八陽のアルペンフレックス、不思議に縁がある。
これはアルペンフレックス中期のもの。以前から試写などでお世話になっているモーターパラグライダーのグループ、
富士スカイスポーツのKさんからいただいた。以前に古いカメラがある
から持ってくるよというお話が実現したのだ。
以前の最終型、Zタイプは信州で展示されているが、これはその手より古い。と言ってもレンズは同じなので、完全整備で
どんな結果になるか楽しみだ。
シャッターが引っかかる、ファインダーが暗いなど古い二眼レフ共通の経年劣化だけで、レンズに傷やカビはないし、シャッター整備は
できそうだから、以前の試写よりは良い結果が期待できる。
普通はここから皮を剥がし、ダルマを外すのだが、この作業で国産二眼レフのほとんどは皮の再利用ができない。パリパリに風化
していてどうやっても再利用できないのだ。分解はあきらめて外からの清掃に留めようと思ったが、良く見ると前板は4本のネジで
外から見える形で止められている。これらを外すとダルマ部コミで浮き上がった。始めて見る構造だ。
分解時に外す必要があるレバー類の先端部品を外す構造だった。左上から左回りに、シャッター設定、セルフタイマー、絞り、
シャッターセットレバーの先端部だ。これらを外し、裏からレンズバレルの固定ネジを外すとシャッターブロックが分離できる。
シャッターを後から整備するのは無理なので、どうしてもこれらを外す必要がある。それでも皮を剥がさないで済むのは
ありがたい構造だ。トレードオフはネジ頭が露出することだが、デザイン的には何の問題もないと思う。
前板カバーを外す。ここからシンクロコードの半田を外す。異様に太いコードなのでこれは撤去した。X接点ではないしこのカメラで
フラッシュを使う事は無いから今回は外したままにした。もちろんしかるべきコードを半田付けすれば機能はすぐ回復できる。
オリエントシャッター。プロンタータイプだが、ガバナーとの連動部が分離していて明快だ。シャッターセットレバーの根元が
長い部品を押し、その先がガバナーで制御される。本家プロンターよりずっとすっきりしていて作動が軽い。ただし、大きい部品は
イナーシャが大きく高速を出しにくいとも言える。右に見える蔓巻バネがセルフタイマー。軽い給油で作動が復活し、軽快に動作する。
最高速は1/200と低いが、きちんと出ているので実用には全く問題ない。
この後、前を組むのに1時間以上を費やした。理由はシャッターボタンとの連動部の作りが曖昧なこと、バレルの固定位置出しの
ピンなどがなく、正しい位置を出しにくいことだった。公差が大きく、組立に職人芸(もしくは専用ジグ)を要求している。他の部分
に比べて四畳半的な構造ではある。
ミラーは劣化している。清掃しても輝きが戻らない。
手持ちから切り出してミラーを更新した。一気にファインダーが見やすく実用レベルになった。以後、各部を清掃し、皮はウレタン
で補修した。劣化した皮は艶を失い、浮くと割れて欠けてしまう。それ故、ウレタンの柔軟性で強化しないと実用できないのだ。
アルポ75o、三枚構成。日本光学系のレンズと言うことだが、さてどんな描写か。
《試写》
アクロスにて実施
まともに晴れないので、100のフイルムでは開放か、絞っても5.6までで写した。三枚玉でもともとコントラストが低いタイプ
なので、スキャン後にコントラストをあげている。引き伸ばしで言うと3号で焼いたと言うところ。
☆結果として、以前の試写と似ている。絞り込めないとピンが甘く、コントラストが低下し、周辺が流れる。無限遠の描写は物足りない。
絞って使うレンズだろう。ただし周辺減光は少なく、大きな流れや崩れはないので、カラーで情緒的な作品に向いているだろう。
カメラとしては評価が難しい。レンズ前板の工夫などは良いが、いろいろなところに公差があること、セルフタイマー組込みの
シャッターだが最高速は1/200止まりだ。ただし、材質や仕上げは意外にしっかりしている。目立たないところだが巻上げノブは
重からず軽すぎず、スムーズで造りの良さを感じる。赤窓式巻上げでセミオートマットなしはこの当時(昭和20年代後半)でも高級機とは
言い難い。AからZまでぞろぞろ出た四畳半カメラ的部分と、しっかりした部分が同時に存在する。
工夫された部分と、現場合わせ的部分が混在するアルペンフレックス。日本光学の疎開工場を引き継ぎ、塩尻に作られたが、
リコーやヤシカの安値攻勢に耐えられず、志半ばで倒れた八陽のカメラらしいと言うことだろうか。しかし、四畳半カメラと言いきる
のはためらわれる。職人の細部へのこだわりを確かに感じたから。
☆ありがとうございます。楽しめました>Kさん
September 2015