GRAFLEX Super Speed Graphic 45(改)



 私の部屋には大きな箱がある。中身は大先輩、610さんから頂いたカメラとその部品の山。普通の人が見たらまさに機械ゴミ としか見えないだろうが、私にとっては大切な物だらけだ。

 これはその中から。いわゆる4×5のスピグラ(おそらくアニバーサリー)の改造品。610さんはこれを二段重ねて、 4×5二眼レフを作られていた。おそらくその時の試作の一つなのだろう。いろいろな加工の跡が見られる。

 なんで皮が剥がされているかと言うと、自然に取れたから。接着剤が寿命のようで、ぱらっと取れてしまった。ただし 皮はしっかりしているので張りなおした。

 軽量化のため、カラート距離計やファインダー、その二眼レフとして不要な部品は全て取り外されている。また、乗せるべき ファインダー部との連係のため、ケースが加工されていて上部が開いているので、広角レンズが75oくらいまで使えるから これをいろいろなレンズのテストベッドに企画した。



 専用レンズボードは異様に高いので、プライウッド、つまりベニア板で簡易ボードを製作。


 シャッターは快調なのでテスト撮影に出かけた。



 見事に失敗。光漏れだらけだ。普通だと蛇腹の穴、バック周りの遮光が痛んでいるなどだが、どちらもしっかりしていて 原因不明。これを究明するためにテストを繰り返した。



 6カットをテストに費やした。原因は上部にあった。外されたファインダーなどを固定していた穴が、シャッター幕を 収納する部分に達していて、それらの穴からシャッター幕の隙間を通して回り込んでいたのだ。皮を剥いで全ての穴を埋め、 新しい皮で張り直した。



 アオリは、ライズ・シフトとベッドダウン併用のティルト(御辞儀のみ)で、スイングはないがレンズテストではストレート に写し、アオリは使わないから問題なし。





 テスト風景。焦点距離不明のレンズなので、リンホフのユニバーサルファインダーを方向確認に使った。



 今回使ったのはバレルの英軍用(ブロードアローとREF表記)で、焦点距離も名称も不明。f4.5で125o程度。絞りは 11までしかない。シャッターも無い。レンズシャッターでは使いにくい。1/1000まで安心して使えるグラフレックスの ボディーシャッターがぴったりだ。









 シャッターはいわゆるフンドシ式で、開放とABCDの4つのスリットを持ち、バネテンション6段で24種類のシャッター 速度を作り出せる。ただし操作が面倒なので私はB4の1/100秒とC4の1/320秒を主に使っている。ただしセルフ キャッピングではないので、ヒキブタは必須だ。




《試写》

 FOMAPAN 400 にて実施









 一応仕上がった。絞りは全て11にて。遠景がクリアーなのは偵察用のレンズで、遠景が本来の被写体だからだろう。 ただし試写の良し悪しはこのレンズの評価でしか無い。シャッタームラが無く、正確にフォーカスできるのがカメラの 良さである。

☆スピグラが報道の最先端にいたのは1960年代まで。大きくて複雑なカメラを操って、事件現場から舞台、 ポートレートまでまさにプロの道具だった。フイルムの進化に併せて小型化の波が押し寄せて報道の現場から消えた。 この変化に決定的だったのは35o一眼レフの台頭だ。軽く素早く、どんなレンズでも簡単に使える一眼レフによって、 報道用は一気に変化したのだった。報道でスピグラが活躍するのは、1940-50年代の映画の中になってしまった。

 今現在でこのカメラの存在価値は、比較的手軽に大きいフイルムを楽しめること。手間を惜しまなければ今も 素晴しい画質が得られることか。デジタル一眼レフが既にその精密さで追いついたという説もある。しかし、一度 大判のネガを見、焼いたものを見れば比較の意味の無さを理解できるだろう。電子記録ではなく、圧倒的な存在感は 決して色褪せない。75oから望遠タイプの300oくらいまでならピントグラスと内臓フォーカルプレーンシャッターが そのレンズの性能を全て取り出す。まさにテストベッドである。距離形式で軽いクラウングラフイックとの 併用は4×5フィールド撮影では無敵だ(笑)


☆なかなかエンジンが掛からず、お待たせしました>610さん


July 2016


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