MAMIYA M645 1000S (& 500)
マミヤのM645は比較的最近まで後継機が作られ、現在もデジタルバックを背負った後輩が頑張っている。その意味では
現行機種で、私のレストアサイト向けではないかもしれない。しかし、チャンスがあればどんな中判カメラも使ってみたい。
このカメラは仲間のおとにゃんさんからやって来た。あまり安いので
衝動買いしたが、ちょっと使って3年ほど寝かしていたそうだ。そんなにすぐ飽きる機種なのだろうか。
きれいで特に痛んだところは無い。電池を入れたらきちんと動作している。電池は4SR44か4LR44で動作する。シャッターは
作動時のみ通電するからそれほどでもないが、露出計は同じ電池で作動するから露出計を使うなら4SR44が安心か。リチウム
電池より結果として割高なのでちょっと困った仕様だ。開発された時代を考えれば致し方ない。(LR44を詰め替えて使える
ようなホルダーを製作中)私は露出計はほとんど使わないので、撮影中にその存在を忘れてしまう。よってTTLについては特に
感想無し。普通に動いていることは確かだ。
ウエストレベルファインダーを装着した状態。ストラップは専用を探すと高いので、細いワイヤーを噛み潰しの金具で
回転できる程度に固定して、スリックの三脚用ストラップに固定した。使い心地は特に不満無し。(スペアの500はRB用を
改造して取り付けた)
シャッターボタンが二つあるのは地味だが便利だ。アイレベルとウエストレベルでの使い分けを意図しているのだろう。ただし
動きが軽いので暴発しやすい。必要に応じてロックするのが筋だろう。
このタイプはフイルムバック交換式ではない。しかし特にマイナスポイントではない。
本気でこの手のカメラ(そこそこ機動力が期待できる一眼レフ)を使いこなすなら、ボディー二台に広角とちょっと望遠をつけ、
同じ種類のフイルムを入れて使い分けるのが私流だ。現場でごそごそレンズやフイルムバックを交換するなんて非現実的なので、
フイルム交換にはスペアの中枠のみを用意し、次のフイルムをスタート位置にセットしておいて交換する。これなら数秒で
交換できる。(中枠は後のフイルムバック交換型用も同じで共用できる)
もちろん、三脚で風景を写すとか望遠鏡に固定して天体をというような用途ならバック交換式は便利だろう。
しかし、カラーとモノクロをバック交換で撮り分けるなんてのはほとんど机上の空論だ。実際にはそんな撮り分けは無理で、
失敗を助長するだけだ(あくまで私の経験則)。
ウエストレベルに付属するスポーツファインダー。遠くの動くものを狙うなら実に便利だ。等倍だし廻りは見えるから予測
しやすい。置きピンには最強のアイテム。
TTL露出計付ペンタプリズムファインダーをつけた状態。これを使うならオートワインダーが欲しくなる。アイレベルに
構えるには向かないボディーだが、グリップ付だと右手はグリップを持って支えながらレリーズ、左手はフォーカシング専用
に使える。自動巻上げで無いと巻き上げにもう一本手が欲しくなる。純正部品の左グリップなら右手でピントと巻き上げ、
左手でホールドとレリーズが可能だが、左グリップのレリーズは私には使いにくい。
ファインダーの種類は645に機動性を求めるか、それともじっくり作画を目指すかで決まるだろう。
ここまででテスト撮影に出かけた。最初の一本はしばらく使っていなかったためかカウンターのスタートがずれて本来は
15カットのはずが12カット、かつ擦り傷などが出てしまった。おまけにシャッターが時々いい加減になっていた。
しかし、残ったまともカットは現代レンズらしい切れ味で、これなら使えるとスペアのボディーとレンズを手に入れる
ことになった。
いくら安くなっていると言ってもまともなものは高い。これはレンズはきれいだが絞り不動のジャンクでごく安かった
45o。絞りに見事に油が廻っている。
絞りに油が廻る誘因はこの黄印の駆動部の構造にある。接触面が多すぎ、潤滑に油を使えばそれが羽根に廻りやすい。赤は
本体との連動部。羽根だけでなくリンク部も徹底的に清掃したら完全になった。
こちらは前玉裏に汚れがある150o、これは前から整備。ネームリングははまっているだけでネジ止めではない。外すの
はカニ目よりむしろ面倒だ。
