CURT BENZIN PRIMAR

《欠品改造機》

 

 10年以上レストアをしているので、大量のカメラ部品がある。オークションで手に入れたがついに直せなかったジャンクとか 二個一した結果の残りパーツ、あちこちから頂いたジャンクやパーツ類など、相当の量になる。その中で特に多いのが 610さん から来たものだ。大量の部品には自作されたボディーとか貴重なレンズ・パーツなど、レストアや自作するのには宝の箱だ。 知らない人には燃えないゴミの山だろうけど。

 この通称カートベンツィンまたはクルトベンツィン、読みはこの二種が多いが、英語読みなら「カートベンジン」、ドイツ語読み なら「クルトベンツィン」というところか。

 レンズ周りは一切無いが、ケース部はしっかりしている。 レンズボードの構造的にはプレートカメラそのもの(スプリングで起立せずレールで指標まで引き出す)だが、前板のカバー部は柔ら かい皮だけで、畳むとごく薄くなるところはまさにフォールディングポケットカメラだ。ただしバックが交換式なのでその差分が フォールディングカメラより厚くなる。その代わりにレンズが選べるしフォーマットは設定次第だ。



 直すところは特に無い。ただ、フレームファインダーが消えているので、一先ずアクセサリーシューをフレームファインダーの アイピース側に接着した。これはもちろん何時でも外せる。

 このタイプで有名なのは KWのパテントエチュイだが、双子かと思うほど良く似ている。 各サイズはほぼ同じで、フイルムホルダーはどちらにも使える。コンパクトなのに一般的プレートカメラと同等の機能を持つカメラ である。この時代にスナップを写すのに需要があったのだろう。



 これに時代的に合うレンズを入れてみた。ゲルツ・ツァイスの Kalostigmat 1:6.8 F=10cm である。シャッターは DERVAL の エバセットである。本来はゲルツのテナックスなどについていたもののようだ。レンズ名からゲルツが欠けている事、ツアイス・ イコンと表記されているところから、ツアイスに統合合併した後のものだろう。エバセットはごく初期のものということから 1925年を中心とした時代のもの、つまり80年は経つレンズである。

名前の由来は、大きな収差が補正されて現代のレンズの元になったアナスティグマート:非点収差,球面収差,色収差などを補正 した複合レンズ、という用語になんらかの接頭辞を付けた物だろう。典型的なネーミングだ。

 本体と時代がほぼ整合するし、10cmのレンズなら本体に表記されている指標の12cmと大差が無いので、少なくともピントグラスでは 使える。目測はフィートだから指標は参考程度に使えば良い。



 レンズバレルはきれいにおさまるが、レンズボードの穴が大きすぎる。パーマセルテープを巻いて、少し接着剤をつけて貼った。 変更する時はちょっと強く捻れば外れるので十分だ。ただし、レンズボードとの隙間から光が入るので、黒い毛糸を複数回 巻いて遮光した。



 ラーダのロールフイルムホルダーを装着している状態。



 カメラ名はここにある。「D.R.P.」、ドイツ帝国特許。大戦前のドイツ製品の表示がしっかりある。



 起毛紙を張替え、ラーダに合わせてレールを少し削った。この手のバック部は規格がまちまちで、フイルムホルダーとの 相性が盛大にある。この場合、ホルダーを削ったりするとそのカメラ以外に使えなくなるので、カメラ側を合わせるように している。



 無限位置の設定と指標の調整をするため、ピントグラスとルーペを用意し、そのままテスト撮影に移行した。

《試写》

 フイルムは定番のアクロス、最初の二枚は三脚に固定してピントグラスで精密に合わせたが、その後は全て手持ちで目測







☆コンパクトだが持ちにくい形だ。赤窓の奇数番のみ使う(645で16枚撮りの指標を使う)ラーダとの組み合わせで、使い勝手は それほど良いものではない。しかし、結果は素晴しい。大名刺判で密着で見たら、悠々とした描写と周辺落ちの無さで 格が違うと感じるだろう。大きく伸ばしてもちゃんと見られる。

 現代の中判レンズと比較すれば明らかに甘いレンズだが、35oと同一サイズに延ばしたら画質で圧倒できる。さすが ゲルツのレンズだ。ゲルツの傑作、ダゴールに良く似たボケ方をする。

 このカメラには対応できるレンズがいくらでもある。おそらく価格要求に応じていろいろなものを用意し、そのリストに 無いレンズも簡単に交換していたはずだ。0番シャッターつきの75-120ミリ程度ならどれでもいける。意外なほど汎用性が 高いのは面白い。ちょっとの手間でレンズ交換して写すことさえ可能な面白いカメラだ。ただし、目測は極めて難しいし、 反射ファインダーで写る範囲をしっかり見るのは無理だ。中心を確認して周りを想像する心眼が必須なので、きちんと写す にはピントグラスを使うべきだろう。

 これに専用ホルダーと二重像距離計を連動させたらプレスカメラに匹敵するのだが・・・そのうちやろう!


November 2013

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