし、同じ敗戦国、ドイツ製品にはグリス固着を経験していないのだ。お国柄=長く使うことを前提にしているか、今の性能のみを考えているか、そんなところが底流にあるのだろうか。



蛇腹を組みなおし、平行度など点検して完了











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◎今回の三台は蛇腹が比較的良好だった。しかし間もなく崩壊する時期なので、三台とも水性ウレタン塗料で蛇腹を塗装した。特に角はピンホールによる光洩れの原因になるので、濃い目の塗装をしている。全体の強化と外見の向上は使っていて気持ちが良い。もちろんいかにも直しましたとピカピカにするのは避け、少し艶を落として違和感をなくしてある。その他錆落しや塗装のタッチアップは外観を損ねないように控えめに行った。

《ピント再調整》

この三台は共に目測の前玉回転式なので、まとめてピントの再調整を行った。









《試写》

これにて作業は全て完了、試写もまとめて三台で行った。フイルムももちろん共通でアクロス

 ミハマ6








 ウエスター6







蛇腹に光漏れがあるので、コントラストが低下しているようだ。このカメラのみ明るさを大幅に上げている。1.2枚目は被った部分をレタッチしている。

 オリンパス6



これは思わず鳥を追ってしまい、手ブレしているので参考カット





☆この試写は同時に行った。手持ちなのとどうしてもファインダーの見え方の違いがあるから手ブレの影響があり、写す方向が完全に一致しているわけではないが、距離設定から露出、現像まですべて同一である。フイルムも同一ロットとそろえたのだが、いろいろと違いが出た。解像度は別として、特に山のコントラストと空の落ち方が異なる。現場の看板を写したものだと、圧倒的にオリンパス・ズイコーが優る。目測なので精密にピントを合わせた現代レンズには及ばないが、十分しっかりしたものだ。遠景ではミハマの健闘が光る。遠景の燈台の描写はズイコーと比肩する。

 三台ともアパーチャーが完全なスクエアではないので(フイルムの浮きもあるのだろう)多少の周辺カットがある。したがって周辺落ちはあまり目立たないが、この点はズイコーが優っている。

 なお、評価用に付き画像処理は最低限で、アンシャープなどの処理はしていないから、コントラストなども含めて処理すれば大きな差は無いだろう。また。フィルターやフードが付属していたが、条件が揃わないので全て外して写している。

 使ってみないとわからないものだ。目測フィート表示のスプリングカメラは、パールなど定評あるレンズと距離計を備える高級機を除いて、現代に実用にするのは苦しいかと思っていたが、この三台共に実用可能だ。物の不足していた昭和20年代後半にもかかわらず、しっかりした記録が出来るカメラだと思う。まだ技術が固まっていない時代なので、同じ機能をいろいろな方法で実現しているのが分解していて興味深い。例えば、ウエスターの二重露出防止は実に有効かつ便利で、限られた予算の中での技術者の工夫を感じる。ミハマの巻上げ部はクリック感と音で差別化を狙ったのだろう。オリンパスは定評ある部品を非常に仕上げの良いボディーに手堅くまとめている。それぞれに違う良さを感じるから奥が深い。

☆オーナーのHさん、ご紹介されたAさん、久しぶりの蛇腹カメラを楽しめました。ありがとうございます。


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