Shinano opt. PIGEONFLEX (2)

[ピジョンフレックス、富岡のトリローザを積んだ二眼レフ。報告その2]



 このカメラは前回の記事で「部品取り用のジャンク」として k_h_ina さんから預かったものだ。レストアが終わった後、新型シャッターテスターと共に頂いた。



 当然ながら部品取りになるくらいなので、いろいろ問題がある。最大の問題はシャッターのスローガバナーが効かない。ほとんど作動していなくて最高速以外は少し邪魔が入って遅れる程度、どの速度でも1/100秒前後だしそれも毎回ばらついてこのままでは実質的に最高速のみという状態だ。先ずは徹底的に分解して清掃した。



 シャッターはいろいろ調べたが、スローガバナーの引っ掛かりが悪いとしかわからない。これは1/200秒単速で使おうと腹を決めた。ガバナーに細工して、1/100秒がだいたい出るようにして2速程度はいけるだろう。


 シャッター以外は完全にしようと思った。ピント調節がちょっと粘ついた感じなので、両サイドのカバーを開き、古いグリスをシンナーで拭取り、シリコングリスを入れた。当然ながら動きがずっと軽くなった。







 ちょっとタッチアップと前板、左サイドの皮を型紙を作って製作し貼り付ける。巻上げノブは分解してグリスアップと手持ちネジで固定。これでぐっときれいになった。



 外観整備が終わったので外に持ち出して、テイクレンズ・ビューレンズのピント調整。ビューレンズの固定がガタガタなので、ゴム系ボンドで固定した。必要ならいつでもはがせるから問題ない。

 前玉に傷が多いし、前回のもので内面反射が多いのを感じたので、遮光紙を張り、勢いで黒いボール紙でダンパーもつけた。これにフードを併用すれば効果があるだろう。



 これで完成ということで外観写真を写そうとして、ふとスローガバナーについて故障原因のヒントが浮かんだので、再々点検。


 
 ガバナーを外してみたが、扇形ギアとその隣りのところで滑っていて、トルクがまともに伝わっていない。  複雑なものではないが、組み付けは微妙なので、これで駄目なら諦めても仕方ないと覚悟を決め、スローガバナーを分解した。



 原因判明。大小二枚のギアを組み立ててあるが、この二枚を固定する半田が外れていたのだ!(これは既にk_h_inm さんから聞いていたが、場所が特定できていなかった)



 直径1センチに満たない大ギアに数ミリの小ギアを半田で固定する。言うのは簡単だが非常に小さい所への半田付けは無茶苦茶難しい。いろいろ試行錯誤したが、何とかできた。いかに品物を暖めるかがポイントだが、真鍮製なので元々それほど硬いものではないし、温度で焼きなましになったりする心配は無い。コテでじっくり暖めたら流れた。多すぎた半田は精密やすりで削り落とす。

  部品を飛ばさないよう少しずつ作業を進め、ついにガバナーが組み立てられた。写真ではアンクルがついていないが、これを取り付けるアームはシャッターが切られるとシャッター羽根駆動部が動き、アームはフリーになってアンクルが機能して特有の「ジー」という音を立てながら時間を稼ぐ。ここが固まっていたので、軽く動くように直す。


《薀蓄》



 黄色のピンを押された扇形ギアの動きは、次々に数段の増速ギア(赤⇒水色⇒緑)に伝わり、最後にあるガンギ車とアンクルは、機械時計の一歯ずつ送る部分と同様にして回転を規制する。この扇形ギアの回転角度で秒時が決まる。この時のガンギとアンクルの動きがジーという音の元になっている。この音程や安定性である程度の常態が判断できる。


 機械式カメラのスローガバナーは、先ず最高速をガバナー無しで出すようにし、それより低速は羽根が全開した所で扇形ギアの先が引っかかってシャッターセットリング(コンパータイプ)やメインレバー(プロンタータイプ)を止める。シャッター親バネのトルクは扇形ギアを押す。

 ギアで増速するから反比例してトルクはどんどん弱くなり、ちょっとした汚れや錆でも止まったり遅れたりしてしまう。軽く確実な動作を長期間できるかどうかがスローガバナーの命だ。注油しすぎると油膜ができ、かえって動きが悪くなってしまうのはこのためだ。

  以上の動作なので、シャッター速度は必ずしも定位置でなくても正常動作する。つまり無段変速は可能だが、採用例はほぼ無い。カムプロフィールを段にしないで斜めにすれば良いのだが、そうすると設定値がわかりにくくなるので採用されなかったのだろう。

 一般のタイプの場合、ガンギ部分はシャッターセットしていない時はギア部から外れているから、調速カム(≒シャッター速度リング)を動かしても動くのはギアのみ(コンパーなどギアもシューでキャンセルされて動かないタイプもある)で、ガンギは作動しない。セット後はスタンバイ位置から作動位置になるので、速度設定を変える時にガンギも動くから、音と抵抗が大きくなる。

 ここからこの動作は機械に悪いだろうと言う想像が生まれ、レンズシャッターはシャッターセット後に設定を変えると故障するという迷信に繋がったのだろうが、これは全く意味が無い。強制駆動されて壊れるようなガバナーは元々壊れているのだ。もちろん力任せにガチャガチャするのは論外で、静かに廻すのがお約束だ。

  旧コンパータイプでは最高速のみアシストバネが働く。これはセットリングを廻す時に力が掛かるのでわかる。このタイプの場合はシャッターセット後にはセットリングを最高速にしたり戻したり出来ない。無理に廻すと壊れるので注意する。


  機械式スローガバナーにはこのほかにもいろいろな形式がある。ガンギ車などを持たず、ギアなどを廻すトルクで少し低速を得る、基本バネの引っ張り強さを変えるなど簡易的なものを含めれば、カメラメーカーの数ほどあるとも言えよう。しかし最高速を出して邪魔を入れることで低速を作る理屈は変わらない。

  マーキュリーやペンFなどのロータリーシャッターや多くのフォーカルプレーンシャッターでは、高速(シンクロ速度以上)はスリットの開度でコントロールするが、低速は後幕のスタートを機械式スローガバナーで規制しているから、本質的には同等のシステムと言えよう。




 シャッターに組み込んでテスト。ジーとガバナーが音を立てた。成功だ!

 ということで、ついに完成。きちんとガバナーが作動する。記憶が薄れないうちにと一気に記事を書いた。この勢いで明日にはテスト撮影をする。なお、セルフタイマーは使うことは無いので直さず外した。シンクロ接点は基盤が割れていたし、これも使う気が無いから外してしまった。少し軽量化か・笑



完成記念で一人で乾杯



テスト撮影中

《試写》

プレストで急ぎ一本写してみた。テストなのでフードは使っていない。







☆前玉の傷で逆光ではフレアーっぽいが、その他には問題なく、66らしいしっかりとした画像が得られた。カメラシステムとレンズの評価は前回と同じなので省略する。もちろんなかなか良いトーンである。前玉に傷が多いので、一号よりちょっとコントラストが低い。しかし画像はしっかりしているので、あえて磨こうとは思わない。クリアーなレンズは他にいくつか持っている。これはこの描写で楽しむ。

《謝辞》

 またまた楽しめました、ありがとうございます。大事に使わせていただきます。>k_h_inaさん

Mar 2012

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