SEMFLEX Studio

 セムフレックス・ステューディオはその名の通りフランスのSEMで作られたポートレート用二眼レフだ。 フォトグラファーnoBuさんから預かった一台。

このカメラについては、リンクの中判への誘いの機種別掲示板に あるレンズマニアさんの記事が詳しい。由来を知りたい方はそちらを参照されたい。



 一通り稼動しているが、フレアっぽいとのこと。前玉の裏にカビがひろがっているので前玉を外した。



 前玉の固定リングが曲者だ。非常に薄く引っ掛かりが少ない上、反射防止のためか黒い塗料で全てのネジ山が塗装 されている。針で徹底的に剥がし、カニ目レンチの先端を削り直した。強く外に押し付ければフィルターネジの山が 痛み、軽い力ではツールが外れる。半回転緩めては1/3戻し、CRCを少しつけて潤滑し・・・小一時間かかって何とか外した。



 外れれば清掃は簡単、ただしカビの根が残っていたのでごく軽く研磨した。経験的に一面だけならコーティングが なくなっても大きな問題は出ない。コーティングとフレアを秤にかければ、ソフトレンズとして使うので無い限り 研磨という選択が勝つ。カビによるソフトレンズ化は単にぼやけるだけで、本来のソフトレンズのピントの芯を残したまま 周辺をぼかす効果には及ばない。

テイクよりビューレンズが大きい。ファインダーでの明るさ≒使い安さを狙っている。

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☆コーティング≒レンズの表面に入った光は、屈折するものと反射するものに別れる。数パーセントの反射が曲者で、 総光量の低下と、内面反射の元になる。後者は鏡筒の内部構造で防げるが、前者はレンズ構成枚数×2で効いて来る。

 現代のズームレンズは20ー30枚のレンズで構成されるから、反射は大問題だ。有機物の蒸着などでコーティング して反射率を下げ、透過率を上げる事が急務になる。単層からマルチコーティング、真空蒸着や放電式蒸着など いろいろと進化して来ているのは当然だ。

 これが昔のレンズとなると話は違う。構成は多くても6枚程度で、光量の低下は大きな要素ではない。不正規な光による 画質低下は、コーティングより鏡筒の構造やコンディションが大きく影響する。

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 カビはこれらの観点から言えば「古いレンズなら磨く方が良い」ということになる。もちろん平面限定だ。ピッチで型を 作れて、その他の用具もきちんとしていて、且つ天才的な手の技を持つなら曲面も可能だが。



 これで良しと試写に及んだのだが、私の目ではピントの山が見えない。望遠レンズをほとんど目測で写すと言う技が 必要になった。理由はファインダー周りの汚れだ。ところがアルミダイキャストで固められてファインダーが分離できない。



 何度も確かめてフード部を分解するしかないと悟った。理由は印のところの溝だ。開閉で印の部分は使わない。そして エンドが少し広くなっている。つまり軸を抜いてフードを外すタイプだった。



 フードの後ろ側を外した。軸は少し押し出すと手で抜ける。予想通り溝のエンドで前との連携が外せる。



 抜いたピンの拡大。右のエンドだけ縦のスプラインがある。これが抜け止めになっている。正解だ。



 前部分は向かって左にピンを抜いて外すタイプだが、少し変形していて抜きにくい。このままでも作業できるので コンデンサーレンズ兼用のピントグラスを抜いて内部を清掃した。ミラーは交換の必要は無い状態だった。ファインダー の枠は35o相当だ。トリミング指標か、ローライキンのような135フイルム流用装置が設定されているのかもしれない。



 清掃後。奥側のネジは付けるのが大変なので外したままにした。前板を跳ね上げるバネが押さえになっているのと 後二本で固定されているので実用の問題は無い。













 底の赤窓で1を出したら、カウンターのスタートボタンをスライドさせたまま巻上げ、窓に1が出たら撮影スタート。 位置が正しいかは背中の赤窓で確認できる。ワンカットごとにキャンセルの分を下げると次が巻ける。ただし、 シャッターは巻上げと無関係に何度でも切れるので、撮影後は常に巻き上げて置くこと。

《試写》

 望遠なのでプレスト400を使った。











 最後のカットは4枚目の合焦部。正確に人間に合っていた。

☆「フワフワに写る」とオーナーが話していたが、清掃の甲斐あって芯のある描写になった。セムの二眼レフ共通の 芯のある(合焦部の先鋭度が高い)柔らかな(軟調)描写だ。望遠なのでパンフォーカスでは無く被写体の前後がボケる。 このボケが煩わしくなく、さすがスタジオと名乗るだけのことはある。スタジオでライティングを決めて前後をボカす モデル撮影にうってつけだ。

 150oとしては短く軽く、ビューレンズとテイクレンズが接近していて、近距離(最短1.5メートル)でもパララックスは ほとんど気にならない。ダイカストボディーの剛性が高く、独特の塗装が滑りにくくて良い。総合的に良くできたカメラ、 実際に写すときの事をよく考えた構造だ。映像の国、フランスらしい製品だと感じる。

 ただし、整備性は最低。ネジを隠すのはフランスカメラに良く見られる。他のメーカーとは異なる構造も含めて 分解がパズルになる。


☆ありがとうございます。洒落たカメラですね>noBuさん


May 2014


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