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LEICA Va M2 M3

ERNST LEITZ WETZLAR 社のカメラ、いわゆるライカについて書こうと思う。

35o精密カメラの歴史はオスカー・バルナックの作ったライカによって開かれたというのは誰しも異議あるまい。小型にして軽量で堅牢なボディーに精密なレンズを組み込み、パーフォレーションのある映画フイルムの流用で、セルフコッキングなど操作を合理化して開発されたライカ。1960年代まで、世界の35oカメラはコンタックスの如く正面からスペック競争で対抗、あるいはこれらを追って発展して来た。しかし、究極の35oレンズ交換式距離計カメラであるM型の登場で、これら対抗馬は全てけちらされた。Mライカの完成度とステータスは、模倣することさえ許さなかった。

結果として日本のカメラは一眼レフ開発に進むこととなった。皮肉なもので、後にこれがライカの経済的な地位を奪ったことは、カメラ界の常識だろう。

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私は比較的幼い頃からカメラに親しんでいる。母方の祖父は芸術分野が非常に好きで、油絵を描いていたが、写真にも精通していた。大正生まれの母が若い頃からカメラを使っていたのは祖父の影響が大きいだろう。
顔を合わせるたびに祖父は、「写真でも絵でも何でも良いから表現に関われ。何かを表現していないとつまらない人生になるぞ」と私に話したものだ。そして、もう一言続くのが通例だった。「ただし、ライカには手を出すな。あれは家を傾ける」

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そのライカも、現在では驚くほど高いということは無くなった。もちろん特定のレアな形式や、金ピカの特別仕様などはとてつもない価格だが、中古で考える限り気絶するほど高いわけではない。
しかし、私にはいまだに祖父の家訓がどこか引っかかっている。レストアしたりテスト撮影で経験したカメラはまもなく300台に達するが、その中にライカは一台も無いのだ。(ライツ・ミノルタCLは除く)
まあハッセルとかリンホフとかいわゆる高級機にはまったく縁が無いから、ライカが無くても何の不思議も無い。ファミリーカメラが本来の私のテリトリーなのだから。

先日、この禁を破る事態が発生した。ユキノフさんとのミーティングのときに、彼が一台のバルナックライカを私に見せた。「前に布袋さんから贈られたんです。kanさん使ってみませんか」・・・



先般トムさんのおかげでバルナックコピーのニッカを使うようになって以来、ちょっと気になっていたこともあり、使ってみることにした。
しばらく撮影していてこんな気になった。「使いもせずに勝手にこうだろうと決め付けるのは良くない。そうだ、ライカ最高峰のM型もテストしてみたい」

仲間に無理なお願いをしたら、なんとプロ写真家ebatomさんからM2が、大阪の総長MADAMさんからはM3をお借りできることになった。さあ大変だ。



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《テストのラインナップ》

Leica Va ユキノフさんから

距離計付レンズ交換式(L)35oカメラ、二軸不回転式ゴム引絹幕フォーカルプレーンシャッター T,1-1/1000秒。Summitar f=5cm 1:2 付(沈胴式・白)





私の基準ではなかなかきれいで、シャッターもスムーズだ。

Leica M2 ebatomさんから

距離計付レンズ交換式(M)35oカメラ、不回転式ゴム引絹幕フォーカルプレーンシャッター B,1-1/1000秒。M-ROKKOR 28mm 1:2.8付





ストラップが短くまったく無駄の無い構え。フードを犠牲にしているらしくレンズは素晴らしくきれいだ。シングルストロークで、コマ数カウンターは古い形で、ファインダーは広角用の倍率のタイプ。

Leica M3 MADAMさんから

距離計付レンズ交換式(M)35oカメラ、不回転式ゴム引絹幕フォーカルプレーンシャッター B,1-1/1000秒。Summitar f=5cm 1:1.5 付(白)





歴戦のつわもの。しかしコンディションはとても良い。使い込まれた凄みが素晴らしい道具と感じさせる。ダブルストロークで、コマ数カウンターは新しいタイプ。ファインダーは等倍。

