Kan's Camera Works K645W


「自分専用、究極のマニュアル操作スナップカメラを作る」

開発コンセプト・・作業方針
@小型軽量目測式、一部木製の小型板金ボディー
Aトラブルを最小限にするため徹底的に手動赤窓式、非連動で直接セットのレンズシャッター
B画質に妥協しない120フイルム仕様、645フォーマット(高画質のミニマム)
C一発必中、連写性能は求めない手動巻上げ、電動アシストなし
D全ての操作が軽い単純化、いろいろ工夫・・・



 なぜこれを思いついたかというと、以前に整備したFUJICA GS645Wが壊れたからだ。 記事の通り、リセールバリューのないジャンクの復活品だが、レンズが良くて使いやすかった。しかし突然カウンターが スタック、分解すると何か金属部品が落ちてきた。カウンター送りの爪で、部品を作る以外に直せない。ついでに元々不調 だったシャッターレリーズが「音はすれどもシャッター切れず」が頻発する。磨耗と変形で以前にも手直しした部分で、 巻上げレバーの力をワイヤーに伝え、シャッターチャージするフジカの機構的弱点(切れる・伸びてずれるなど)だ。 直すのはほぼ無理、どうにもならないと放り出していた。


 ふと、以前に爺さん様からいただいたジャンク部品に645のパールTの ボディーがあったのを思い出した。 ファインダーやフォールディング部がそっくり取り去られたまさにプレーンボディー、これに組み込めば赤窓式で 使えるのは間違いない。早速、フジカからヘリコイドつきでレンズバレルを取り出す。レンズ周りはユニット化 されていて、昔のレンズシャッターカメラと同じ、それをワイヤーやリンクで連動させていたのだ。部品としては ありがたい構造で、ほぼ無加工で載せかえられる。



 自作のポイントは正しい位置にレンズを据えること。バックフォーカスを測定したら37.3oと読めた。これ 以上細かい数値は簡易ノギスでは読めないし、わかっても正確に固定するのは不可能。カットアンドトライで作る しかない。

 カメラを作る場合、レンズの焦点距離が長いほど製作が楽だ。ピントの山が簡単にわかるのでセット位置に悩む 事は無い。もちろん鑑賞時の拡大倍率から大きいフォーマットほど作るのがより楽なのは言うまでもない。精度を 大きさでカバーできる。

 今回のような短焦点レンズはフォーマットに無関係にピントグラスでは追いきれない。ピントの山が低く、非常にずれ 易い。開放F値が暗いものは特に大変だ。対策はわずかにオーバーインフ(焦点距離より短いこと)に設定して、その後は実写 で確認し、シムを追加して追い込む必要がある。(ベースが固い材質で、フライス加工するのがベスト)



 このボディーは、35oカメラの50oを645で使ってみようと距離計も組み込んだもの。イメージサークル不足が不満で、 結果は発表しなかった。その際に前板をつけていたのでそれを外し、改めて枠から作り直した。

 この枠に前板になるベニヤ(プライウッド)を切り出し、一枚では強度不足なので、枠の内側に嵌るようにもう一枚を切り出し て接着した。昔のレンズボードに見られる構造で、前板の角が二重化して光路が曲がるので遮光がしっかりする。

 センターを出してレンズバレルの穴を開けるのだが、ホルソーが行方不明・・・



 穴のラインに沿ってドリルで小さい穴を開け、これらをつないで円にする。甲丸ヤスリだけの作業だが案外難しい。



 レンズを仮にはめ込む。ちょっときつめがポイント。するするでは仮止めしてのピント調整ができない。動かせる程度に 軽く固定するには木材の弾力が大事だ。

《ピント出し》

 このカメラのシャッターは一般的なレンズシャッターだがBは特殊な方法で出していて、この状態では設定できない。 しかし、チャージレバーをハーフコックに固定してレリーズすると、シャッター速度設定に関わらずバルブになる。この機構は オリジナルのフジカのBとTを兼ねる機構のシャッターのためにあるようだ。見かけは設定が無いバルブ動作をこれでさせられる。 このおかげでシヤッターセットしたら、何か挟むかテープで固定してシャッターを切れば、バルブになるからピントグラスで 合わせられる。





 港公園の屋根下で実施。ここは極近いターゲットからキロ単位で遠いものまで座ったまま見つけられるので都合が良い。 仮状態でピングラで確認。見た限りピントはぴったりなので、これで組んで実写確認し、距離環に無限位置をマークして 目測のピントはそれに合わせることにした。



 この状態で仮に組む。ファインダーはフジカのものの中身を使い、前カバーを加工して取り付け、残る周りはベニアで 箱型に組んで皮で仕上げた。フジカのファインダーは大きいが見やすくきれいなので、折りたたみ式などは採用に至らなかった。

 以下、フランジバックの調整に入る。この時点ではフランジバックはアバウトである。 ヘリコイド指標を無限にしながらピントグラスで正しい位置に固定するのだ。ヘリコイドは規制が無いからオーバーインフ にも近距離側にも大きく動ける状態で、これで本来より近い位置までフォーカスできるようにしようと目論む。もちろん 元は設定の無い距離だとピントや収差の問題があるし、廻しすぎれば外れてしまうから自ずと限界はある。

