絞りの形

絞りの形がボケ味に影響すると良く言われる。昔のレンズはほとんど真円に近いほどたくさんの羽根でできているので、バックのボケが美しいとか、新しい型は絞り枚数が5枚なので、バックのボケが汚いとか。


さて、本当にそうなのだろうか。あまり検証した例を聞かない。テストと言っても、同一レンズで絞りの形を変えるというのは、現在のカメラではほとんど不可能だろう。

今回、たまたま610さんからいただいたジャンクセットの中に、写真館などで使われたシャッターレスのFujinar 210o F4.5があった。レンズとしては大きな傷はなく、フードをすれば十分実用可能な状態なのだが、何かで遊んだのだろうか、絞りの羽根がない。羽根どころかリング類も欠損していた。
もちろん元々はあったのだが、おそらくソフトレンズ用に加工する際に外してしまったのだろう。これに差し込み式の絞りを入れれば、実験可能だ。
ちなみに、専用フードは外した絞りリングと何かのズームの筒の一部を張り合わせ、ガラスを外したフィルター枠を接着した自作品、つまり全て廃物利用だ。もちろん内側は反射防止塗料(610さんのレシピによる)で反射防止してある。深いのでなかなか有効だ。

これを思いついた頃、リンクしているろーらい庵の掲示板で絞りの形がボケにどのように影響するかという話が出た。これはやってみなくちゃわからないということで、今回の実験となった。

先ずは差込絞りの装着方法だが、もともとの絞りのコントロールのために、100度くらいの幅でスリットがある。これを拡大してここから差し込むことにし、内部に受けのレールを作った。



用意したのは正三角形と五角形とマルチホールの変形絞りだ。もちろん、正規の真円のものは5種類ほど別途に用意した。材質は強度が高く、加工がその割には楽なのでレジンペーパー(紙にフェノール樹脂を塗布させた物)である。円形絞りはポンチで打ち抜いた。



差し込んだところ。



レンズに装着した状態。光漏れは差込口に起毛紙を張り、その隙間から差し込むことで解決した。



穴を開けたのは良いが、F値の計算で参った。
もちろん真円のものは、、焦点距離÷有効口径で求められるのだが、変形は大変だ。マルチホールは円の面積を全て合計して円周率で割ってルートでひらき、近似円の半径を求めてその二倍を有効口径として・・・
正三角形は公式に当てはめて面積を求め、同じく近似円にして・・・
五角形はどうもならない。仕方ないから適当にアバウトで数値を出した。

結局、真円絞りは開放の4.5から、6.3 11 22 36 60 という組み合わせになった。手持ちのポンチのサイズだからポンチが増えれば、細かくなるという寸法だ。

この程度の計算はできるが、まさか中学の数学をこんなところで使うとは思っていなかった・笑

《テスト開始》

使用したカメラはMentorである。69仕様だが、テスト枚数を稼ぐため、66のマスクを使った。フイルムはネオパンアクロス100をD-76にて標準現像した。
現像後、MINOLTA Dimage Scan multi Uにてモノクロネガで640dpiで取り込み、サイズを横700ピクセル、jpegで50%圧縮した。取り込み時のコントラストと輝度はスキャナドライバーのオート調整とし、二枚目以降は同じデータで取り込んだ。アンシャープマスクなどは一切使用していない。



先ずは比較にした真円絞り、F22での結果。



5角形絞り(F22相当)



3角形絞り(F22相当)


3枚のボケ部分を並べてみた



【評価】

撮影中には風があり、できるだけ影響しないように注意したが、1/20秒なので近景にはぶれがある。あくまでアウトフォーカスの部分を見るためなので、ピントを合わせた部分の画質は不問に願いたい。

後のアウトフォーカスになっている木の枝に注目していただきたい。確かに違いがある。予想通り、5角形・3角形のものはざわついている。いわゆる「汚いボケ」になっているといえよう。ボケの中にところどころ濃い部分と薄い部分ができて、それが煩わしさになっている。真円絞りはさすがにすっきりとしていて、濃度にムラがない。
推測だが、絞りに強い角があると、そこで光が回析し、弱いピンホールレンズの効果をするのではないだろうか。全体としてのレンズ位置による像だけでなく、それぞれの角での位置を基準として二重、三重の弱い像をフイルムに与え、結果として荒れたバックを作るのではないかと考えた。

この簡単なテストだけで即断は避けるが、個人的には「伝説は正しい」と結論付けた。今回は急いでいることもあり、単一の被写体で、濃度のみチェックできるモノクロだから、カラーでどんな風になるかは言えないが、少なくとも角がある絞りは、真円に比べてアウトフォーカス部が荒れるだろうことは、まず間違いないだろう。しかし、パンフォーカスを狙えばさして問題はなく、絞りが真円に近いものが望ましいかどうかは、写す写真の方向性に拠り異なるだろう。

☆後日、真円絞りにて写したのが下記の写真。その下は中央部分の拡大。1/250秒F22での結果だ。もともと大判用なので、69では周辺まで楽に写るレンズだ。




【おまけ】

レンコン状のマスクを付けるとソフトフォーカスになるのは良く知られている。絞り位置でも同様の効果があるかどうか、ついでに遊んでみた。
ほぼ同じF値の真円との比較だ。

先ずは真円絞り。F11



レンコン絞り、同じくF11相当



並べて少し拡大してみた。もちろん左側がノーマルな円形絞りだ。



レンコン絞りはアウトフォーカスにある木が二重になってしまった。ピントの合っている近くは確かにソフト、というよりフレアーっぽいが、中心部のピントはむしろ良い。レンコンの中心の穴は円形より絞り込まれているので、深度が深くなったためと考えられル。平面的な被写体なら何とか使えそうだ。中央の穴を少し小さくし、レンコン穴は周辺に寄せると、中心がぴったりで、周りにフレアーがかかる感じになるかもしれない。これはだいぶ改善の余地ありと見た。しかし、ソフトフォーカスフィルターの自作の可能性という点では興味深い。確かに昔はUVフィルターの中心を残して、周りにポマードを塗るソフトフォーカス、何ていうのがあったなと思い出した。

ということで、今後の実用の中でテストを続けようと思う。このテストについて、ご意見・ご感想など掲示板にスレッドを立てておくので、ご遠慮なくお書きいただきたい。また、こんな形の絞りはどうかなど、実現できるご提案は順次追試して見たいので、合わせてよろしくお願いする。

【追加・マルチホールと長方形】

マルチホールの中央を大きくし、周辺には25個の小さい穴を開けた。結果としてF8程度になった。風で手前は少しぶれている。1/125秒・ネオパンアクロス100



F16相当の縦横比が1対3程度の長方形。データは同じ。



マルチホールのバックは不思議なボケ方だが、汚くはない。実際に焼くならもっと明るくすると思うので、影響は少ないと思う。
驚いたのは長方形で、別にどこも不思議ではない。説明がなければ特殊な絞りと誰も思わないだろう。強いて言うなら、水平な枝が多少強調されている気がする程度だ。これだと、「ひょうたん型」などではまったくわからないだろう。影響が大きいのは、マルチホールと鋭い角のある形だが、直角程度では大きな影響は見られない。

絞りの形はよほど変形しない限り、大きな問題にはなりにくいと感じている。もちろんまだ点光源のボケは確かめていないので、後日テストしようと思うが、「8枚絞りより10枚の方がボケがきれいだ」などと判断する目は、残念ながら私にはない。まだ「違いがわかる男」の歳になっていないから・笑


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