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Arduino Skettch Shutter Tester 1.01




 tri-chrome 氏の手になるシャッターテスターを報告する。



 左から電源アダプター、本体、センサー部と赤外線光源ユニット(以下、発光部と略す)で構成される。



いわゆるワンボードマイコン、Arduinoを中心しにし、赤外LEDユニット で発光、それをピンホールの中に仕込んだフォトトランジスタで受光、その信号を解析して速度に換算する装置。小さいのに処理能力 が高い。

 簡単に書いたが、これを設計するにはプログラミングのスキルと使える部品を集めてテストし、実用になる測定法や値を探すという 知識が必要だ。もちろん、カメラとシャッターに対する深い造詣が必要なのは言うまでもない。



 演算・表示部。計測結果はこの液晶に時間とシャッター速度に変換されて表示される。各種の操作情報もここに表示される。下は 5個のマイクロスイッチで、これらで全ての操作を行う。



 8列×12個の赤外LEDと、作動表示用の白色LEDが並ぶ発光部



 ピンホールが斜めに5個並ぶ受光部。この斜めなのが見事な工夫で、FPシャッターの横走りと縦走りにそのまま対応する。X座標の 変化で横、Y方向で縦が検出できる。相対的に画面に対する露光変化を捉えるのだ。



 単純な瞬間速度は中央のピンホールで検出している。RFではその点にどのくらいの時間光が当たったかで判定できる。FPでは 通り過ぎるスリットがピンホールを通して伝える光を測ってビンホール幅を引けば良い。ピンホールが小さいと幅は誤差内なので 考慮しなくても良い。

 測光精度は受光素子(フォトトランジスタ)の応答速度で決まる。本機は20マイクロ秒ごとに計測し、 デジタル変換して確認している。いずれも光量が最大値の1/2以上になっている時間をカウントしている。作者に拠れば、 1/6EVの露出誤差を確認するので1/8000秒まで対応とのこと。フイルムカメラ用としては贅沢すぎるほどの性能だ。

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《試用記》

@RF用レンズシャッター(TOPCON Covertible Horseman レンズボードのみでセット、単位・ミリセカンド、以下同様)



☆レンズ付き前板だけにできるので、フイルム側に受光部、レンズ前に発光部を乗せた。1/25秒以上ではこのままで安定して 計測できたが、低速では不安定なので、低速は受光部を上に、発光部を下にした。レンズシャッターでは単純に光がどれだけ 全体として通ったかをカウントするので、セッティングの自由度が高い。

 外装は一切せずにそのまま使ったが、ボタンが押しにくいので計測部はプラスチック容器に両面テープで仮固定した。



 エクセルに表を作り、各速度を5回計測し、平均値を得た。単位はミリセカンド。わかりやすくするために目標タイム(厳密には 丸めた値)と一般的な速度表記を併記した。
 このシャッターは聴覚・視覚的に好調なので整備していなかった。結果は最高速がわずかに遅く、1/250秒は大分遅れるが 低速は正確だった。この現象は好調なシャッターだがガバナーの立ち上がりがわずかに遅れている事を示す。低速では最初の 遅れは吸収されて良い結果になると推測できる。実証するために軽い整備をして再計測して見た。





 コパルのSV辺りからセルフタイマーを除いた構造。セルフタイマーは外形だけ残してある。特別異常はないので、軽い給油のみ 行った。感覚的にはほとんど変化はないが、調整したのでシャッターリングの動きは軽くなった。



 テストは1/15から1/500まで行い、結果は秒時のみ各速度の下に入れた。

 結果は・・劣化していた(笑)。全体に速度が落ちた。特に高速側は明らかに遅くなっている。整備したのにかえって落ちるとは ショックだが、努めて冷静に分析してみた。

 好調なシャッターにオイルが付いたことで摩擦低減より粘り気による渋りが出たのではないか。整備中に汚れが移動して摩擦を 増やした、などだろう。

ーーーーーーーー教訓「好調なものに触るべからず」JFC格言よりーーーーーーーーーーー


AFP(フォーカルプレーン)シャッター(MINOLTA SR-T 101 super & NIKON FM-10)



