栗林 PETRI
栗林時代のペトリー、戦後すぐの1948年の初期型、私と同い年。
このカメラは北海道のペトリの巨人、dinosauria さんから拝領した。当時はペトリではなくペトリーとカタカナ表記していた。商品名
ファーストなどいろいろ名乗っていた末にペトリーとなり、以後に社名もペトリとして歩む元になった機種。単独距離計を装備した
当時としては高級機だ。このタイプを三眼(Popしない状態で)、後のタイプは四眼(距離計用2、バーチカルとホリゾンタルファインダー
で合計4眼)と呼ばれている。
1948は発売年、オキュパイド時代の製品だ。KURIBAYASHI TOKYO のマークは珍しい。絞りは大陸式の刻み、シャッターは
T B 1-1/200秒で倍数系列にはなっていない。ファインダーは精機キヤノンと似たポップアップ式で、収納すると光路を邪魔して距離計も
見えなくなる。645で16枚撮り、赤窓式だ。情報を総合すると、セミファーストなどから進化したもので、戦後最初の製品
かつPETRIを名乗った最初のものである。後のカロロンRFなどにも続いた。
その後の数年間でU型(シンクロ接点付)、V型(+コーテッドレンズ)、スーパー(+距離計連動)と改良型を出し、ペトリの名を広める
元となったようだ。また、レンズには戦前からの中判用三枚玉、後にテッサータイプを乗せたが、製造したのは三好光学(旧淀橋・
東京市淀橋区西落合二ノ五一四・の会社で戦中までにレンズとカメラなどいろいろ作っていたが、終戦近くに合併で消えた)
または富岡光学らしい。残念ながらそれらの見分けは出来ない。
詳細について、camera-wiki org の記事を参照できる。
届いたのは皮がほとんど消えたもの。ざっと見たところではファインダー周りが汚れているので、先ずはそこから始めた。
独特のネームプレートの下に隠しネジあり。ここと数本のネジ、シャッターと前板開閉のボタンを外すと軍艦部が開く。
すっきり分解
格納式で飛び出すファインダーと上から見る反射ファインダーがあり、その間に距離計が組み込まれている。清掃するが
距離計はほとんど見えない。@ロックA左右B上下の調整ネジ。左右はハーフミラーでも大きく調整できる。上下は効きにくい。
レンズバレルを分解してシャッターなどを見る。この時にヘリコイドベースになる中玉が外れないので、プライアーで挟んで
回した。(失敗)。レンズは特に問題ない。清掃で十分使える。
シャッターに大問題あり。プロンタータイプの「音はすれどもシャッターは開かない」「カメラの姿勢によってちゃんと開く事が
ある」というもの。これは矢印部分のシャッターセットレバーと同軸にある"オウムの嘴状の部品"を定位置にするバネが切れている
事を示す。バネを作って入れられれば解決するが、これは私には「もう絶対に無理」な作業だ。理由は「適切なバネがない」
「あっても正しい形に作れない」「よく見えない」から。過去には何度かやったがもう無理ということ。
おまけに前述の中玉だが、プライアーで注意してつかんだつもりが、変形していた。前玉を入れる事ができない。直そうと
いろいろやっていたら縁にクラックが入った。こうなったら交換以外に方法が無い。なんと弱い材だ・・・
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◎ここで座礁していたのだが、 dinosauria123 さんからヤフオクに1円でボロボロの2型が出ているので、上手くするとこれから
部品が流用できると提案があり、1円は無理だったがごく安く手に入れる事ができた。ただし、誰かが触ったらしく前板開閉部品や
ネジ不足など、これだけでは完結しないジャンクなので、使える部品の元とすると方針を立てた。
程度はどちらも似たようなものだが、初期型はデザインに特徴があるから、これを中心に組んだ。中玉は同様に硬くなって
いたので、外さないでシャッターごと乗せ換えを行う。シャッターは単速状態だが、内部はほぼわかっているので、ごく薄めた
油でシャッターセットノブの開口部から数回に分けて注入、ガバナーが回復してスローまで使えるようになった。
