MAMIYA6 T 

 「レンズは多分ついて無いですが古そうなので再投稿w ★ジャンク品★マミヤ MAMIYA SIX 6 」


 このカメラと出会えたのは、ツイッター仲間の恐竜さんのこのツイートだった。ごく初期型的なジャンクが出ていると 言うことで、皆の興味を引いた。

 しかし、掲載されていたのはフタを閉めた写真だけで、レンズが何か、そもそもレンズがついているのかさえ不確か だった。私はおそらく前板が開かないか、蛇腹がぼろぼろなので、そのままジャンクとして出したと言う気がしたので、 人柱として落札した。もちろん競争は無くてスタートのまま落ちた。



 私の予想の通りレンズはついていた。フタが開きにくく、蛇腹は指が入るほどの穴が開いているのも予想通りだった。 ツイッターにこの写真を掲載したところ、1950年にマミヤに入社された  kisasaさんから以下のコメントがあった。

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《オークションを見て》

古い資料を引っ張り出して調べて見ました。戦前のもので巻き取りノブの形状からT型のようです。 それにしても随分と古い物が出てくるのは驚きです。

戦後の昭和21年1月生産はV型57台、2月48台と有ります。

《私のところに到着した写真を見て》

いやー凄いカメラが出て来ました。シャッター取付け部基板と巻き取りノブの形状から間違いなくT型です。 是非復元を!

《私の質問に》

持ち込みレンズを希望に・・・・お尋ねの件聞いたことが有りません。同焦点距離のセコールをズイコーへの交換は 耳にしましたがプライベートの処理のようでした。

古い資料(マミヤのあゆみ)には昭和16年12月、T型=298円、U型=384円とありました。


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 恐竜さんからは「アサヒカメラ編昭和16年版日本写真年鑑」の中から、このカメラが出ている宣伝ページを資料として 提供いただけた。



 24800円、いや、248円だ。当時の学校校長級の給与を大きく上回る。今の価格では数十万円以上である・・・一つの窓で 撮影範囲確認と距離合わせができ、便利なバックフォーカシングで距離計連動、セミオートマットで反射ファインダーまで 装備している。当時どころか戦後のほとんどの66フォールディングカメラを上回る機能だ。

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 この貴重な初期型を所有し、いろいろ発表されているNECOさんの記事では 諸元について以下の通りと報告されている。

マミヤシックスI型(1940年発売) - 一眼式連動距離計と、ウェストレベル撮影用反射ファインダーを併設する。
レンズは3群3枚上代光学製KOLトリオ7.5cmF3.5またはKOLスペシャル7.5cmF3.5、シャッターはNKSラピッドB、
1-1/200秒。フィルムは一枚目を赤窓で出し、後は自動巻き止め。


元記事へのリンク
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 本物の初期型と判明、徹底的にレストアして復活を報告したい、俄然その気になった。



 蛇腹の穴は縦のものと、複雑な大破れ(幸にもタスキの陰で補修しても目立たない)の二箇所。



 基本分解。前板はネジが完全に固まっているので、外さないで作業すると決定。



 なぜかシャッターリンクが無い。このままではレリーズ以外ではシャッターを押せない。



 軍艦部は簡素なものだ。全てしっかり固着しているし、ハーフミラーは用を為さない。これは交換するしかない。 距離計や巻上げは給油と清掃で機能回復した。



 初期型特有のウエストレベル・反射ファインダーは凸レンズ一枚とミラーだけで構成されている。古典カメラのものを 軍艦部に組み込んだというもので、曇っていたが洗浄できれいに見えるようになった。使いやすいものでは無いから、 後の機種から省略されたのは納得だ。



 レンズは前後ともノンコートのようだが、見事に曇っている。シャッターはまともに動かない。



 レンズは3群3枚上代光学製KOL Special 7.5cmF3.5、シャッターはプロンタータイプのNKSだが実に簡素。T B 1-1/200で タイムのあるのが戦前らしい。ガバナー周りの清掃と給油、少し錆が出た羽根の清掃とドライ潤滑でしっかりした動きに なった。戦後すぐの時代のものよりむしろ材質が良く、第二次大戦突入寸前とは思えない。レンズは洗浄で見違えるほど きれいになった。傷がごく少ないのでレンズ評価もできるレベルだ。



