. Camera Restore

小西六 百式航空写真機(レンズテスト)

 カメラオブスキュラとして始まったカメラは、その正確さと速写性から戦争の道具としても珍重された。最も多いのは戦闘記録と偵察用だろうか。カメラから100年ほど後に生まれた飛行機も、第一次大戦という悲劇の中で一気に育った。この二つが結びついて航空カメラが生まれた。より素早く、より正確に知るために。何のために知るのか、敵を殺すために・・・皮肉なことに、科学技術は戦争によって大きく進化している。平和利用が主目的で、多くの技術や素材の飛躍的進化を促したスペースシャトルでさえ、軍人だけの秘密フライトがあるのだから根は深い。

 ともあれ、その成果としての機械に罪は無い。罪は兵器として使う人間にあるのだから。



 第二次世界大戦が終わって65年が経つ。かつての偵察兵器は幾星霜を経て今もしっかりとした姿をとどめている。このレンズは一体どんなものを見てきたのだろうか。


 今回のレンズテストは掲示板の会話から始まった。私と同じ静岡県にお住まいのpentaconさんとバレルレンズの話をしている時、このカメラの話が出た。無限遠専用の特殊レンズが地上でどんな写りをするか興味を持ち、お願いしてお借りした。

 ただし、本体は巨体で、しかもそれに使う4×5をはるかに上回るロールフイルムなどどこにも存在しないから、本体はあきらめ、レンズのみのテストである。同時に同一焦点距離で高千穂時代のズイコーもお借りする事となった。

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これが百式航空カメラ本体である(pentakonさん提供)普通の一眼レフが子供に見える巨大さで、これでも小型だと言うから凄まじい。これを手持ちで揺れる飛行機の窓から写すなど、考えただけでもとんでもない腕力が必要だ。不可能ではないだろうが、風圧に逆らいながら写すのはもはや拷問だ。航空機の専用窓に取り付けて使うフランジがあり、主にはそれを利用したのだろうと推測した。二枚目の棒は専用ロールフイルムのリールである。4×5をはるかに上回るとてつもない代物だ。シャッターはレンズ交換を前提にしているので、超大型フォーカルプレーンである。これで1/300秒まで出していると言うから、スリット幅はごく少ないはずだ。



 ついでに東京光学製の九九式極小航空写真機の写真も送っていただいた。これでも十分大きいのだが、これでも当時はごく小型と言うから恐れ入ってしまう。まるで一昔前の測量機のようだ。仮に地上用に改造して写すとしても、肩から下げていたら翌日は腕が上がらなくなる気がする。

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100式用20cmヘキサー f:3.5



100式用20cmズイコー f:4.5




「セットアップ」

 届いたレンズは金属一眼レフ並の重さがある。しかも口径が大きい。バレルなので前板が大きいカメラが必要だ。大きさ的には暗箱がふさわしいが、とてもこのレンズ+シャッターの重量には耐えそうにない。

金属で強度があるリトレックビューに武蔵野光機シャネル5番の組み合わせとした。





 ヘキサーはベースを外してシャネルに取り付けることができたが、ズイコーはちょうど良いアダプターが無いので、ベースごとシャネルに落下防止のためにワイヤーで固定した上でパーマセルテープで貼り付けた。ダブルシャネル5番という豪勢なセットと相成った(笑)



 どちらもバレルレンズらしく見事なアイリス絞りである。これを見ると、高々10枚程度の絞り羽根を珍重する手合いが笑える。昔のレンズは驚くほどの枚数なのだから。


《試写》

全て4×5のアクロスにて行った。

 アクロス100でも絞り込みきれない場面があった。ヘキサーは3.5から5.6、ズイコーは4.5-9.0までしか絞り指標が無い。どちらも目盛りが無い所まで絞り込めるが、それでもシャネルの5番は1/100秒が最高速だから、ピーカンでは苦しい。開放で使うのは少なくとも1/500秒が必要だ。これを減感と手持ちNDで対処しようとした一回目のテストは見事に失敗してしまった。理由は現像の不手際とちょうど合うNDが無いので、小さいものを手であてて写したので、反射の悪影響が出て画質が低下してしまった。何とか使える部分をトリミングしたのでその点を割り引いて見て欲しい。

 二回目は開放で使うのはあきらめ、実絞りで11―16程度で写してみた。絞り値はわからないのでポラを切って目安とした。(期限切れのポラで見かけの感度が上がり気味なので、参考にしかかならなかったが)

 ピントグラスを使う撮影では必須のルーペを忘れたことに、家を出てから気がついた。戻るのも癪なので、100円ショップで簡単なものを求めて使った。これが意外にも使いやすく、二日目もこちらを使った。

100式用20cmヘキサー f:3.5



下部にカブリあり



全体にカブリあり



ほぼ成功



中心部



 一枚目の翌日にリベンジした。シラス漁の網の手入れをする田子浦漁港の漁師たち。スキャン元サイズはこちらだが、4メガ強の大サイズなのでご承知を

100式用20cmズイコー f:4.5



ほぼ成功



山が曇りだったので、ピントは手前の柵に合わせた

テスト撮影ポラカット(FP10045)









メイキング風景(OLYMPUS C3040)










《感想》

 さすが偵察用のレンズである。ノンコートで70年近い時を経てなおクリアーだ。絞りさえ間に合えば、常用しても面白いレンズである。ピントはヘキサーがわずかに上で、諧調表現は中庸のヘキサー、ちょっと暗いところが強く落ちるメリハリのズイコーというものだ。後のレンズに共通する特徴が出ているから興味深い。

 本来は無限遠になる空から俯瞰し、ほぼ同一平面を写すものだから無限遠の被写体を写すべきかも知れないが、距離調整できるので比較的近距離のものも写して見た。私のピントグラスでの距離合せの時に癖として、ピンの山を少し通り過ぎ(オーバーインフ状態)からわずかに戻す。今回はこれが裏目に出たか、少し前ピンだった。そういうところも実に精密なレンズであると感じた。

《謝辞》

pentacon様、実に貴重なものを快くお貸しいただきありがとうございます。久しぶりで挑戦的で面白い撮影ができました。


☆本稿はカメラ全体を報告するものではないので、Tipsに掲載した。
2010 Nob
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