☆この方法は毛細管現象を利用するわけだが、羽根に廻り易いタイプでは無理。中がガラガラだから何とかなったのであって、
他機種に適用してはいけない。羽根に油が廻ってアウトになる。内部と動作が完全にわかる人のみ可能・・かもしれない。
レンズバレルの固定用のリングは痛んでいて、どうやっても正方向では組めないので、やむなく裏返しで固定した。
こうなるとレンズバレルの位置が不安定になる。幸い、ガタは出ずちゃんと固定できたので良しとした。
この後、各部を仕上げてピントを調整して完了。ただし距離計は動いているがハーフミラーの劣化でほとんど見えない。これは
目測で十分使えるから問題なし。単独式は扱いが面倒なのでほとんど距離計は使わないのが私の流儀だ。
U用のハーフミラーが少しはましなので交換したが、心眼の術で何とか見える事がある程度、やはり目測運用だ。ポップアップ
ファインダーはこの時点でリリースすると飛び外れ、バネがどこかへ飛んでしまうので、静かに外して整備が本道。
(後日に交換して使えるようにした)
蛇腹には角切れやレンズ交換時に傷がついたので薄い皮で補修、ウレタンで仕上げた。収納は硬いが何とかなった。ただしウレタンは
完全乾燥しないと張り付くので、シッカロールで張り付き防止するべし。
ペトリ・アナスチグマート、7.5p F=3.5 すっきり抜けたレンズでノンコートの三枚玉
《試写》
一本目は21世紀初頭に期限切れのAPX400、蛇腹に損傷がありうるので、確認用ということで先ずは一本
一枚目のみ光漏れが少なく、何とか絵になったが、その他は多少の差はあれど光が入っていた。よく調べたら、角が切れた
のではなく、ちょうどタスキに掛かる位置の谷に近い部分に何かで突いたような穴あり。ごく小さい穴なのでテスト時に見落として
いた。皮自体は補修でまだ使えると判断した。
これを補修し、TMY400にて新春初撮りを兼ねて港へ向かった。
予想を上回る結果になった。16カットで私の手ブレ以外に失敗なし。近景から遠景まですっきり、逆光でもきちんと
暗い所が出ている。
☆ペトリーとカタカナ表記されているが、栗林からペトリに変わる最初のカメラ。戦後のまだ資源不足の中でこの性能は驚いた。
もっと曖昧な、いわゆる四畳半的結果を予想したのだが、良い意味で裏切られた。極めてすっきり現代的なものである。
周辺光量は多少不足がある。レンズの実質的被写界深度は絞りではっきり変化する。5.6以下だと正確に距離を合わせないと
ならない。距離計があるのでキチン合うのが前提なのだろう。ボケは素直で自然だ。
多少の周辺落ちはあるが、645というより65と言えるほど横(短手方向)があるので、645として周辺を裁ち落とせば問題ない。この
時代にはネガフルという発想は無い。印画紙に合わせて66でもトリミングが前提だから、645の縦横比はフイルム面積に無駄が無く、
実用カメラとして珍重されたのは納得できる。(バルダ69、セミイコンタ遣いの母は、66スクエアは考えた事が無かったそうだ)
距離計は残念ながらハーフミラーがほとんど反射しないので、最初から完全に目測として写したが、結果は申し分ない。実用として
十分使える。レンズが良い事が最大の勝因だが、簡素なシャッターがきちんと機能するし、ポップアップファインダーも問題
なかった。実際に写していて残念なのは、最短が1.5mという点。前玉回転だから収差補正が間に合わないと制限したのだろう。
せめて0.9mくらいは寄れるようだったら使い道が広くなろう。
反射ファインダーはほとんど意味が無い。わずかにローアングルで写す時に目安になる程度、この時代に使命は終わっていた機能だ。
裏紙式だからその他に機構的問題はない。畳めば小さいし、645だから16カット写せるので、ちょっとした旅行の記念に
じっくり数本写すなどには申し分ない。家族の記念から風景まで、きちんと使える良いカメラだ。
☆大変楽しめました、ありがとうございます>dinosauria さん
☆参照>tri-chrome・J.Baird Collectors Guide to Kuribayashi-Petri Cameras・camera-wiki org
Jan 2017