LINHOF Super Technica (23)



 分不相応という言葉がある。現代では死語に近いが、要は「お前の腕や経済力でこのカメラを持つのは百年早い」という意味である・・・・・

私にとって、この代表がリンホフ・テヒニカだ。ライカは祖父の提唱した家訓「ライカに手を出すと家が傾く」により使わないし、ハッセルは国産にそれ以上の機能を持つカメラがあるから必要ない。

 300台を超えるカメラをテストし実用してきて、もはやこのカメラは絶対に欲しいという気持ちは薄れた。もちろんどんなカメラも使ってみなければ本質はわからない。しかし違いは大同小異で、プリントになったらある程度わかるのはフォーマットの違い程度、はっきりわかるのは欠陥のあるレンズか否かだけだ。実用するカメラを選ぶのは、求める結果に対する機能と使いやすさが主で、ついでに使って見たくなる雰囲気(デザインやそのカメラを手に入れた経歴など)の有無だけになった。

 リンホフは憧れだった。若い頃は一生手にすることが無い、いや、手にすることなど出来ない高嶺の花として見ていた。最近では同様の蛇腹67−69距離計式プレスカメラをいろいろ使っているから、カタログデータで特に秀でることが無いリンホフへの興味は薄れていた。この形式では特別の機能が無い限り、レンズとフイルムが同じなら結果は同じと言えるから。

 この考えを突き崩したのは他ならぬ「プー博士」である。氏は事もあろうにこのカメラをキリ番プレゼントに出してきたのだ。「大好きだがスペア機は使う予定が無いからふさわしい人に使ってもらいたい」と!


 久しぶりにモニターにかじりつき、マウスを握り締めてバトルし、当選してしまった・・・

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到着したのは良いコンディションのきれいな本体である。こちらはレンズ周りとフイルムバック、ファインダーを用意しなければならない。

先ずは独特の形式のレボルビングバックとフイルムバックアダプターの製作である。これにはマミヤRB=グラフレックス23のものを取り付けることにした。

マミヤRBのレボルビングホルダー部を分解し、アパーチャーを69相等まで拡大した。



ベニア板を円形に切り出し、これをレボルビングのベースに考えた。



リンホフのこの部分は4点で固定されていて、レバーでロックと解除を受け持つ。引っかかりは極めて少ないので本来はアルミ板で作るべきだろうが、直径12センチのアルミ板を切り出すのは面倒なので、エポキシで強化したベニアで代用するわけだ。





工作成功。この状態でロックを緩め、90度ずらせばレボルビンぐバックとして機能する。ベニアはホルダーに接着している。強度を出すためにいくつか穴を開けて接着剤を貫通させ、板と一体化しているから、激突させない限り外れることは無い。これでマミヤrbの645、67手動ホルダーと、同じRBの電動66、68ホルダー、グラフレックスの69ホルダーなどが使える。

このカメラは電動68ホルダーで使うことにしている。68なら縦横比が1:1.5の35oに近いから使いやすく、69より一枚多い9カット写せる。それでいて68と69の感覚的な差は少なく、67と68ではわずか1センチなのに、感覚的な違いは大きい。マミヤの電動ホルダーを使えるのもメリットだ。



レンズはブツシュプレスについていた101oのエクターを採用した。付属のカムが65-100-180なのでそれに合わせやすい事と、このレンズの描写が好きだからこれを基本レンズとして選んだ。今後は65oと150−180o程度を全て距離計連動で用意する予定だ。(150oはカムを自作する予定)



レンズボードの外形をトレースしておいた。他のレンズを取り付けるためだ。ただし、このままではちょっとずれているから、実際に作る時は現物合わせで作業した。




巻上げ故障のRB用ホルダーの中身を抜き、アパーチャーを広くして距離計のピント合わせ用ピントグラスを作った。これは後で69まで拡大して、アオリ撮影用などのピントグラスにする予定。



ファインダーはリンホフ用だが4×5用を選んだ。ズーミングするもので指標は4×5に対応している。これにマスクを掛けて4×5と67を共有する仕様だが、基本が4×5だから同じ焦点距離でも67(リンホフ専用ホルダーは67)はごく小さく制限されてしまう。せっかくの視野がもったいないので、4×5の上下をごく和すが制限して、68マスクに改造した。焦点距離は1.5倍するとほぼ合う。これなら4×5も68もそのまま使える。

この後、レンズボードストッパーをRB用に合わせ、実画面とファインダーのサイト合わせを行い、一先ず完成。





《試写》

フイルムはTX400、レンズはKODAK EKTAR F4.5



距離計確認の一枚。



合焦部



開放、手持ち距離計確認用



無限遠確認、露出間違いで画質は悪いがピントは出ている。

☆このクラスのほぼ同機能のカメラとの比較として(スピグラ系、トプコンホースマン、などとの比較)質感はアルミに高級感がある塗装のリンホフが木製革張りのスピグラ系より優るが、重量が重いのはトレードオフか。蛇腹やレールの伸びは実質的に差は無い。距離計やファインダーは各機種にいろいろなタイプがあるので比較は意味が無い。どの機種もトップレンジファインダーが使い良いのは言うまでも無いだろう。

この形式を最初に作ったリンホフと、それをお手本に軽量化(グラフレックス・クラウングラフィックなど)とボディーシャッター(グラフレックス・スピードグラフイック系)、高機能化(ホースマン)、それぞれに良い点があり、どれがベストとは言いがたい。それぞれ「このカメラだから」という言い訳は出来ない高品質のものだ。お互いのレンズも乗せ替えられるのだから、画質を語っても意味が無い。シフトが使えるのはリンホフのメリットだが、このサイズのカメラでフルモーションのアオリを使うことはほぼ無く、ライズが出来ればほとんどように足りるし、スイングは90度カメラを傾け、レボルビングすれば用に足る。

ちょっと残念なのは、設定されている65oは今回の改造でわずかにフイルムメンが後退し、∞位置にフロントスタンダードが固定できず、へこみボードを作るまでは使えない(接写なら可能)こと。ただ、65oは使いやすい専用機(FUJI GSW690)があるので、個人的にはデメリットではない。出先でこの手のカメラのレンズ交換は可能だが、カムを変え、無限位置を変えてその上でレンズボードごと交換はスナップ優先の私には面倒至極なので、レンズはほぼ一日固定で使うことになるだろう。レンズ交換という点ではペンタックス67や富士の各機種には便利さで遠く及ばない。ピントグラスを使えば多くのレンズが使えるが、シャッター組み込みタイプで無いとほぼ無理だ。まさかこれにソルントンを使うというのはナンセンスだし。

ではリンホフを使うメリットは何か・・・

「リンホフだから」かな・・・上手く言えないが、この感触はいかにもドイツの真面目でしっかりした工業製品を使っているという満足感・・・散文的まとめでリポートとは言い難いが。

《謝辞》

プー博士、何とも素晴らしいものをありがとうございます。大事に一杯写します!


November 2011


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