MINOLTA Auto Semi Minolta
オート・セミ・ミノルタ、なかなか会えないレアなモデル。このカメラはナースマンさんの愛蔵品で、テストで
苦労されていたので、できるかどうかわからないがレストアを引き受けたもの。
機能や詳細は中判への誘いの機種別掲示板で参照できる。
「オート」と言うのは、戦前のものなのに連動距離計とセミオートマットであることから来ている。実質的に日本最初の
フォールディングカメラ(日本的にはスプリングカメラ)であり、スーパーセミイコンタと正面から対抗できる機能を
持つ当時の国産最高級品の一つだ。
最大の問題は、ピント位置が怪しくてぼける事。先ずはレンズバレルを外して連携動作やシャッターの整備を行う。
見えているリングは、内部構造に詳しい方ならローライコードなどに見られるチャージ・レリーズ部品に見えるだろうが
そうではない。
これはレリーズ設定位置が国産と異なるコンパーを使うために、レリーズとシャッター側を連動させるプレートだ。この部分
でいろいろなシャッター・レンズに対応させる事が可能になる。後のオートコードでセイコーとシチズンの両方に対応する
工夫の元とも言えるか。いかにもミノルタらしい。
このカメラのピントはプレートカメラ同様のレール繰り出し式だ。ヘリコイドなどと異なり、ノブの動きが1対1で
伝わるから、指標での目測は極めて難しい。きちんと写すには距離計かピントグラスが必須。その代わりに全群繰り出し
で前玉回転式より高精度が期待できるし、近接も楽になる。ただし、このカメラは近接が1メートルまでだ。ピントグラス式
なら大幅に近寄れるが、そのためには全体をプレートカメラ並みに大きくせざるを得ない。おそらく蛇腹の伸びやパララッ
クスとの兼ね合いから1メートルに設定されたのだろう。
最高速がバネ追加式で1/250秒の旧コンパーがついている。この時代にコンパー付国産がどれほど高級かはわかり
にくいかもしれないが、シャッターだけで当時の安い国産カメラが買えるほど高価なものだ。シャッターの動作は正常で
特に問題ないので清掃給油した。レンズは汚れのみなので分解できるところは清掃したが、前玉は分解できない。
少し汚れがあるがまあだいたい抜けたのでひどい逆光で無ければ大丈夫だろう。
シャッターのレリーズはパールなどと同様に、左手でカバー根元にあるレバーで行う。これの調整が意外に微妙だ。
高速側が切りやすいようにすると、バルブやタイムが押し切れずに使えない。逆にすると高速側が重くなり、盛大に
手ブレの元になる(一次試写で失敗した)。いろいろ試して妥協点を見つけ、回転止めに内部で二点接着で固定した。
将来分解するときの妨げにはならない程度なので問題ないだろう。
Promar Anastigmat Nippon 1:3.5 f=75mm 同様のレンズをつけた
ミノルタフレックスTのテストでは
ノスタルジックだったが今回はどうだろうか。
ピントテスト風景。ピントグラスで確認すると無限遠は出るが、距離計との違いがはなはだ大きい。
ピントグラスでの無限遠は、距離指標で7メートルで出る。距離計は指標と合致している。つまりレンズのみが本来位置
より後退している事を示す。現実との差はレール部で2ミリ以上ある。+-0.1ミリ程度のマウントの調整範囲をはるかに越え
ている。
改めて前板のマウント部を見ると、内側にテーパーになっている。ここがこうなるのは前から強い力で押されたとしか
考えられない。これでは全て超後ピンで、まともに写せるはずが無い。
タスキが痛むので叩いて戻すのはあきらめ、スペーサーとしてリングを入れて、わずかに後ピンを妥協点にした。これ
以上厚いスペーサーではレンズバレルが固定できないのだ。距離計で合わせた後、少し前ピンに廻すなどで使えるはず。
