MEOPTA Flexaret 6



 フレクサレット6、間違いなく魅力的な二眼レフの代表の一つだ。Kzさんのレストア依頼の中にこの名前を見た時、一瞬これは無理と 断ろうと思った。このタイプには苦い経験があるから。

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 21世紀になって間もない頃、レストアを始めて数年した頃、ある人からこれの不調を見てくれと依頼され預かった。巻上げと シャッターセットの不調ということだった。当時の私は毎週一台をネットに報告するペースでレストアしていて、自分では電子系 以外ならほとんど何とかできると思い上がっていた。軽く直せると思っていた・・・直せなかった。

 駄目だった言い訳はいろいろある。逆転させてはいけない巻上げノブを無理に逆回ししてあり、リンクやギアが痛んでいたなど。 しかし、直せなかったのは事実だ。ギブアップを伝え、返送しようとしたらいらないので適当に処分してくれと言われた。

 この失敗が胸に引っかかっていたのだが、あれから10年は過ぎた。リベンジの時かもしれないと覚悟を決めて引き受けた。

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 依頼されたのは同じ機種三台。Kzさんによれば、最初の一台が不調なので次々に今度は良いだろうと仕入れたが、それぞれ 異常や不安定とのこと。先ずはその中でシャッターセット等が不良のものを調べた。以下の記述は主にその個体のもの。 ただし、巻上げノブの分解は別個体

 

 基本構造の確認。スタートマーク式セミオートマットで、回転検出リールとウラブタを閉めるとカウンターをスタートさせる レバーによる。セルフコッキングは巻上げノブと回転検出リール、コッキングレバーを連動させて行う。



 前周りは大型ヘリコイドが本体側に固定され、それにテイクレンズとビューレンズ、シャッターブロックが前板として乗っている。 分解はレンズのセットリングを裏から外し、フォカシングレバーや指標を外すと前板ごと分離できる。



 ピントグラスはネームプレートを外すと露出し、ロックピンと共に前に引き出すことで外せる。しかし、ミラーは前部分全体を 本体から分離しないとアクセスできない。この状態から前後に分離する構造で、ミラーは前部分にある。他には全く見られない独自構造 だ。今回は預かった三台ともミラーは痛んでいなかったのでそこまでは分解しなかった。



 前板の裏側。ビューレンズはテイクレンズに前板とともに一体化している。テイクレンズののヘリコイドで一体動作する。

 基本的にフイルムを入れないとカウンターがスタートせず、シャッターなどの動作が見られない。この状態でダミーフイルムを 入れて巻いてもコッキングレバーがスタートしない。単体で調べるとシャッターには異常が無い。異常は巻上げリンク部だ。



 前周りを戻して巻上げ側を開く。ダミーフイルムで動作させて徹底的に動きを解析。動きはわかった。



 各部を清掃して給油し、動きを良くしたらチャージ動作をするようになった。シャッターが内部的に完全に押されていないので チャージ動作に入れなかったようだ。



 @が巻上げに連動してEの下につながるリンクを駆動する。これは強制的に起動させて巻上げ=シャッターセット中。その後@の レリーズ部と巻上げ部のロックが開放されるので巻き上げると内部の回転検出リールでCが周り、Bのカウンターを進めると Dの連動でチャージが停止し、シャッターがレリーズできるようになる。(連携動作は複雑なので説明は簡略にしてある) これで巻上げ側からのトラブルは解消した。

 この構造なので、万が一巻き上げノブが逆転するとコッキング側とカウンター・二重写し防止部の動きが矛盾して破壊的トラブル になる。以前に直せなかった故障はこれだと思い当たった。

 撮影の一枚目はその前に使ったフイルムを巻き上げる時にチャージされる。整備で強制的にシャッターを切っておくと、一枚目では チャージされない。なぜならシャッターボタンの動きでチャージリンクを起動するので、フイルムが無いから一枚目の前にシャッター を押して起動させる必要があるのだ。わかるまで悩まされた不思議な構造だ。他のカメラでは巻上げ動作で即シャッターチャージ 動作をするのが普通で、二重写し防止の仕組みは別途になっているのだが、このカメラはそれらを共用しているからこの不思議な 現象が起こる。(実用では問題ない)



 このノブが異様に軽く、かつ逆転してしまう。ワンウエイクラッチが効いていないので分解。



 もっと特殊な構造かと思ったが、ここは比較的ノーマルで、逆転防止の蔓巻バネに油と削れた金属粉が大量についていて、摩擦が 出ないためだった。清掃により逆転防止するようになった。ちょっと固くなったがトラブルになるよりは良い。



 後は組むだけなのだが、これがなかなか難しい。このカメラはレンズバレルのロック位置が決まっていない。いわゆる 「良い位置で固定」というタイプだ。そのため、レンズ固定リングには回転防止のロックネジが付いているのだが、今回整備した 3台のうち一台にはこのロックネジが無くリングなどに無理やりの力技の跡がしっかり付いていた。

 メオプタ製のこのシャッターはシャッターセットとレリーズが同一方向である。この結果、レンズバレルは常に同じ方向に 回転トルクを受ける。このため、レンズバレルが回ってしまわないようにロックネジがあるのだ。

 レンズバレルの固定位置はごく微妙で、ほんのわずかの違いが、「動作不能」「擬似的動作するがシャッターセット不良」「正常」 と変化してしまう。固定位置を明確に止めピンなどで決められていないのは何故だろうか、極めて精密に仕上がっているこのカメラで 唯一かつ最大の面倒ポイントだ。(この点を理解していない限り、レンズバレルの固定リングを動かしてはいけない)


 三台全てのシャッターなどの整備を行った。三台とも正常動作になった。


☆Kzさんに無理を言って一台いただけることになった。私の元にはライカ・ハッセル以外の古今の名器がごろごろしている。 また、愛用する気にならないカメラは既にふさわしいと思った人に譲っている。従ってお願いしたのは物欲ではない。 胸に刺さったトラウマに対するリベンジの象徴として手元にとどめたくなったからお願いしたのだ。




 いただいたものにはケースやレンズキャップがない。ケースは使わないのでかまわないが、レンズキャップは必要なので、 カスタムナイフのハンドルに挟むためのレジンペーパーで作ってみた。レンズに巻いて積層接着し、上の板と ドッキングさせ、ヤスリとサンドペーパーで仕上げた。



 しっかり接着したので、プラスチックキャップ程度の剛性は確保できた。機能は合格。外観は「写す時にはいらないので不問」と いうことにした。この素材には吸水性は無いので、普通に塗装できるがこのままでも意外に質感が良い。今のところ適当なシールを 張っている。

《試写》

 KODAK T-X400(1.2) T-MAX400(3.4) にて実施









 近景、遠景、静物、人物、それぞれに中判に求められる画質で表現している。絞り込んでパンフォーカスはもちろんだが、絞りを 開いた近距離でも極端にならない。合焦部からアウトフォーカスに段が無く、抑制された統一感がある。

☆ベラーの良さを再認識した。レンズとしてプラナーやクセノターに全く引けを取らない名レンズ、これ一台で作品集を企画しても 困る事は少ないと思う。

 カメラとしては指摘したレンズバレル固定の不明確さを除き、材質や完成度が高く信頼に足る。きちんと整備していればきちんと 仕事をしてくれるカメラだ。チェコの工業レベルの高さを感じる。


☆Thank's a lot! & ボヘミアン万歳>Kzさん


December 2015


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