. Camera Restore

Super FUJICA 6 徹底レストア



数ある国産蛇腹カメラの中で、スーパーフジカ6はその頂点にある一台だ。

全群移動の直進ヘリコイドに新種レンズを採用したフジノンを距離計連動として使い、セミオートマットの巻上げ部を持つ。シャッターがセルフコッキングでない点を除けば、見やすい距離計や現代レンズに遜色ないピントと穏やかな発色、素晴らしいトーン表現で、現代でもトップレベルで通用する実力を持つ。この時代の富士フイルムの実力を示すカメラだ。

私は自分のものを含み数台のレストアをしてきたので、このカメラなら多少の自信がある。今般、浪速の(正確には神戸の)れんずまにあ氏(ハンドルネームは伊達ではない。素晴らしいレンズとカメラの実践に基づく知識と撮影技術は各所で知られている)からレストア依頼を受けたので、改めて記事にまとめてみた。

《修理の必要な部分》



前の革張りと塗装が傷んでいる。距離計の動きが悪い



距離計は一応動くが、ヘリコイドの動きについてこない。シャッターの秒時は粘りにより遅れていて、しばらく置くと、一度目にはまともに動かない



後の革張りは剥落寸前

《作業》



幸にも蛇腹は痛んでいない。この状態で矢印のところのセットリングを外すと、レンズバレルがアセンブリーで外せる。ただし、道具とその扱いに注意しないと蛇腹に大きなダメージがある。慎重な作業が必要だ



レンズバレル部は分解できた。中はそれほど汚れたり錆びたりしていない



黄色がヘリコイドと距離計をつなぐリンク。油切れで動きが悪いので給油した。赤はシャッターレリーズ部。ここが蛇腹カメラのネックで、無理な開閉などでレリーズレバーが変形すると確実に不具合をきたす。ここにも注油、ついでに内部清掃をする



軍艦部は巻き上げノブ(逆回転で外れる)接眼レンズ(逆回転で外れる)4本のセットネジで簡単に分解できる。黄色のところが上下・左右の像を調整するネジ。距離計のハーフミラーは贅沢なプリズムで、この部分が痛んだものは診たことが無いから、材質は良い。各部を清掃し、巻上げ部などに注油して終了



後の皮は80パーセント浮いていた。痛んでいるし普通なら新品の代替品に交換だが、ここに富士のロゴがスタンプされている。オリジナルを生かすために、はがせるところは全て剥がして再貼り付けした。以前のオーナーが下手なはり方をして入るので、完璧には程遠いが、実用的には復活した



一見しっかりしているようだが、皮は接着剤が老化していたり、下に張った紙のスペーサーが分離したりして剥がれる寸前と言うことが多い。軽く叩いて浮いているところは全て剥がして、ゴム系ボンドで張りなおした。
出先で剥がれてしまうと、その部分を紛失したり傷を広げたり良いことは無いので、転ばぬ先の杖だと思って全て張りなおすのが安全だ。



塗装も一部に錆が出て痛んでいたので、軽く削ってマスキングしてウレタンの黒でタッチアップした。
きれいに使い込んで下が見えるのは許せるが、錆浮きは直した方が良いだろう



実は、最初に作業完了としたときにはこの中玉が外れず、やむなく裏からベンジン流しでシャッターには触らなかった。
しかし、依頼者のところに戻ったらシャッターがスタックしてしまった。これは開けるしかない



ガムテープを巻いて全力で廻してもびくともしない。最終手段でカニメを作ることにした。自分のもので位置を確認し、ピンバイスで慎重に穴を二個開けた。ボール盤用のバイスに固定して、ツールで廻すとついに緩んだ!

これだけは何度もやりたい作業ではない。失敗したら自分のものを返す覚悟で取り組んだが、回ったときは思わず万歳(笑)

この作業が可能だったのは、前群レンズが分解可能だったからである。一番前のレンズを外すとシンプルな中玉部が現れるので、ここにカニメを作っても組み立てればまったくわからない。修理を前提とした合理的な構造で、アセンブリー交換を前提とした最近のカメラとは、ずいぶん違うものだ。

