KOWA Kallo Wide



 コーワのカロワイド、35oをワイドと称した時代、昭和30年代のデザインと仕様を持つカメラ

 この個体は二眼里程標・TLR66Sさんから在庫整理ということで頂いた。他にも何人か手を上げ た人がいるから選んでいただけて光栄だが、「うらやましいぞ。かくなる上は絶対に直して報告すべし」という無言のプレッシャーが 随所からあり・笑


 「外観かなり劣化、シャッター固着、レンズ飾りリング欠品、側面革欠損、ファインダークモリ+左にヒビ、距離計ほぼOK、レンズ 綺麗」というお話だったが、ちょっと手入れすれば使えるだろうきれいな物だ。私にとっては美品レベル。

 カメラに貴賎は無い。写真が写せればカメラであり、立派な道具だ。ただし好みはそれぞれあって良い。私の好みは35oカメラなら 35oレンズを使えるカメラ、一台だけならそれがベストだ。中判以上なら画質が高いからそれ以上の広角も好きだが、ノートリミング を前提とすれば、35oが一番しっくりする画角だ。私の眼はその画角でチューニングされている。よってこのカメラはベストカメラ の一角に座するかもしれない。



 巻上げが固く、シャッターは切れないので前から分解。前玉は捻れば外れる古典的構造だが、飾りリングが無いのでゴムでつかんで 力いっぱい廻すと外れた。中から見慣れたセイコーMXが出て来る。シャッターは羽根油だったので清掃し、スローガバナーなどに 給油、巻上げからの連動リンクの動きはまだ悪いが、シャッター単体では復活した。



 後玉は組み立て式なので、完全清掃。元々きれいだったがすっきり抜けた感じまで達した。



 ファインダーの清掃と巻上げ関係の点検のために軍艦部を開く。オーソドックスな形式で開きやすい。ついでに外した外装などを 磨く。



 ファインダーは普通の形式。採光式ブライトフレームは無いのが時代を感じさせる。距離計はヘリコイドそのものによって駆動される。 よってバックラッシュなど皆無で35oレンズ用としては過剰な精度が期待できる。それらに比べて巻上げ関係が古めかしくかつ 動きが悪い。矢印は巻上げレバーに連動してセルフコッキングさせるリンク兼巻上げロック・解除の部品だが、バネが切れていた。 レンジファインダー・ビュッカーさんの報告でもこのバネが切れていた。 ここの作りはあまり感心しない。カロ140使いのFERCA・すきもの屋氏もカロの 巻上げ関係については評価が低いと話していたが、全く同感だ。バネを直し、給油して一応動くようになったがギクシャクして 扱いにくい。



 底部にはスプロケット関係と巻き戻しでスプロケットをフリーにする部分程度で実にあっさりしている。



 ファインダーの保護ガラスが割れていたので切り出して交換。これだけ小さいガラスは素人の私には切り出すのが 難しい。多少余裕を見て切り出し、金剛砥石でぴったり合うまで研ぎ出す。ファインダーレンズやミラーも清掃し、見やすくなった。



 後玉も外して清掃、一先ずこれにて整備作業完了だと思っていた。

ヘリコイドがちょっと重いなと思い、清掃しようと鏡筒を止めているリングを廻して外そう としたが、異様に重い。がっちりしたツールで廻すと少し回ったのだが緩まない。それでも廻していたら、突然ヘリコイドがひどく重く なった。同時にシャッターが押せず距離計の動きが止まった。まさにデッドロックに乗り上げてしまった。

 こういう時に無理をすると完全に壊してしまう。しばらく頭を冷やすため放置した。二日後、いろいろ触っている時にシャッター ボタンが少し動き、ヘリコイドの動きが少し楽になった。距離計もわずかに動いた。

 内部でリンク同士が干渉している。鏡筒固定リングが廻しても緩まないのは相手もリング状で、共周りしてしまうからと推定した。 逆廻しで戻せば何とかなるかもしれないといろいろやったらついに成功、全ての機能が復活した。根本解決ではないが、分解せずとも シャッターなどは整備できるから、このまま使える!



 改めて内部を見ると各部が傷だらけだった。二眼里程標氏のところに来る前の持ち主が無理にいろいろやって壊したのだろう。



 コミナー35o2.8、ジャンク部品から飾りリング代替品をでっち上げた。多少のフード代わりにもなる。もちろん内部は黒く塗った。



 各部を磨き、皮の割れ目を埋め、皮にウレタン塗料を塗って拭き取る。元が良いからきれいになった。









 汎用に無いサイズなので、転がっていた材料でレンズキャップ製作(仕上げ後ネガカラー撮影中の状況)

《試写》

 先ずはアクロスにて短尺を作って機能確認







 一枚目は補正無しの逆光だが表情が消えていない。二枚目は絡む蜘蛛の巣がきちんと出ている。 三枚目は最短(50cm)だが石の質感がちゃんと再現されていて、暗い部分に調子がある。問題無しというより良い。

 DNP200にてネガカラー







 ネガカラーに限らず、デジタルデータは簡単に色を変えられるが、これらはスキャンしたものからほとんど変えていない。三枚目のみ マゼンタ転びなので修正した。近距離から遠いものまできちんと深い色で出た。絞りを開くとピントが少し甘くなるが、開放でも一応 使えるレベルで、深い色で見られる絵を作る。5.6-8.0辺りまで絞ればきちっとピント感がある。先鋭だがキリキリとした感じではない。 多少の内面反射が見られるので対策して完成とした。

 しっかり油が回ると巻上げは滑らかで軽い。しっかり最後まで巻き上げるよう注意すれば、空振りは無くなった。シャッター・絞り ・距離が上から一目でわかるので使いやすい。巻き戻しはノブとしては軽く、最後のフイルム外れがわかりにくいほどスムーズだ。 ファインダーは写していた時に感じたとおり、視野率が低くおよそ80パーセント程度。写す時は見える範囲の一回り外まで写ると考えて 写さないと冗長になる。シャッターは軽く、タイミングを逃したりスローで失敗することは少ない。距離計は分離が良く、近距離では 強い味方だ。もちろん3メートルに合わせてキャンディッドで十分ピントが出るから、速写を損なう事は無い。古いレンズにありがちな 周辺落ちは全く見られない。古臭さが無いレンズである。

 いかにも昭和30年代のデザイン、堅実な機能がある。進化した現代フイルムでは一眼レフの必要を感じない使いやすさと性能がある。 スナップなら今も実に魅力的なカメラだ。

◎レポートを書いた後、専用ストラップを装着した。専用ストラップは「時々持ち出すぞ」というサイン。35oでは稀な存在(当社比) と思ったから。


☆ありがとうございました。大事にかつどんどん使わせていただきます。>TLR66s様
 

June 2013

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