LE COULTRE Compass 2
Compass is, in the history, one of the most precious, creative and complicated miniature camera
in the world, I think.
スイス・ルクルトのコンパス2、世界で最も複雑で高価な極小カメラとして知られている。私が経験してきたカメラの中で、
おそらく最もレアな一品。
S氏から「使ってみませんか」とポンと渡された。一生縁が無いだろうから、覚悟を決めて使ってみようと決意した(笑)
これは収納状態。倒立で置いてある。
写すには二段の沈胴を引き出し、レンズカバーを開き、いろいろの儀式が必要だ。彫りこまれているのは被写界深度と
簡易露出表(高感度の現代フイルムには使えないが参考になる)
表面が段付きに見えるのは、時計などに使われる極めて細かいスクラッチングによる表面加工で、実際には平面だ。この質感の
高さはカメラではなく、高級時計そのものだ。
前から見た各部。1シャッターボタン 2シャッターセット位置ロック 3シャッターセットノブ 4タイム露光ボタン
5フィルター変更ノブ 6距離計窓 7ファインダー窓 8絞り変更ノブ レンズは「CCL3B Anastigmat f:3.5 F=35MM」
普通のカメラとは全く違う。シャッターセットはネジを巻く。多く巻くほど長時間(レリーズの間、穴がぐるぐる回る)、1/500秒から
4.5秒まである。しかも段階が細かい(500 375 250 200 125 64 50 32 25 16 10 8 4 2 1/1--1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5)低速側は
中間も使える。フィルターはモノクロの黄色などが組み込まれ、絞りは開放と3枚の穴開き板がぐるぐる回り、3.5-4.5-6.3-16に
なる。完璧な円形絞りだが中間がないのがちょっとつらい。
上下はこれが正しいようだが、実際には逆に構えないとファインダーが極めて見難い。タイム露光は、シャッターボタンの下の
指標に「pose」を重ね、シャッターを押すと巻き上げるまでシャッターが開いたままになる。簡易的にはレンズキャップで露光打
ち切りができる。間違えてこの時に1の方を押すと1/50秒で作動する。こんなタイムシャッターは見たことが無い。
下から見上げたところ。1シャッターセットノブ 2シャッターセット位置ロック 3速度指標 4距離指標
5水準器 6ピントリング 7(ヘリコイド回転止) 8裏ブタ開閉ボタン
露出計を全て引き出したところ。ファインダーを見ながら、画面がぎりぎり見えるところの数字で判定する。右の窓が
二重像式距離計。さすがに経年劣化でほとんど見えないが、目測とピントグラスがあるので問題ない。真ん中のノブは
ND8をファインダーに入れるため。つまりサングラスが組み込まれている。
レンズキャップの表面には被写界深度目盛りがあり、ちゃんと矢印部が回転して示せる
引き出し式のフード
下のレバーは水平に置くための足
ピントグラスと視度調整つきルーペ
ここに専用プレートホルダーを挟み込む。ボタンでロックできる
後部を取り外した状態。アパーチャーは24−36oぴったり
ロールフイルムホルダーと専用リール。レバーを360度廻すと一枚送られる
専用ロールフイルムが無い現在、35oフイルムから切り出すしかない。使いたいフイルムを用意し、パトローネから極少し
引き出して凸状に切り、リールに差し込んで抜けにくいようロックする。(小さなセロテープなどで止めるべきだろう)
リールには片側に小さな突起があって、これが巻上げ軸に勘合するので、手探りで上下を確認しないとならない
この状態で全てダークバッグに入れ、手探りで必要長さに切り、先を手探りで加工してから表巻きに巻いて供給側をセット、
次に巻取り軸にセットする。軸は127と太さが似ているがツバは鉛筆よりちょっと太い程度、きつく巻くとカーリングが激しく
なるから、暗室装填でも6−8カットが限界。(リーダー部は前後2センチ程度で)
簡単に書いたが極めて面倒で、何度も失敗した。巻き上げていなかったりフイルムが激しく段つき
になってしまい、まともにスキャンできないなど、トライ10回以上で成功は4回、現像のためにダークバッグ内で開けるまで
わからないから始末が悪い。せっかく箱根まで持ち出したが全てアウトとか、失敗はきりがない。もうやめようと何度
思ったことか(笑)(巻上げ中にフイルムがちゃんと進んでいるかは全くわからない)
巻上げレバーは最初の半回転でフイルム固定部が後退して隙間を作り、残りの半回転でフイルムを巻上げ、最後にカチッと
いう音ともに固定する。したがって、巻上げは軽く、フイルムの平面度は良好だ。ただし、どう考えても35oフイルムを
使うのには限界がある。ガイドローラーがないし急角度なので、アパーチャーにフイルムが負けて巻上げ不良や凸凹になる。
大きくなっても余裕のあるマガジン式だったら良かったのだが。簡単なロックだが工作精度は極めて高く、光漏れなど全くない。
《試写》
アクロスとDNP200を使って行った
☆アクロスはきちんと出たが、DNPはフイルムベースが堅すぎて傷だらけ、おまけに現像が駄目なので色は参考まで。ピントは
本来ならきちんとしているが、35oフイルムだとアパーチャーの両側が足りなくて固定されないので、堅いフイルムでは
ピンボケになる。実質的にハーフと考えて使った。セーフだったアクロスではパーフォレーションを入れたが、トラブルの
多いネガカラーはトリミングしている。
このカメラについて、実用品という視点で書くならもはやコレクターズアイテム以外の何者でもない。決定的なのはフイルムが
自力で作るしかなく、完璧に性能を発揮させるなら、120フイルムから一枚だけ切り出して単発カメラにするか、35oフイルム
で実質的にハーフサイズとして使うしかない。120でロールフイルムを作っても裏紙を使えないからバックコートの弱さで傷だらけ
になってしまう。135の切り出しと装填は極めて面倒で、誰でも扱えるようなカメラではない。
純粋にカメラとして考えると、まさにとんでもない高性能機だ。1930年代にこれだけの機能をこの大きさに詰め込んだカメラを
他に聞かない。搭載されているレンズは優秀で、接写でもピントグラスを使って正確にピントが得られる。一般撮影では連動距離計
を使うまでもなく、目測できちんと写る。
複雑で使いにくいという指摘があるだろうが、現代フイルムを使う限りそうでもない。速度を一定にし「明るい」「曇り」「日陰
や暗い」の3点で使う分には簡単だ。
目測で距離を決め、シャッターを巻き、倒立でフレーミング、レリーズ、巻上げという一連の動作で
意外なほどスムーズに使える。独特だがわかってしまえば実用さえ可能だ。ただし、頑張っても8カットなので被写体は選ばね
ばならない。
貴族がポケットから取り出して、「こんなの買っちゃった」と自慢するアイテムだったとか。わかる気がする。持っているのを
無邪気に自慢したくなる、そんなカメラだ。カメラとして一般の常識とは無縁かつ本気で作り込まれ、見事な高性能を持つ
スペシャルウエポンにして貴重な宝石だ。
《謝辞》
本稿を執筆するにあたり、「カメラ修理屋の気まぐれ雑記帳」の小暮様の
機能説明を参考にさせていただいた。大変参考になり感謝している。
−−−−−−−−I've done it. 何とかたどり着きました!>Sさん−−−−−−−−−−
May 2013