RICOH S3

 リコーの500シリーズ独特のスタイル、そのバリエーションのS-3をレストアした。



形はこのシリーズ共通で、非常に見分けにくい。比較的きれいな固体でシャッターが空振りする程度、治すのは簡単だと思った。



前を分解してシャッターはセット不良とわかったので、連携を直すべく鏡筒を外そうと裏側を見た・・・傷だらけだ。これは誰か(もちろんプロではない)がいじった形跡そのもの。しかもネジ部だけでなく、動かせないヘリコイド部にまで傷がついている。



気を取り直して座金を緩め(非常に固かったから、前に挑戦した人はここで挫折したと推定)連携を見る。鏡筒には位置固定のピンが無く(この個体だけかもしれない)そのためにずれて赤色のチャージのリンク(黄色はシャッターレリーズ)がきちんと設定されていないからと推定した。



レンズバレルを裏から見る。プロンタータイプだが裏から軸で巻き上げるのではなく、リコー特有の長いレバーが軍艦部から伸び、その動きでセットレバーを介してセットするタイプで、セット後はこの細いリングバネが主軸の中を貫通したリンクを巻き戻す。過渡期的な構造で、良い構成とはいえない。ちょっとした渋りでも作動不能と成りやすい。



シャッターセットできないのでシャッター部を分解。




上の写真で矢印のところが問題箇所。主軸の上についたフォーク状の部品が押すことでセットされるのだがずれてしまっている。これを赤の位置に直して、外れないように押さえるとセットできる。

ここは本来は上のカバーが逃げ防止になっていて、フォークがピンから外れるはずは無いのだが、油切れなどで過剰な力が掛かったのだろうか。



軍艦部を開くと巻上げに応じて2本のピンがあるプレートが回転し、これに接触しているレバーが駆動され、それがもう一本のレバーを押してコッキングする。プレートがある程度廻るとピンが外れ、レバーが開放(この時にガチャッと音がして巻上げが急に軽くなる)される。記しのところはその最大量の調整部で、押し過ぎになっていたので調整。



この作業でも巻上げがすっきりしない。原因はなんとここにあった。トリガーの動きを回転に変えるクランクの付け根が、ずれて固定されていたのだ。本来は嵌合でずれるはずの無いところが、外れて浮いたまま固定されていた。結果としてアームが長くなり、半径が大きくなるからクランクの運動が過剰になって、巻上げ完了になってもレバーが押され続けて戻れず、それを無理に廻したので各部が異常になったのだ。

これで一応の原因はつかめたが、レンズバレルの固定位置によってシャッターが切れないか、またはチャージ不足が起る。連携を無茶苦茶にされていたので、正確な位置を見つけるまで何度も、おそらく10回以上レンズバレルを外したり固定したりする羽目になった。何とかこれで良いかと試写に出かけたら、途中でシャッターボタンが戻らない現象が頻発した(軽く叩くと戻る)



シャッターボタンのリンクを開く。前板は無く、直接ダイカストに組み込まれている



この部品がわずかに変形していた。深く押されるとカバーと接触して戻らなくなると判明











《試写》

試写は二度、どちらもアクロスにて。









あいにく連日曇りか雨なので、絞り込んだ画像は無いが、傾向は読める。ちょっと周辺落ちするがその場の雰囲気を上手く写し取るレンズだ。リコレットなどと共通するものを感じる。

☆最近直したカメラで一番梃子摺った。レンズバレルの脱着だけでも10回は下らない。作業中に数回放り出したくなった。苦労した原因の半分は見当違いにいじられていたこと、残りはカメラの設計による。

トリガー巻上げにこだわって、てこの原理で大きなトルクが掛かり、ごく微妙な動きでシャッターセットを左右する構造、定位置がわかりにくく組立に名人芸が必要なレンズ周り、他に類の無い不思議なレリーズ部など、量産されたカメラとしては不安定で生産性が低い未熟な設計である。そこに魅力的なレンズ(リコーに外れなし)が乗っているから始末が悪い。(テスト撮影が終わったので、さっさとみやっちに押し付けた・笑)


June 2011


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