150oの前玉は分解可能の良い構造だったので清掃できた。ハメゴロシだと中に問題があれば整備不能だ。少しコーティングに
傷があるが、強い光を当てると見える程度なので実用上の問題は無い。
と言うことで、M645の500が増え、45-90-150oとほぼ倍数系列が揃った(笑)
《試写》
80oはプレスト、45と150oはアクロスにて実施。トップ、猫、最後のカットはそれぞれ絞り開放にて撮影。
80o
45o
150o
☆それぞれに申し分ない結果になった。マミヤのレンズなのでもう少し軟調かと思ったが、現代的な切れ味とハイコントラスト
である。80oは開放でも素晴らしいピントで、さすがと感じる。45oの無限遠が少し甘い。実用上は深度に入るから問題ないが
現代レンズとしてはもう少しきりっとしたいか。150oは全体に不足なく写る。各レンズの描写が揃っていて、使いやすいだろう。
(パラグライダーのカットは現像ムラあり)
わずかだが上下が66のものより低く、重さも同様で片手でも扱える。グリップとアイレベルファインダーと
ワインダーを装着して35o一眼レフと同様の用途に用いることが出来るし、じっくり写すならウエストレベルで使えば
軽くて良い。システム展開による万能性が持ち味のカメラだ。
500と1000の違いはごく少なく、最高速と巻上げノブの違いしか無い。また、アイレベルファインダーは腐食で視界不良
のものが多いようだ。手元の二個ともなのでこれはいただけない。分解しても意味が無いので作業は省略した。
視界不良ではアイレベル一眼レフの意味が無い。再蒸着以外に直せないからウエストレベルを多用することになるだろう。
《まとめ》
レストア初期の頃、このカメラの修理を頼まれた。怪鳥の意見「電機故障は直しにくい」に従い、私には無理と断った。
今になってみると、内部構造はそれほど複雑ではなく、シャッター幕の交換でもなければ手に負えないほど複雑だと感じなく
なった。
この手のフイルムカメラがほとんどジャンク価格で投げ売られている。645は愛でるより作画中心の人たちが画質と大きさや
重さを考慮して選んできた。画質の割りに大きさや重さが66、67より小さく軽く、印画紙の無駄が少ないから画質はほぼ
対等と言うメリットがあったからだ。デジタル化がその存在意義を薄くした。より小さく軽く使いやすくて自動的に「きれいな絵」
を生み出すデジタルカメラに対し、既に画質でもアドバンテージが無いからだ。
それでは私がなぜこの時期に使ってみたくなったか、酔狂でしかないかと言うと、そうでもない。巨大なフジGX680で
スナップする私には、とても小さく軽い120一眼レフに存在価値を感じたのだ。「スナップに楽でそこそこ画質が望める」という
70年代的発想である。15−16枚写せるというのも案外メリットだ。69の8枚、66でも12枚と比べ、数枚の差は大事だし
コスト的にも大きい。横が6センチ(57o)あれば66と画質は変わらないのだからちゃんと120フイルムを楽しめる。そこがメリット
だと思う。(フイルムで写す楽しさはデジタルでは得られないから)出来れば645ではなく、640として35oと同比率の
フォーマットだと慣れているのでフレーミングしやすく20枚近く写せるからベターだろう。
☆このカメラのテスト中、「それは凄く高いカメラでしょ、ブロニカとか言うんだっけ?」とか「外国の何とかってカメラ?」
と何人かに質問された。マミヤとわかった人は皆無だった。マミヤと聞いた後でもそんなメーカーがあるのかという雰囲気だった。
比較的カメラに縁がある年配者でも、マミヤは全く知らないメーカーのようだった。宣伝や営業が下手で、ニコンやキヤノンに
遠く及ばない知名度はちょっと哀しい。独創的で実用性が高いカメラを多数送り出してきた素晴らしいメーカーなのだから。
バックフォーカシングが抜群に使いやすい MAMIYA6、堅実な35シリーズ、堅牢さとレンズ交換できる二眼レフ・マミヤフレックス、
圧倒的な性能とアピアランスのRB67&RZ67、機動性と高い画質のニューマミヤ6&7・・・数え上げたらきりが無いほど
素晴らしい作品を送り出している。何とか存続しているマミヤが、この21世紀でも活躍して欲しい、心からそう思う。
☆おとにゃんさん、交換ありがとうございます。すぐには飽きそうも無いのでしばらく楽しめそうです。
February 2013