距離計は簡素だがプリズムを使った高級なもの。前板の動きは軍艦部下のアームに伝わり、そのアームの上にあるレバーが
テーパー(半円状)のレバーを動かして二重像を動かす。作りはしっかりしていて正常動作しているので、給油のみ行った。
黄色のフィルターがかけられていて、二重像はこの時代のものとしては非常に見やすい。
動作が不安定なカウンターを分解する。開いた中にはフイルム巻上げ部だけで、カウンターをストップさせる部分がない。
巻上げストップはカバーの側についている。指定位置に来るとレバーがはまり込んでストップをかける仕組み。このレバーの
先端が磨耗というか傷んでいてきちんと入らないのが原因のようだ。
レバー部は外せるが巻き止め解除のピンがハメゴロシなのでこの状態でヤスリなどで整形、何とか作動しそうな感じ
になったので妥協した。将来、完全にしたいならこのレバーを作り直せば良い。それほど難しい工作ではないから可能だ。
見えているギアは巻上げから直結しているが、わずかに見えている大きな歯のギアとはわざとゆるみがあるように組まれ
ている。これによって巻上げ解除ボタンをスライドすると歯がわずかに進んでボタンを押し続けなくても巻き上げられる
理屈だが、ちょっと動きが悪いので巻上げが確実に進んでからボタンを離す使い方が必要だ。二眼レフなどではこの部分が
もっとはっきり一度ボタンを押せばレバーは完全にフリーになる構造である。この辺りから学んだ結果なのかも知れない。
カバーを外して横から見るとこんな感じ。実にシンプルだが良くできている。
このカメラでは、最初の一枚を69用の数字で確認し(66のカウントが入らないフイルムがあったから)、そこでカウンター
ノブを引き上げて1を出す。以後は一枚写すごとに巻上げ解除ボタンをスライドしながら巻き、次のコマで止まるまで巻く。
一連の作業では常に巻上げ解除ボタンをスライドしておくのが必須だ。16枚になっても巻上げフリーにはならないから
ボタンをスライドしないと前述の解除レバーに無理かかかる。この使い方がわかれば巻き止め機能は確実に働く。
板金ではなくがっしりしたダイキャストで、遮光もしっかりしているようだが、念のため赤窓やその他の接合点には
モルトで光漏れ防止をした。万一光が漏れても、蛇腹以外に疑う場所がなくなる。また、テストで蛇腹からの光漏れが
あると判明。わずかなものだがコントラストに影響するので、内部(パーマセル)と外部(黒の接着剤)で遮光した。
《試写》
初期テストはTX400二次テストはプレスト400にて行った。本来はシャッターが実質1/100までなので、テストは100の
フイルムで行うべきだが、光漏れを完全に止めるためにあえて400で過酷なチェックをして完全を期した。掲載するのは
プレストの分。
近接、遠景共に問題なく写るようになった。完全調整前だったのでシャッターを押すときの衝撃でぶれたものが多く、
完璧とは言いがたかったが、既に修正したので今後は問題ないだろう。このレンズは逆光に弱い印象があったが、今回は
特に問題を感じなかった。
☆1930年代にこのカメラができていた事は驚きだ。日本のフォールディングカメラのイメージはペラペラの板金細工で
これでちゃんと写るのかなと不安になりそうなものが多い。それらはほとんどが戦後のものだ。
時代を考えなくても立派なシステムと材質だ。ただし、ネジ類はスリ割が浅くて廻しにくく、精密度が低い。その点の
不満はあるが、機構的には優れている。距離計の見やすさなどは一級品だ。難を言えば645としては重く大きく、左
レリーズはちょっと使いにくい。しかし、ハイレベルの実用性があるから使いこなしで何とでもなる。このボディーに
後のオートコード用ロッコールをつけたら最強、などと夢想してしまった。
☆実に凝ったカメラですね。大変楽しめました。ありがとうございます>ナースマンさん
June 2014