☆こういう作業をすると光軸がずれるなどと言う人があるが、それは「やったことが無い半可通」である。分解すれば自明のこと、どこにも調整する余地はない。決まった位置にレンズを収めてあり、組立ながらそれを調整するなどありえない。あるとしたら、レンズごとの微妙な焦点距離の違いを無限遠調整のためにスペーサーを入れて直すだけのことだ。
100年前のレンズでも「レンズの光軸に関する位置を調整できるレンズはほぼ無い」と言える。私が知る唯一の例外は目測の簡易カメラで、三点止めで位置が変わりうるというペンタコンのペントナUと、その他の玩具カメラだけだ。



シャッターは一度目に後玉を外して後からベンジン流しをしたのがある程度効果的で、粘りは解消していたが、低速は不安定だった。前から羽根の清掃が出来たことと、ガバナー周りに給油できたのでしっかりとした動きになった。
開けば中は見慣れたコンパータイプだが、セルフタイマーは装備していない。セットリングを引っ掛けてとめる部品があり、それをシャッターレリーズレバーで押してスタートさせるのだが、このレバーの軸が浅く(短く)斜めになってしまう場合があり、こうなるとシャッターを切ることが不可能になると言うものだった。



念のため、距離計の無限遠と実像が狂っていないか確認したが、特に問題なしだった。このカメラでこれが狂うことはまず無いだろう



完了を祝して私のもの(右)と並べて記念撮影(壊さなくて良かった)



製造番号は89万代で、わずかに88万代の私のもののほうが古いとわかった

《作例》



ピント精度確認のため絞りは5.6まで開いた。特に問題なし



いずれもアクロス使用。トーンもしっかり出ている。こちらは絞り8にて

☆れんずまにあ氏にはリファレンスになる素晴らしい作品を期待する。また、この記事が今後レストアする方の参考になれば幸である。

《追加・距離計の整備》

北海道のmitsuさんから距離計の上下像のズレ修整を引き受けた。



ファインダーカバーも外した状態。フォーカスはヘリコイドに連動して黄色い部分が前後することで像を移動させている。黄緑部分のネジがその調整用かと思ったら、これらは中のマスク固定用で、フォーカス調整用ではない。上下像はプリズムか紫の部分を曲げてリレーレンズを直すしかないようだ。



黄色はプリズム固定ネジ。これを動かしてプリズムを移動すれば、理屈上は二重像の調整が出来る。しかしこれは絶対にやってはいけない。プリズムであわせるのはきわめて難しいからだ。上下と左右と画像の傾きまで同時に直す必要があり、測定器でもない限りさわれないと考えるべきだ。
結局、リレーレンズのベースを極めて少しずつ曲げて、妥協点を見つけた。



これで良しと思って確認したら、指標と二重像が大きくずれている。相当の後ピンなのだ。

ピントグラスで見る限り、無限遠は出ている。指標とピント位置のズレはない。しかし距離計上では無限まで像が動かないのだ。また、二重像で合わせるとひどく後ピンになってしまう。
ということは、ヘリコイドからのリンクのどこかがずれていることになる。レンズを外した状態だと距離計は無限遠までちゃんと動く。



元々なのかはまったくわからないが、レンズをセットするとリンクを少し押してしまうのが原因だとわかった。リンクを調整するポイントは無いので、レンズ横の押し板部分を少しずつ曲げて、調整した。
かくして私のものと同じ距離を示すようになったので、調整完了とした。



ついでに各部の清掃と給油をしたのだが、前玉を外すとこんなに傷がついていた。レンズシャッターを開くにはこの作業はほぼ必須なので、これはどう見ても素人がいじった後だ。ここはきちんとした工具で廻さないと傷だらけになるから、プロならこういう傷をつけるはずがない。
シャッターやリンクはそれほど痛んでいなかったので簡単だったが、しかし一箇所、普通なら外れないバネが外れていた。自然故障とは考えにくいから、これも人為的なものだろう。闇雲にシャッターを開くのはむしろ壊す元になる。自信の無いことは、自分のカメラで壊す覚悟が無い限り、実行するべきではないなと思った



このカメラの距離計窓には赤く着色されたガラスが入っていた。このおかげで二重像が非常にはっきりわかる。しかしストレートに入る方が見えにくく、無着色より良いとは言い切れなかった。



恒例の私のものと並べて記念撮影。全体の程度は非常に良いカメラだ。



わずかだが今まで整備したものの中で一番若い。錆の浮きなどは無く、これからもしっかり使えるだろう。



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