. Camera Restore

タケノコズーム考

コンパクトカメラ全般に使われているズームレンズは、繰り出した時にいかにも頼りない。これで十分強度があるのか、耐久力はどうなんだと常々思っていた。
ジャンク箱にあった一台を分解して、ズーム部を考証してみた。機種はリコーマイポートだが機種に意味は無い。その他のメーカーのものも大同小異だから、単に代表例である。



レンズバレルを取り出し、先端のカバーを外したところ。青く囲ったところがシャッター兼絞りのコンロール部、緑に囲った方はレンズバリアーの開閉用である。また、矢印はレンズ繰り出し用のギアで、ここが回転すると、レンズがまさにタケノコの如く伸び縮みする。



38−105ミリと3倍弱のズームなので一気にこんなに伸びる。



中を見るとこれが凄い。3本で構成され、外筒と中間バレルの内外に、繰り出し量が大きいヘリコイドが切られている(と言うより型で起されている。)中の筒が回転して直進ダブルヘリコイドになっているのだ。グリスなどによる潤滑は無く、プラスティック同士が擦れ合っている。



キャップ部。直径はノギスでの実測で12.3ミリ程度、レンズは大体13ミリだった



レンズキャップ部の裏側、バリアーが組み込まれている



バリアーは開き方向にテンションが掛けられ、ギア駆動で閉じられる。故障したら開きっぱなしになるのはこのせいだが、一般的には閉じ方向にテンションが掛けられている

《考察》

「計画された陳腐化」という言葉を実感する構造だ。確かにプラスチック鏡筒は軽く、複雑な構造が簡単で安価に作られるだろう。コストと重量ではメリットが多い。しかし、ギアまで含めたフルプラスチック化は、反面で信頼性・耐久性の不安が付きまとう。
レンズバレルは少し繰り出しただけで、手にも目にもはっきりわかるほどのガタがあり、大口径レンズなら周辺に問題がおきてまったく不思議無い。磨耗に対する潤滑などの配慮は無く、耐久性は材質の強度に全てゆだねられている。
この手のズームで非常に暗いレンズが多いのは、単にコストだけでなく、このような位置の不安定性があるからだろう。

コンピューター設計で、ここまでコンパクトで軽い物を作ったことは評価できるが、この構造は長期の愛用をまったく考えていない。初期不良は交換すると言うのが普通だが、メーカーの誠意ではなくて、「修理不能」だからだろう。プラスチックギアなど嵌め殺しで、交換できる構造ではないからだ。

かつて金属機械であり、親から子に託して使えるものであったファミリーカメラは、コストとコンパクトさを争う競争で、耐久性と信頼性を捨てて育ってきたと言えよう。
最近のコンパクトデジカメはもちろん、「高級」一眼レフタイプでも信頼性と耐久性には疑問がある。
数年で故障して、部品が無いから、または、直すコストが新品を買うより高いので直せない・直してもメリットが無い、と言う理由で使えなくなるものがザラにある。メーカーには元々直す気など無いのだろう。プラカメがジャンクボックスに投げ出されるのは、たとえ今は使えても、近い将来必ず壊れるからだ。そして、そうなれば直せないからだ。

カメラが金属機械であった時代は、永遠に終わったのか・・・



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