KONISHIROKU PEARL U

 仲間のOtonyanさんのパールU、後玉の曇りが取れないということで引き受けた。



なじみのヘキサー75oF3.5、典型的なパールの玉だ。



蛇腹から外して分解、全体の状態はなかなか良い。





問題の後玉。確かに中央部に何かある。仔細に見たら、コーティングが剥がれている。カビに喰われて痛んだようだ。私ならこんなものだろうと使ってしまう所だが、すっきりしないのは事実なので少し磨いた。結果としてコーティングはなくなったが、もともと構成枚数が少ないから大きな影響はありえない。一面だから数パーセントの光量低下だろう。その程度の違いよりシャッターのばらつきの方がはるかに大きいから問題はない。

コーティングで描写が大きく変ると信じている方がいるようだが、構成枚数が少ないレンズでは違いなどわからないし、コーティングは色にはほぼ影響しない(感色性を変更する特別なものを除き)。コーティングの見掛けの色は偏光の多い反射の色なので、フイルムに届く色にはほぼ関係ない。それよりレンズのクリアーさの方が大きな要素だ。特に後玉の抜けの良さは画面にはっきり出る。焦点面に近い所なのでフレアやコントラストの低下に直結する。画角外からの光をカットするフード(浅すぎて形だけのものが多い)など何の役にも立たない。拭取れなければ磨くかあきらめるか二者択一だ。





絞りが激しく汚れている。動きも悪い。これを無理するとピンが飛んでしまう。ヘリコイドも重いので、シャッターとヘリコイドをそれぞれ超音波洗浄した。洗浄液が向こうが見えないほど汚れていた。その後ボロン粉末と軽い給油、油が各部に廻るまで放置し、ヘリコイドは新しいグリスを入れた。



レンズは磨いてきれいになった。もちろん必要最小限にとどめた。せっかくの名レンズが歪んでしまったら意味が無い。



ヘリコイドを戻し、レンズを入れ、調子を見る。すっきり抜けたレンズになった。ヘリコイドは多少ざらつく所があるが、まあスムーズになった。



平行度を見ながらタスキを少し修整。材質が良いからそれほどの狂いは無かった。外れていたと言う距離計リンクも確認。



仮組みしてピントと距離計の調整。スプリングカメラの距離計は後の35mmカメラのものほど高精度ではない。開閉部という曖昧さがあるし、レンズも一台ごとにわずかに異なる。先ずはシムで基本の無限遠が出るようにし、次に距離計と実画面が一致するようにする。こういう距離計は無限付近で遊びがあったりするので、わずかにオーバーインフにしておいて、指標で無限遠が合致するようにし、念のため近距離でもきちんと二重像と実画面が合うようにする。

この個体の場合、シムが薄くてわずかにオーバーインフ(無限遠を越えるまで廻る)だったがこれは問題ない。逆だと削るわけには行かないから無限遠は妥協せざるを得なくなるのだ。



非常にクリアーな画像で、これなら良く写ると期待した。

これで整備は終わったのだが、皮が全体に白っぽいのと、蛇腹は間もなく限界が来そうなので、薄めた水性ウレタン塗料で全て強化した。特に蛇腹の角は擦り切れる前にこうしておくと、非常に強度が出る。ほぐれていた繊維をまとめて固めるからだ。もちろん濃いものを塗ると厚みが増えて収納できなくなったりするから、ごく薄いもので色より樹脂分をしみ込ませると言うのがポイントか。

本体の皮は普通濃度の塗料をのせたらすぐにウエットティッシュなどで拭取った。こうするとしっくり半艶になり、無駄にピカピカ光らない。全体のコンディションに合わせるのがコツと言えばコツだろう。











《試写》

テスト撮影はアクロスにて







☆近距離から遠距離まで逆光でも負けず、極めてクリアーである。もちろん距離計は不安なく使える。無限はボディーの距離指標でもファインダーの二重像でも合わせられる。

現代カメラに近いコントラストの高さで周辺落ちが無く、さすがパールと改めて見直した。距離計連動で巻上げの心配が無い赤窓式のU型はパールシリーズで最も実用性が高い。粋なお散歩カメラとして大いに使ってもらいたいものだ。

☆Otonyanさん、楽しい整備でした。ありがとうございます。


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