NIKON NIKONOSU

 このボディーは一昨年にA氏という読者から頂いていた。壊れたニコノスUがあるということで頂いたのだが、 レンズが無いのでしばし保管していた。



 今般、610さんより「コニカC35関連部品を活用せよ」ということでいろいろ預かった。部品のおまけにばらばらになった ニコノスWがあり、それはとても直せないのでレンズを流用しようと考えた。ただしレンズは後玉周りが真っ白になっている。 カビかと思ったらアルミの粉吹き、つまりリングが劣化してアルミナになっていた。これは大変と思ったが、 あっさりオキシドールできれいになった。幸いにもカビや傷は無い。



 他には痛んでいないが絞りやフォーカスノブの動きが悪いので、ハウジングからレンズバレルを 抜いてみた。四本のネジと同軸のバネでフローティングされた構造で、レンズバレル側にヘリコイドと 絞りを持ち、それらをハウジング側の白(フォーカス)と黒(絞り)のノブに連動させている。

 レンズのハウジングは本体とOリングを挟んで接触し、水圧で押し付けられてシールがより強くなる構造だ。レンズは その内側で本体側のマウントと直接連結する。水圧でハウジングがずれても、レンズはバネでフローティングされて いるので、水圧によるハウジングの変形は影響しない。カリプソ以来の独特の耐水圧構造で、ただの簡易防水カメラではない。



 清掃は簡単だが、ここの組み立てはわかりにくい。絞り位置をおおよそ22に、フォーカスは無限位置に するとリンクのかみ合い位置が縦に揃うので、目印をつけて位置を合わせた。書くのは簡単だが、この合わせ方を 見つけるのはなかなか難しい。また、2本のガイドピンと二箇所の連動部(フォーカス・絞り)をすべて合わせないと 組めない。意味が見えない人は触らないほうが良いだろう。ただ、レンズを抜くと前面の保護ガラスの裏側が清掃できるので 必要になったら注意深く取り組むべし。



内部機構は無理やり分解した時に壊れたようだ。シャッターがまともに動かない。



 原因判明。印の所にあるシャッター部を固定するナット部が割れていて、全体が動いている。





 この部分を押し込んで正規の位置にすれば動作するとわかった。メス側はダイキャストの一部で ねじを切り直すのは無理。やむをえず接着で固定した。



 状態を観察すると右手側のフックのところが欠けている。このカメラの 正しい分解は、まずレンズを外し、左右にあるストラップ金具兼用のレバーで梃子の原理を 使って内部機構を上に引き抜く。これでフイルム交換が可能になる。

 A氏によると、レンズを外した状態で本体を抜き出そうとしたが、フックの欠けでどうにも出てこなくて、 いろいろ工夫しているうちにやっと本体が抜けたが、力が掛かり過ぎて変形したとのこと。A氏以前の持ち主が、 フックを壊したのがすべての不具合の元と推定した。


☆(Tips)この手のニコノスのレンズが外れ難い時は廻すのではなく前に2ミリほど引き出すべし。引き出さねばバヨネットが廻らない。 どうしてもなら隙間にミシンオイルなどを指し、ゴムハンマーなどでレンズ周りを叩き、目立たないところをドライバーでこじる。 レンズが浮けば90度廻すだけだ。なお、温度が低いと内圧が負になってレンズの引付が強くなるので、適宜暖めると良い。

 軍艦部の引き抜きも同様の処理でできる。もちろん外した後は差した油を良く拭き取り、本体とOリング部すべてに シリコングリスを付け直すこと。Oリングに傷や変形が無ければ、防水性が高まり脱着が楽になる。






 上がレリーズ後、巻き上げ兼シャッターレバーが内臓バネの力で前に出る
下はチャージ後。動作良好。



 内部機構と割れたダイキャストは黒い接着剤で補修した。カメラを開く時は注意して行えば 梃子は片側で、損傷側はコインでも外せる。きちんとグリスアップしておくりが大事。



 レンズのセット位置は180度回転できる。目測では上から見るので倒立(一枚目の状態)の方が指標が見やすい。



 巻き上げレバーを手前に引くとレリーズ、手を離すと内臓バネでシャッターセット、 レバーを大きく引くとフイルムを巻き上げるシングルレバーオペレーション。 水中での操作を単純化するため。



 ファインダーは内部が曇っている。整備は困難なので別につける予定。



 コインで廻す所には専用フラッシュのシンクロ接点が隠されている。中央は枚数計。



 TU型を並べてみた。巻き戻しノブ、アクセサリーシューなど細かいところが改良されている。レンズも内部の指標や ノブの色と太さなど細部が異なるが、一つがW型用なのでU型もこのようかは不明。内部的には同じレンズだから共用できる。



 背面のメーカーロゴは「NIKON」と「NIHONKOGAKU TOKYO」で、時代の変化が偲ばれる。



リコー・キャディーのファインダーから作った35ミリ用ファインダー。ハーフの25oはフルの35oにほぼ対応するので 縦を横にして足をつけた。ブライトフレームは実写で一回り範囲が狭いが、周りは見えるので支障は無い。

☆結局、ファインダーはW型から切り出した。この顛末はTipsにて

《試写》

 以前にモノクロでテストしているので、今回は富士業務用400にて









 さすがニッコールと言うところか。明るさや撮影距離に関わらずきっちり再現している。ネガの 濃度が揃っていて気持ちが良い。多少の周辺落ちはあるがうす暗いところできちんと使える。4枚目はパララックス矯正で 少し下に向けたファインダーのセッティングミスにより下を向いてしまった(修正済)

☆ニコノスU型は初期型のマイナーチェンジだ。巻き戻しノブにハンドルがついて巻きやすくなったこととフイルム押さえが 機能的変化で、その他はエンブレムの違い程度。レンズは共用なので扱いやすい。

 距離計は無いので目測専用だが、被写界深度の指標が大きくて絞りで動き、距離目盛を挟むように 動くので極めてわかりやすい。昼間の戸外スナップでは400のフイルムならほとんどが固定焦点 として扱える。(試写では一枚ごとに距離設定している)

 名目50mまで(テストでは140mに耐えた)潜れる本物の水中カメラ、陸上でこの写りだから 万能記録用として喜ばれたのは納得だ。もちろんその後にハウジング式が素材の進化で実用度を 上げ、オート機能の追加などで追いかけたが、ニコノスはフルオート(V)、ついには一眼レフ(RS)に まで進化し、水中の王者として君臨した。

 フイルム装填やシャッターレバーなどスピーディーに扱いにくいが、スナップカメラとしても 十分な性能を持つので、厳しい環境をフイルムで記録するにはなお貴重なカメラだ。


◎ニコノスT-Vで気がついた事がある。これらは常にシャッターがチャージされている。手元にあるTは製造以来 50年は経過しいるが、少し新しいUと比べてもバネが痛んだ感じは無い。機械式カメラのシャッターはチャージしたままだと バネが劣化するという俗説があるが、ちゃんと作られたものにはその心配は無いとわかった。


☆610さん、楽しめましたありがとうございます。部品はそれぞれに活用されると思います。



September 2017

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