KODAK VPK (Vest Pocket Kodak) 《ツル単》



VPKの基本形、初期型の艶塗装仕上げ(ツル単)のタイプ。ナースマンさんより拝領。



 シャッターはT、B、と1/25、1/50の一応複数エバセット、御丁寧にタイムやバルブは三脚用、1/25が明るい 1/50が輝くほどの明るさで使えということらしい。絞りには1-4の数字がついているが、明るさではなくて 撮影状況の目安が書かれている。

 左(開放)から、1,Near view, Portrait. 2,Averaige view. 3,Distant view. 4,Clouds Marine とある
  1近景とポートレート、2平均的景色、3遠景、4海辺 ということだろう。

 この時代のフイルムは感度がごく低いから、1/25秒で指標を参考に絞りをコントロールしたのだろう。 もともと6.3程度の明るさしかない単玉(二枚貼り併せのメニスカス)で、焦点距離が90o程度だから、開放でも そこそこ深度がある。これを利用して15フィート程度の固定焦点にし、遠景は一般的に明るいのを利用して絞り こんで被写界深度を稼ぐと想像した。固定焦点カメラの基本思想、"近景を主にし遠景は被写界深度で そこそこ描写する"のご先祖様か。

 従ってネガ濃度はラティテュードに任せることになる。露出計など無い時代のものだから、厳密な露出よりも ピントに重点を置いているのだろう。現代フイルムだとオーバー気味になるから控えめな軟調現像が必要になろう。




 シャッターは非常に軽く、歯切れが良い。1/25秒でも手ぶれしにくいのは美点



 ファインダーは反射式で縦横切り替えできる。非常に曖昧で写るおよその方向の確認程度にしか使えない。矢来 と呼ばれる繰り出しタスキは意外にしっかりしていて、平行度などそこそこ良い。実用として十分だ。



 上のフタは簡単なロックで、合口が少ないから現代フイルムでは光漏れがありうる。実用するなら何らかの 遮光の工夫が必要だろう。







 後の穴は点検口、フイルム装填状況や蛇腹の確認などに使える。



 この隙間にフイルムを落とし込む。ほぼバルナックの方法だが、見たとおり遮光のためのリブが極めて低い。これで 完全な遮光は期待しにくいのだが、裏紙付なので意外に光は漏れない。しかし安心レベルではなく、テストでは 光漏れが一部にあった。実用にはちょっと工夫するべきだろう。

 一本目を写した後、合口の溝に毛糸を入れた。モルトでは加工が難しいし貼り込みも面倒だが、毛糸ならフレキシ ブルに対応できる。毛糸や起毛紙は加水分解することも無いから、モルトはできる限り使わない。

《試写》



 以前に頂いたマコ200のネガカラーが手元にあった。今回はカッターが間に合わなかったのでこれで写してみた。 期限切れで現像経験の無いフイルムなので、色は参考まで。



ファーストカットは光漏れあり



 縦位置はファインダーでは垂直を保ちにくい





 ベンチに置いて撮影

☆パンフォーカスで1/25と1/50を選び、絞り以外は何もできないのだが、意外なほど良く出ている。コダックの 張り合わせ単玉はボックスカメラなどで使われていて、69なら十分実用になるが、127の6×4でも十分使える。

 あまり書かれる事が無いが、古いコダックのシャッターは良くできている。何より耐久力が高い。100年近く経つ ものでも整備前に平然と動作するものが多い。ボールベアリングを使っていると誇らしげに書くものがあるが、 事実として独自タイプは壊れにくい。KODAK35などより現代的になったものは別で、内部のカバーが無い分ほこりが つきやすく、給油すれば羽根に回りやすくほめた物ではない。それでも整備すれば確実に動くからタフではある。

☆このカメラは「フード外し」で昔から楽しまれている。単玉は本質的に口径を大きくすると収差が大きくなる。 それを避けるために最大口径を制限しているのが通称フードだが、これを外すとソフトレンズになり、昭和初期の 「光画」時代にもてはやされた。ソフトレンズが非常に高価だった時代だからこれはわかる。

 このレンズをデジタルカメラにつけて楽しむ人がいる。頭から否定する気は無いが、必ず「元に戻せる」方法で 行って頂きたいと思う。少ないとは言えフイルムが存在するカメラを元に戻せない方法でレンズのみで遊ぶのは、 文化財の破壊に他ならない。

 4×6cmに対応したレンズを大きくても24×36oで使ってその本質がわかるはずが無い。全画面でトータルに 評価すべきだ。なによりストレートに遊んで楽しんで貰いたいと思う。制約もそのカメラの本質だ。


☆再認識しました。ありがとうございます>ナースマンさん


June 2014


トップに戻る