Vest Pocket KODAK
コダックのベストポケットコダック、いわゆる「ベス単」だ。以前にも報告した気がするが、そちらはモデルBだった。今回の
ものはKzさんから預かったもの二台と、なぜか手持ちに転がっていたもの。Kzさんのものは背面に書き込み窓があるモデルで
オートグラフイック(カーボン紙を挟んだフイルムがあり、それに備え付けの鉄筆でメモを書き込めた)であり、私のものは基本の
単純な黒艶の初期型、通称ツル単だ。
ベス単は絞りがF8〜F35だが、フードと呼ばれる部分を外すと6.8になり、収差一杯の写真を楽しむ人たちには良く知られた
テクニックがある。単玉で固定焦点だからソフトレンズ的になるのを珍重したようだ。
レンズは簡単に位置が変更できる。どこに焦点を合わせるか変更できるのだ。固定焦点をどこに設定するかで描写が変わる。
一般的には3メートル程度を選ぶので今回は3メートルに設定してみた。ただし二枚玉の方は位置変更は出来ない。
分解はピンク二本でレンズバレルが蛇腹ごと前板から外れる。外側の黄色四本で前板がタスキから外れる。
分解するとこんな感じになる。
整備して組み直す。
このように窓が開いて、そこに書き込める。カーボン紙入りのフイルムがそのために供給されていたそうだ。
ケースに元の持ち主が書いたらしいメモあり。シャッターの構造と整備などについて書かれている。大事にかつ頻繁に使われて
いたのが偲ばれる。
ピント調整中。底カバーと点検口を外し、ピントグラスを入れてルーペで見て手持ちで行った。ピント位置を少しずらすには
その都度ピントグラスを抜き、蛇腹を畳む必要があるので、手持ちの方が楽だったから三脚は出しただけ
単玉は後から廻すとロックも無く簡単にピント位置が変わる。ピントの山を見ながらだがあまりわかりやすいものではない。
レンズを最も前に出すと2m程度に合うが、これだと数メートルから先は完全にボケる。理想的には近接用・平均用・遠距離用の
三台を平行に使うという某プロのフジペット運用方法が理想か。
シャッターは全く触る必要が無かった。100年近く経っても単純明快できちんと動作する。問題は蛇腹だ。これはほとんど
全てで光漏れする。いろいろ補修したが、完璧はあきらめた。
左から、単玉オートグラフイック、単玉つる単、二枚玉オートグラフイック
本体の基本デイメンジョンやシャッターなど全て同一
背中にあるのは点検口、ここからレンズ整備やピント確認などが出来る。
《試写》
単玉は自家切り出しの富士アクロス、二枚玉は富士SSにて実施。120切り出しで11枚写せるので、前後半で二台に使い分けた。
こうすると水平比較が完全になる。
つる単
単玉(オートグラフイック)
二枚玉(オートグラフイック)
二枚玉は蛇腹の補修が不完全で、光漏れがあり完全ではない。つる単はオリジナル位置、単玉は3メートル程度にしてみたが
フイルムの浮きで2-2.5m程度にピントが来ている。明確なフイルム押さえが無いので、ピントグラス位置で合わせた位置より
少し前ピンになる。
☆127フイルム仕様なので、市販品はほとんど無い。自家切り出しが必要だが、120ならまだあるのでなんとかなる。実際の
ネガサイズで65o×40oと非常に横に長い。印画紙焼きとしてはトリミングが前提だったのだろう。
画質について、単玉で固定焦点でこれだけ写れば十分だろう。コダックの単玉はソフトレンズとして蓮根絞りをつけた
ものをスピグラでテストしているが非常に優秀だ。ピン合わせできればまた別の面白さがあるかもしれない。
いわゆるフード外しは実施せず。ボケボケを「味」とは思わないので。
このカメラを本気で使いたければ蛇腹がポイントだ。初期は皮、後に紙製もあるが、経年劣化で今はきれいに見えても
実用すれば必ず穴が角に開く。補修には限界があるから交換する必要があるだろう。その手間を考えれば、レンズのみを
デジタルカメラにて運用というのが現実的だが、写るかどうか、光漏れは、などの心配も含めて本来のフイルムで楽しむのが
この手のカメラの醍醐味だと思う。手間暇と不自由さを遊ぶ、そうでなければ今の基準では落第するボケレンズで遊ぶ
意味が無い。
☆大正時代の写るんです、ですね>Kzさん
November 2015