☆FPシャッターに対して、瞬間速度の計測とシャッター幕の通過速度の変化が計測できる仕様だが、SRT-101では残念ながら セッティングが出なくて幕速度変化は計測できない。

 作者とコンタクトを取り、いろいろセッティングについてレクチャーしてもらった。実験しながらつめたところ、次の点が問題と わかった。

 @フォーカルプレーンの計測ではレンズは外して本体のみで行う
 Aシャッターの動きにバウンドなど不正なものがあると幕速度は検出できない

 @は光の量から考えて当然だろうと推測していたので問題なし。残るはカメラ側の本質的不具合だ。古いゴム引き絹幕シャッターは 劣化してフリクションが増大し、立ち上がりが悪かったり、ショックアブソーバーが原始的でストップ時にバウンドしやすい。 これが原因ではと考え、テストカメラを交換した。

 設計が相対的に新しいNIKON FM-10 に変えて実験してみた。機械式だが縦走りのコパル・スクエアに範を取った近代的なものなので カメラ側の問題が発生しにくいだろう。



a 中央ピンホールEを通過する瞬間速度



☆極めて安定している。誤差は20パーセント程度で、一回ごとのバラツキが非常に少ない。まったく問題ない動作で、実写でも シャッターに起因するバラツキが見られなかった。

b 幕速度(四分割した各ポイント間の速度、セットの都合から逆にD-Eが初速でA-B終速)



☆上段が先幕で、下段が後幕の速度を示す。シンクロ速度(1/60)以下はばらついても撮影結果に影響が少ないので、スリット移動の 1/125から三速のみテストした。結果としてスリット形成は速度にほとんど影響がなく、順調に加速して各ポイントでの露光量の差が 少ない。こちらのデータでも撮影結果の安定が確認できる

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《まとめと提案》

T 総評

 御世辞抜きに賞賛に値する。全体を発光部・計測部・データ処理と表示部に分け、不確実な光の量を極力避けるために専用の 赤外線発光部で均一かつ強い光量を得る構造。わずか5つのマイクロスイッチでレンズシャッター(以下RFと略す)とフォーカル プレーンシャッター(以下FPと略す)の速度を計測できる。しかも、フォーカルプレーンの先幕・後幕の初速から終速まで分割 して計測できるのは素晴しい。

 これには極めて安価で高性能なワンボードマイコンが寄与しているが、よほどカメラの構造と動作に精通していなければ このような構成は考え付かない。特にFPにおける露光ムラの調整にカンでなく数字で追えるのは、その手のカメラに取り組む方 には調整結果を数字で確認できるので朗報だ。

 露光量の計測にはFPなら一般に台形になるので、長方形と近似的にみて時間と照度の積で求められるが、RFの高速ではaが マイナスの二次曲線に近づく。等価的に二次式とみなして積分しても正確さは得にくい。本機では最大光量の1/2を越えた時間を 計測することでほぼJISに相当する結果が得られる。作者は公式規格に準拠するものではないと謙遜されているが、極めて 巧妙かつ高精度(素子の応答速度を最大限利用している・測定用の光が安定して求められる)である。

本機はFPでは基本的に35oカメラ対応だが、それ以上のフォーマットでも取り付けを工夫すれば速度計測ができる。また、ごく 一部のフォーカルプレーンのハーフカメラ(マーキュリー、オリンパス・ペンFなど)では幕速は測れない。ロータリー式なのと 狭すぎてエラーが出るからだ。120カメラなどでは幕速については全画面ではなく、途中ということになるが、36ミリ幅を測り、 傾向を読めば問題なく使える。もちろんRFについてはどんなサイズでも使える。ただし、暗いレンズの場合は受光部を上にしたり、 閾値の点からレンズは外し、シャッターのみで計測するなどが必要な場合もある。


 良い機械だがバラック状態なので、使うにはテスター・カメラの作動原理と構造の理解が必要だ。現状で すぐに使えるのはよほどの古狸(笑)だけだろう。

 もちろん非売品であくまで趣味的に使うというのが前提だが、仮に製品化すると想定して、商品としての実用化には以下の仕上げ と改善が必要である。マーケットの有無は別として、小型軽量高性能のシャッターテスターとして成立する