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さて、何をテストしたらよいのだろうか。考えてみるとライカはレンズが交換できる。これははなはだ重要なファクターだ。数多のレンズが使えてしまうから、何をもってライカのものと言い切れるのか。それに、ライカで写した写真はまさにいくらでもある。それも歴史に残る名作、傑作があらゆるジャンルに星の数ほど存在する。私がレンズテストをして報告する意義などまったく存在しないのだ。
内部機構を見るという視点なら、これも素晴らしい報告が一杯ある・・・

まあ使ってみることにした。それもいつもどおりの何気ない写真に使うことにした。ライカだから何か特別ということは無い。というより、いつもの撮影と比較しなければ、比較にすらならない。

《3a》ブレストにて



歩いてくる猫、ファインダーと距離計が別のバルナックには一番つらい。目測の置きピンで対処。



その中央部。なかなかの解像力だと思う。



すっきりしたトーンである。



距離計は倍率が高いだけに非常に正確だ。高解像度でスキャンすると細かい字も全て読める。



室内で開放で至近距離。立派なものだ。

《M2》アクロス



広角なのでパンフォーカスで狙ってみた。



5メートルに照準した。非常にどんよりとしてコントラストの低い場面だが、きちんとしている。



遠距離での歪みや周辺の画像の劣化が無い。さすがロッコールか。



少し霧がある中で写してみた。それでもくっきり感はある。


これはプレスト。空のムラは車のガラスによる。このレンズは実に精密な描き方をする。

《M3》ブレスト



夜景でもしっかりしたものだ。



増感だがトーンはなかなかのもの。



人物の描写は非常に自然だ。

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☆バルナック

小さいのにずっしり来る質感、静かなシャッターは美点。距離計とファインダーが別で極めて使いにくい、面倒を通り越して叩き壊したくなるフイルム装填手順、無限位置で勝手にロックするヘリコイド、すぐ忘れる沈胴レンズ・・・高い完成度には程遠いが、第二次世界大戦以前にこのレベルに達していたという事実は評価に値する。小ぶりなのにいかにも精密機器という質感は、個人的にはMより好きだ。



☆Mライカ

究極の距離計カメラという人もある。確かにピントを合わせやすく見やすいファインダー、静かなシャッター、フイルム装填が改良されて使いやすく、バルナックの欠点を徹底的に洗いなおした完成度と質感は素晴らしい。気楽なスナップから、本気の取材までこなす実力を感じる。



《総括》

多くの意味で期待通りだった。十分高級感のある立派なつくりのカメラだと認識した。

さてそれでは今後も使いたいかと自問してみた。答は「メカとしての未完成度が使う面白さに通じるから、バルナックなら時々使いたい。Mは私にはやはり必要ない。」であった。

なぜMを使う気にならないかといえば、私にとって気楽に惜しげ無く使える道具ではないからだ。多少の問題はあっても、良いレンズをFEDにつけたのと、どこが違うのかという疑問にすっきりした答が出ないからでもある。
もちろん質感などは無視した話だが、突き詰めればカメラは機能とコストパフォーマンスが大事だと思う。メンテナンスしやすさやそのコストもまた大事と言えようか。

いや、何より私にライカは似合わないと言うのが実は一番大事かもしれない。38年間文句も言わずにいつも確実に動くニコンF、初めての自分のカメラ、マミヤ35U、驚くほどの質感を表現する古い木製のカメラたち、そしてごく普通の家族の肖像を写してきた安くて便利だったカメラたち・・・
そんなカタログ性能は低くても愛すべきカメラに囲まれているのだから、ライカは敬して遠ざくものと心得た。

《謝辞》

ebatom様、MADAM様、ユキノフ様(布袋様)

貴重なカメラを快くお貸しいただきありがとうございました。おかげで長年の食わず嫌いに終止符が打てました。それが何よりうれしく、感謝申し上げます。



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