《ピント出し2》



 もう一度無限遠を確認し、近距離指標を作る。60cm、90cmにターゲットを置いてヘリコイドにマーク


☆この他の作業については詳述しない。同条件で作る人など考えられないし、ここまでの私のレストアと大差ない 地味な作業だから、あえて掲載する必要はないだろう。


《試写1》



 コダックTX400によるファーストカット。ピンは良いが右に光が入った



 開放で1メートルと無限でのテスト。光漏れは別として、ピント位置は良さそうだ。前ボケが少なく、後ピンでも そこそこ出るのを確認。

《試写2》

 バレルの固定が特殊なタイプなので、接着(分解できるようチョン止め)してピント再確認で港公園へ。まだ遮光をが終わって いないのではるか昔に期限切れのアスティアを使い、クロス現像した。光漏れ部分はトリミングし、スクエアにしてみた。 ピント的には問題ない。色はクロス現像だからいろいろ加工している。参考にはならない。

 





 光漏れの原因はフォールディングカメラの前板ロック部から。これは本来は蛇腹の外だからフォールディングカメラなら 光に関係しない。そのため、遮光されていなかったのだ。ここを見落としたから鋭い光漏れが生じた。

《試写3》

 遮光の確認とG3方式(爺さん様考案のリバーサル現像)のテストを兼ねて期限切れ後8年の富士アスティアで写してみた。 ポジ画像の抜けているところはウラブタロックが外れた部分。







現像の質や色は別として、カメラとしては正常に働く。二枚目は60cm設定、ピントも問題なし。

《改良?》

 クロス現像の画面でわかる通り、フイルムのコマ間隔が狭い。画面横は実測で45oある。これでは扱いにくい。それに、 私は645の画面比率はあまり好きではない。どちらかというと1:1.5の135の比率が好きだ。少し幅の制限を考えた。



 最終的にポラロイドのフイルムケースから切り出してアパーチャーグリルを3oほど規制した。ついでにノッチを でっち上げた。向かって左側にのみ加工しているのは、実写でレンズセット位置が右シフトと判明したので、 その修正も狙った。これでトリミングしないで使える。なお、ファインダーはそのままにした。視野率100パーセントの ファインダーではないから、縦絵で右、横絵で上がきついと注意すれば済む。


《最終形態と比較》





 全体の厚み以外は小さくなり、総重量は540グラムになった。フジカは650グラムだったから軽量化成功。35o一眼レフ 用の交換レンズ一本分程度で、幅はコンパクトな35o距離形式と大差ない。現代の645と比較したら圧倒的に小型軽量だ。 もちろん目測と言うハンディーはあるが、問題なく使えるので良しとしよう。



 EBC FUJINON W 45mm 1:5.6 実績のある良いレンズだ。



 シャッターはバレル外にチャージとレリーズレバーが出ている。これをダイレクトに操作する。ちょっと小さいので ゴム接着剤を巻き付けて当りを軽くした。バレル固定位置は横絵重視で、縦絵は左手で切る。黒い線はシンクロなどのため だが、まだシンクロ接点は作っていない。



 近距離は稼動域を60センチまでとし、60、90センチに指標を設けた







 内部は徹底的に遮光紙を貼って内面反射を防止した



 無限位置と近距離制限ストッパーと当社ロゴマーク(Kan's Camera Works 笑)を入れた



《試写・完成確認》

 最終確認で本来の目的であるモノクロに取り組む。ついにプレストが払底したのでアクロスにて実施









 試写は本曇りと雨の中で全て絞り開放の結果。さすが現代レンズ、曖昧でなくきっちりピントが来ている。最後のカットの 足元の光は、フイルムの巻きが緩くて光が入ったからなので対策した。近距離の開放でも崩れないから企画は成功と判断した。 縦位置で右上の暗さは内面反射防止のやりすぎでケラレていたから。もちろん手直しした。


☆理論的には簡単で、実施はなかなか難しい作業だった。精密な測定器などないし、加工工具も限られて いる。加工の制限の中で、単なる自己満足ではなく、長く自分の作品作りに使える事を最優先にした。

 その中で切り捨てたのは、

「連動距離計」、開放5.6レンズだと全て目測で外さない自信がある。連動部まで試作したが外した
「内臓露出計」、移植困難、99%はカンで残りは単体露出計併用
「レンズ交換」、各種645マウント、ニッコールFマウントなどに改装できるが、目測では意味が無い
「ケーブルレリーズ対応」、基本が手持ち撮影だし、意外に設定が面倒なのでおそらくつけない

 今後の改良を予定しているのは、

「フラッシュ接点」、使う気はないが装備する予定 (後述)
「アクセサリーシュー」、位置と強度に問題あり検討中 (必要に応じ、グリップで代用)

 結果として実用できることに満足している。単純で故障に自分で対応できるから信頼性、耐久性に不安は無い。手作りと 言う言い訳無用で実用できる。がさつで無骨な外観だが、軽にスバルのフラットフォーを乗せたようなカメラ、いろいろな 場面で失敗も含めて自己責任で楽しめるだろう。

 唯一の不満は開放が5.6であること。感度400のフイルムがコストと種類で ネックになる時代なので、せめて4.0、理想としては2.8欲しいが、開放で使いやすいので何とかなる。反省点は光軸が完全な センターにないことと、内部遮光でケラレが生じたこと。これらは対策したので今後は大丈夫だ。


 I got it!


☆この記事の発表にシンクロ接点の取り付けが間に合った。レンズバレルから出ている5本の配線のうち、シャッターに 連動して開、閉路する二本を見つけた。予想通り、元がプラボディーなのでボディーアースではなく二本で出ているの がありがたい。内部を通してターミナルを取り付けた。







 ということで、X接点として最高速までシンクロするのを確認、装備完了。作業中に二度電撃を喰らった(笑)


July 2015


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