. Camera Restore

APO Nkkor 480mm

アポニッコール、つまり製版用のレンズである。480oF9と長焦点で、巨大なものだ。これは私の所有するものではなく、ネットで知り合った北海道のMさんからの預かり物だ。絞りの故障とレンズの汚れについて依頼を受けて整備した。



これがほぼ全パーツである。室内の固定カメラ用なので大きさや重さに制限がなく、専用なのでマウントの互換性などまったく考慮されていない。その分構造はおおらかで、掃除のための分解組み立てを考慮した作りになっている。



レンズの清掃はそれほどでもなかったが、絞りの状態は悪い。全て分解して羽根を点検すると、錆や亀裂がある。絞りは12枚の真円絞りだが、材質は昔のものよりずっと弱い。



ピンが飛んでいるのが一枚あり、竹ヒゴで作成、錆びた物は磨き、軽微な割れは削り落として再組立してみた。



数回はきれいに動くが、すぐにまたスタックしてしまう。



見落としていた破裂が引っかかっていたのだ。この亀裂はどうにも補修できない。わずかの厚みの違いや引っ掛かりで簡単にスタックしてしまうのは明らかだ。



結局、これ以上深入りせず、以前採用した差し込み式絞りに改造することにした。幸い、構造がおおらかで、ちょうどガイドになる切り込みとスプリングがあり、ほとんど無改造で差し込み式で使えると判明した。元の絞りは、将来まともなものが手に入れば交換できるように内部に開放状態で残した。



うっかり記録を忘れたのでこれは過去の写真。ほぼこういう構造という参考用なり。




一応写ることを証明するために試写の準備をしたのだが、これに対応するシャッターが無い。前回修復したキャビネ暗箱にとりつけてみた。この状態でも無限遠が足りない!
480oは本当に無限遠で480o必要とするタイプなのだ。



17インチモニターでごらんの方(1120にて)はこれでも現物より縮小されているとごらんいただきたい。まさに、茶筒並みの大きさだ。



結局この手になった。幸い画角が狭いのでケラレは無いから、フェルトで光漏れを防ぎ、前に貼り付けた。



カメラはほぼエイトバイテンのアンソニー、本来室内用なので当然ながら三脚では使えない。この踏み台はちょうど上にはまるので、出張用に良く使う(大嘘)
紙袋の中身は4×5のシースやルーペなど雑物入れ。撮影というより引越し荷物だ。



まあこれだと480ミリでも合うが、二段延ばしの引き出しを少し引き出す必要があった(アンソニーは引き出し式にバックスタンダードを30センチほど延ばすことができ、全体では1m近くまで楽に伸びる)

ここは仕事場から5分ほどの私的富士山スポット。道端だから通りがかった人の注目(不審な目)を浴びまくったのは言うまでも無い(笑)



実は、ここまでやったのに見事に光を入れてしまった。どこかから光線洩れしていたので回りは使えない。おまけに4×5用のスキャナが不調でまともにスキャンできない。このカットは69判に上下を切り落とし、フイルムスキャナで読み込んだもの。当然全体の1/4程度の画面だ。当日は曇っていて本来なら写さないレベルだったので、この結果には満足している。肉眼では森の木々を見分けることができないのだ。



デジタルカメラ(OLYMPUS C-2100)ではこんな感じだ。



少し離れた有名な茶畑と富士山の写せる場所。山は雲ってまったくコントラストが無い。周りの被りはレンズの責任ではない。ピントは富士山に合わせた。



撮影位置より少し近いところから、比較のために自分の車を入れた。



同じ場所でカーブミラーに合わせたカットの中央部。これが本当の実力だ。カーブミラーまで50メートル、私の目にはまったく何がうつっているかわからなかった。

アポニッコール恐るべし!


《総括》

既にこのレンズはMさんの元に戻っている。これからいろいろ工夫されてお使いになるとのこと。全画面での実力発揮はMさんにお任せしよう。

私が実用でこれを使うとしたら、アンソニー専用とし、大型のソルントンをレンズボードの裏側に入れるだろう。差し込み式絞りからの光漏れを考慮すれば、その方法が望ましい。また、せっかくの巨大レンズだから、レンズを見せたいというのも当然ある。
何はともあれ精密レンズの威力は良くわかった。Mさんありがとう。



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