U 提案

@各部

 ボタンを押す際の本体の固定は必須なので、ケース類が必要だ。マイコン本体を組み込んだ箱(ポリ容器など)にするなどの 対応が望まれる。ケースはプローブや発光部と電源アダプターが収納できるものが望ましい。

 ボタン類は現状にカバーするか、テンキーボード、ゲームのコントローラーなどの流用でより扱いやすくなる。 また、各ボタンの名称などを入れる。

 テストするには先ずスタートさせ、LEDの点灯を目安にシャッターを押すのだが、点灯ホールド時間が短く、慣れるまで エラーしやすい。もう少し長くホールドしたい。

 発光部はショートを避けるためにLED以外はカバーし、自立できる簡易スタンドを付属させる。セットする時に赤外では 見えないので、確認用の可視光LEDを増やし、セッティングモードを設けてこれのみ点灯させ、照明の均一化を容易にすると良い。

 RF用には発光部を細い筒状にして鏡筒内部にセットするものを別途用意したい。カメラを上向きに置いてプローブ部はレンズ枠に 乗せる構成にすると測定がより簡単になるだろう。

 プローブ部の周りにピンホール位置を明示し、アパーチャーグリルへ正確にセットしやすくする。また、FPカメラへの セットが容易になるような固定装置(洗濯用品、たとえば洗濯バサミなどの応用で)があればより使いやすい。
 速度の表記はミリセカンドと1/3.EVステップの1/*表記の二通りだが、分数表記は単純に1秒を計測数値で割った数そのまま、 その逆数の方がわかりやすい。精度誤差は別として、例えば「1/328秒」などの方がわかりやすい。(私の計測表はミリセカンドのまま と1/*表記を採用している)

  幕の部分速度計測で、幕のジャンプなどで計測できない時は、単にエラーとするよりデータが取れたところは表示し、取れない ところを示すとバウンドか引っかかりかなど修理指針が得られる。

 センサーの計測範囲を変えられるとハーフのFPへの対応が可能になる。(いわゆるバルナックタイプの場合、後が開かないので 下側のカバーを分解して外す必要がある。これはカメラ自体の構造上の問題なので致し方ない)

Aマニュアル

 使いこなしや技術解説はネットの記事式にする。操作手順に写真を多用する。改訂が容易で構造変更への 対応度が高くなる。技術解説は使うだけなら最低限で良い。開発経緯などと共にネット閲覧(現状)が便利だ。

 操作手順はステップバイステップで表記するとわかりやすい

 カメラが原因のエラーについて、よりわかりやすく解説する(FP)

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note & 謝辞

 アマチュアがシャッターの正確さを調べたいという立場でシャッターテスターを考えると、シャッターの不具合 とは、シャッター羽根の開閉不良や明らかな遅れだけで、たとえ原因がわかってもほとんど対策出来ない。機械式 シャッターの不調 について、出来ることは部品単位での清掃と給油、明らかな変形の修復と折れたバネを置き換える程度(そ れでも大変な作業だが)で、 新しい部品と交換や作動の微調整などほとんど不可能だ。FPの幕の交換は可能だが、それも金属式だと手に負えない。つまり、今回の テスターが教えてくれる値は、安心のためにあると言えるだろう。そういう意味ならこの機械は過剰品質かもしれない。

 しかし、趣味の世界と考えると過剰品質には当たらない。カメラが趣味なら普通は高機能が好きだ。もちろん、記録だけなら コンデジで十分に済む。一部の”高級”デジタル一眼レフは既にフイルムの4×5フ イルムにも匹敵する精密度を誇る。しかし楽しみの 世界では憧れや所有欲もまた大事な部分だ。それに、自分のカメラの本当の姿は知りたいじゃないか。

-----------「無駄に精密」「過剰に高性能」「いつか使いたい」は永遠の目標である!-------------

☆貴重なものをありがとうございます。素晴しいです、楽しめます。ありがとうございます>tri-crome さん




April 2015


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