OLYMPUS PEN (片耳)



 初代ペンが並んでいるのはSpさんの整備依頼、「ファインダー整備を乞う」による。左が片耳(アイレットが右だけの初期タイプ)で、 右は両耳、この片耳に右からファインダーを移植して欲しいと言うことだ。この写真で片耳には前面のガラスと下枠が無いのがわかる だろう。初期ペンは下請けの三光商事で作られ、後に認められて本社で作られるようになった。これはシャッターボタンの形状が本体と 直行する筋つきなので、オリンパス製造のものだ。性能は初代全て同じなので、カメラとしての価値は全て等しい。骨董としての プレミア度は古い順だが、私は実用しか考えないので肩ストラップが使える両耳が好みだ。このあたりは各自の価値観に拠るだろう。

 片耳と両耳は小さな違いだが、製造時期が異なるので別機種として取りあげた。

 Spさんは激しい汚れの清掃のため分解し、スペアから移植しようとしていて力尽きたそうだ。ファインダーは単純に見えるが、意外に トラップが多く繊細なので事情はわかる。博識で正確な観察眼を持つSpさんのカメラを預かるのはやりがいあり。



 距離計なしだが採光式ブライトフレームなので、ただの枠ではない。軍艦部を外すと組み込まれているので、上下4本のネジで外す。 ネジの一本はファインダー内にあり、カバーを取らないと外せない。対物レンズ二枚、光窓枠用ミラー、合成用ハーフミラーと接眼 レンズ、それにプラスチックの枠や一部を摺りガラスにしたガラス板などで構成されている。

透視型のファインダーは大別して@ただの枠のみ(枠だけのフレームファインダー、ガラス入り、逆ガリレオタイプなど)Aアルバダ式B 採光式ブライトフレームがある。@の枠のみだと視野はすっきりしているがパララックスマークなどは入れられず、写せる範囲を見切り にくい。Aのアルバダ式は、視野内で二度反射させて撮影可能枠=フレームの空中像を見るので、新品でも中央部の不要反射で逆光に弱い。 Bは明確にブライトフレームを必要部分だけ視度に合うように浮かばせられるので、最も見やすくフレーミングしやすい。

 ハーフでも簡略にせず、視野をすっきり見せようという心意気に好感が持てる。シャッターボタンに宝石をはめ込むような無駄な 装飾ではなく、カメラの本質である良い画質と、きちんと見切って写せるという機能追及は、技術者の「本物を」という熱意に 他ならない。



 組み換えは簡単だったが、片耳と両耳では部品に違いがある。例えばシャッターボタンの形状が少し違う。ただし、内部のことで 外から見える部分は同等。改良によるのか、元々複数の会社で作ったので、多少の違いがあるのかは不明だ。また、巻き戻しノブの下に 入るワッシャーにも形状の違いが見られた。このワッシャーは巻き戻しノブに適当なテンションを与えるものだが、二枚のタイプと一枚 のタイプがある。今回は重くなり過ぎないように一枚で組んでみた。以下、後述の私のものも含めて、外装で同じ部品なら一番きれいな ものを選択した。



 組み替え完了。これできれいな片耳が完成したが、残った部品が”ほぼ”一台分ある。残念ながら部品の不足があるのでこのまま では組めない。残ったものは適当に処分せよとのことだったので手持ちの改良(思い切りボロ)を思いついた。



 残った部品はどう見ても私のものよりきれいなので、こちらをメインに両耳を組んだ。そのまた残ったものは、ある部品だけで 仮組みし、スペア部品としてストックする。これにてめでたく三個二が成立した。

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☆ペン初期型は完全なマニュアルカメラである。シャッターはBから1/200秒まで、絞りは3.5-22、近接は0.6メートルまでと立派なもの、 当時のフルサイズカメラと比較すれば、連動距離計が無いだけだ。ハーフフォーマットで28oだと固定焦点でも十分使える被写界深度が あるから、距離計をつけても邪魔なだけだろう。入社三年目の米谷氏が6000円で売れるカメラを作るよう命じられ、出来るだけ簡単な ボディーに四枚・テッサータイプのズイコーを乗せるという考えは、いかにも真面目な技術者の発想だ。

 初期型はフルマニュアルだが、わずか2年後に単速EEのPEN-EEが発売され、手軽さと性能で大ヒットする。その後、リコーやキャノン も頑張り、ハーフフォーマットはまさにファミリーカメラとして認知された。「小さくて高性能」を追求した戦後の日本を象徴する製品 群の代表である。初期型にはアイレットが右だけの片耳が少数存在する。初期型はもともとの数が少なく、片耳はより希少性が高い。

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《試写》

 試写にはイルフォード、FP4+を使ってみた









 遠景、近景、人物、室内と写してみた。結果はまさに”ちゃんとしたもの”と言える。ピントもコントラストも良い。一枚目の富士山は 霞がかかっていて、目視でもはっきりしていないのだが、ほぼ見たコントラストで出た。室内撮影は開放で1/25秒を使った。手持ちで 多少のブレはあるが、ピントは周辺まできちんと来ている。遠景も曖昧にならず、周辺まで出る。

☆今までテストしてきたペンシリーズでは一番良い結果を得た。高級タイプのSやDより個人的には良い結果だ。特にピント感が良い。 すっきり固すぎない。ネガカラーで写せば今でも立派な記録カメラとして使えるだろう。以前の評価撤回、ペン再認識・・・

 初期型は後のものに比べて過剰品質と言えよう。例えばシャッターはB、1/25-1/200秒ある。レンズが良いものなら1/250秒の 単速でほとんどが事足りる。整備用のBと低輝度用の低速が一つあれば申し分ない。個人的にオリンパスのコンパクト35oカメラの 最高傑作と思うトリップ35はまさにその方式だ。

 ヘリコイドは300度も動いて60cmまで寄れる。それも指標が非常に細かく、単独の 距離計を併用すれば精密ピント合わせが望める。ペンに果たしてそこまで必要かといえば、後のEEの割り切りがヒットしたことから 過剰品質だったと言えるだろう。しかし、それ故、写す人の小さくとも精密なものを操ると言う満足感を生むのだ。


☆愛着に足る、ですね>Spさん


November 2015


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