 潤滑のため底板を開く。後のものと全く同一で、給油で一応好調になったが、廻すとカリカリ感がある。



 音の理由は青い部分、三脚座を固定するリベットの頭が、黄色い部分のバネと干渉していたからだった。リベットの 頭を少し削って解消した。



 外装の補修中。この作業を進めないと痛んだ皮が剥れたりするので、浮いたところは張りなおし、欠けた部分はゴム系 接着剤を盛って周りと似た感じの表面凹凸の仕上げをした。この後に水性ウレタン塗料で光り過ぎない程度に塗った。 ウレタン塗料は材質の強化にもなるので古い皮の表面処理には欠かせない。



 蛇腹補修にかかる。手順は以下の通り

 G17を断面に塗って切断面接合・水性黒ウレタンを外側全面と内部の角に塗布して強化と小穴塞ぎ・合成ゴム系黒接着剤で 穴塞ぎ兼皮膜で強化・複写機用のトナーでべたつきと光りすぎ防止処理・・・これで厚みを増さずに直せる。注意としては、 各段階でしっかり乾燥させること。特に水性ウレタンは乾燥まで時間がかかる、手を抜くと張り付いてしまい、使い物に ならなくなる。従って、前蓋は乾燥するまで閉じないこと。



 こちら側は皮が開閉のために折り切れしていて、ピンホールになっているのでしっかり処理する。



 一日置いては確認・補修を繰り返し、一週間で処理完了。光漏れは止まったはずで開閉には問題はない。オリジナルが 残せて良かった。(とこの時は考えていた)



 シャッターリンクが欠損しているので、ジャンクから移植。ただしサイズが少し短く、角度も異なっているので継ぎ足し たりリンクを調整したり、結構面倒な作業だ



 これがリンク。シャッターボタンのストロークを回転運動として伝える



 何とか作動するようになった



 一先ず完成





 三枚玉のようだ






 古風な反射ファインダーが組み込まれている。ローアングルでは便利に使える









 これで良かろうとテストしたら光漏れあり。何度か補修したがなかなか上手く行かない。思い切ってジャンクのフジカ6 から蛇腹を移植した。サイズが少し大きいが何とか適合させた。外見はほぼ同じなので違和感はない



 蛇腹のプレートはサイズが合わないので二重にして完成

《試写》

 数回行ったがすべてアクロス、低温現像にて処理









 三枚目まではまだ光漏れ対策が完全ではない時のもの。最後は対策後

☆マミヤ6の初期型、第二次世界大戦が始まる頃のものとは思えない完成度だ。戦後にぞろぞろ出てきたスプリングカメラに 劣るところは全くないどころか、多くのものより勝っている。一眼式二重像距離計、セミオートマット、ノンコートだが 明快で重厚感のあるレンズ描写。強い逆光ではさすがにハローが入るが、写真として 使えるレベルである。

 もちろん現代レンズに比べれば、全体にピントが甘く、特に周辺では解像度が低い。また、全体に暗い方に傾いた特性で コントラストが高いが暗部のディテールは弱い。しかし、70年の差があるだろうか。

 ローアングル用として使えるが、左右逆像で使いやすくはない反射ファインダーを除き、コーティングを施したのが 戦後の物といって良いだろう。その他に後期型に劣るのはフルオートマットくらいだ。このカメラがヒットしたのは当然 だ。

 ーーーーー「最初から完成していたカメラ」私はそう感じた。ーーーーー


☆恐竜さん、NECOさん情報をありがとうございます。kisasaさん、貴重な証言を頂き感謝します。


January 2014

!後記 既に書いている通り、距離計は固着している上にハーフミラーの反射が消えて使えなかった。今回のテスト撮影は 全て目測だった。後の時代の距離計はT型とは全く異なるので乗せかえられなかったからだが、その後何とか動くように 直してハーフミラーを取り替えた。ただし、風が吹いても動いてしまいそうな簡素すぎる固定方法なので、完璧とは到底 言えないが、一先ず使える程度になった事を報告しておく。


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