KMZ MOSKVA 5
クラスノゴルスク製のモスクワ5をツイッター仲間の沼新氏の
依頼で手入れをした。これはツイッター仲間の沼猫さんから沼新さん(紛らわしい・笑)に廻ったものだ。ついでに確認と
称して一本写したのでちょっと報告する。
まさにスーパーイコンタだ。違いは軍艦部のカバー程度で、デッドコピーだった初期型よりはスマートだが、遠目には
手持ちのスーパーセミイコンタの兄としか見えない。
招き猫と呼ばれるドレーカイル式距離計が大きな特徴で、慣れないとこれを立ち上げるのを忘れてピン合わせしようとして
あわてることになる。
距離計準備完了。爪を立てて安定して置けるのが69や645のフォールディングカメラのお約束。645で横位置、69では
縦位置固定だがテーブルなどに置いて写す時には便利だ。
前玉回転をギアで行い、それを楔形プリズムの回転として伝えて距離計連動を行う。一度正確に調整すれば、プリズムの
回転以外は動くところがないので狂いにくい。ただし、狂った場合は分解が難しく面倒至極。わかっていても触りたくない
機能の代表例だ。ツアイスのオリジナルは総じて軽く動くが、ソ連物は動きが悪い事が多いと言う評判を聞く。このカメラも
相当重く、ギアではなくレンズを直接廻す方がまだましだった。原因はヘリコイトに使われているグリスやギア周りの
精度と潤滑ではないかと推測。地雷を踏みやすいと聞くから分解整備はパスした。希望的観測だが、常に使っていれば
多少は改善するだろう。
軍艦部はフラットに一体となっていて、独自進化した事を伺わせる。ただし、機能面での進化は特にない。
66-69切り替えをマスクで行う。ウラブタは取り外し式で23シートフイルムなどを使うバックと交換できる。
ファインダーは右端、内側の窓が距離計。巻き上げノブには二重撮影防止のロックが入っていて、一度シャッターを
切ると巻き上げないと押せない構造だが、ここが極めて渋い。
機械的故障ではなく、ロシア物に良くある「重ければ力を掛ければ良い」「使っているうちに磨耗で軽くなるだろう」
という仕様だ。これを分解するには軍艦部を外す必要があり、そのためには丸い窓を外す必要があるが、傷をつけない
ようにゴムでチャレンジすると二つが緩まない。ゴムで養生してプライアーで挑戦したが無理。また、巻き上げノブの
幅が広いのに溝が狭く浅いネジも緩まず、自分のものではないからショックドライバーで叩くなどできない。
内部構造はわかっているので、横と下から強制給油してみた。まだ堅いのは軸に巻いているワンウエイクラッチ(バネ式)
が異様に強力だからで、潤滑不足ではない。本気で軽くするにはこのバネを柔らかくする以外になく、それは事実上不可能
なのだ。それでも多少軽くなり、二重撮影防止メカがスムーズになったのでこれ以上の追求はやめた。
《試写》
比較しやすいアクロスにて
全体としては適正露光だったがハイライト部のディテールが飛んだ
ほぼ最接近。良いトーンだが謎の光漏れ。文字が見えるからおそらく赤窓部から入った
開放で試した。ピント位置は中央の花
上のカットの中央部
レンズはなかなか良い。露光は少し少なめの方がハイライトの出が良くなるだろう。焦点距離が長いから被写界深度は
浅い。パンフォーカスは難しいので距離計は必須だ。ツアイスのテッサーと比べ、劣るものではない。結果だけで見て
両者の違いは指摘できない。レベルの高いレンズだ。
☆一本だけの急ぎ働きで全てを語るのは無理だが、得られる結果と言う点では高得点と言うか、69カメラらしい堂々とした
画像が得られる。もちろん大きく伸ばせば現代レンズには解像度と言う点で劣る。しかし、それはこのカメラに限らない。
オリジナルのテッサーとてこの時代のものは解像度だけなら現代レンズに劣る。しかし、全体のトーンや良いボケ味など
フォーマットの余裕もあってゆったり見られる。その辺がこのカメラのレーゾンデートルだろう。せっかく改良するなら、
使いにくいファインダーより別体を取り付けられるように、軍艦部中央にアクセサリーシュー座が欲しい。また旧態然
の取っ手よりアイレットが欲しい。
ファインダーは使いにくい。右端に寄り、小さくて距離計で蹴られて見難い。また、見えは良いが範囲が狭くギアが
重くて合わせにくい距離計、非常識に重い巻上げはスナップのリズムを崩す。個体差が大きいからこの個体だけで断じる
事は避けるが、フォールディングカメラは携帯性・機動性が命だけに、もう少し軽くスムーズにならないと持ち出しにくい
カメラであった。
いろいろ書きましたが、画質が良い本格的な中判です。基本操作と絞り値設定の訓練に良いですね。赤窓からの光漏れ
は赤窓のフィルターをもっと濃いものに交換し、内側の窓とフイルム押さえの間にモルトや毛糸などで横漏れを防ぐと
良いでしょう。また、一度前玉を外して、ヘリコイドを完全清掃してシリコングリスを入れるとフォーカスがぐっと
軽くなるでしょう。現状はグリスが固まりかけていますから。方法は教えますのでやってみてください。>沼新さん
February 2014