武藤寫眞機製作所 MUTOFLEX Vr

 尊敬する手作りカメラの610さんの4×5二眼レフの作りかけボディーを頂いた。これは610さん に倣って手作りしている”きどさん”に、 610さんから「作りかけだが参考に」と回ったもの。それを完成させる気があるならということで私に回ってきたのだ。 このリンクにオリジナルモデルがある。



 わからない人には全く意味が通じないだろうが、これは素晴しいボディーだ。4×5の二眼レフはわずかに存在するが、どれも 大きく、重く、高価格である。しかもレンズ間隔が大きくて盛大にパララックスがあり、実質的に近距離で手持ちでは使えない。

 610さんの工夫はこれを木製でギリギリまで小型化することで総重量を3キロ以内にし、パララックスを最低限に追い込んで きている。これが5型とあるのはその集大成だから。4×5のスピグラより少し背が高く、厚みをこの程度に収め、かつ重量は大差ない。

 単なるカメラの手作りという自己満足のためではなく、必要な機能を求めたら作るしかなかったというのが素晴しい。



 暫定的なホルダー部をとりつけられた状態。ここから必要なのは、下記の作業。

@ミラー切り出しと取り付け
Aレンズ選定とサブボードを介しての取り付け
Bテイクとビューレンズの位置調整(連動設定)
Cパララックス補正機構の開発と取り付け
Dファインダー周りの完成(遮光や拡大レンズ取り付け)
E両面ホルダー・ガチャガチャ(6枚撮りホルダー)対応のバック部取り付け
F外観仕上げ(塗装や革張りなど)

 ざっとこんなところだ。素材であってキットでは無いから、全て自分で考えて仕上げる必要がある。無限の組合わせの中から 正解、いや、妥協点を得るのだ。レンズや構造の知識に、多少の加工スキルが必要で、ロマンで遊べない人にはまあ無理だろう。





 先ずはミラー。紙で型を作って大きさを確かめて切り出す。正確な切り出しが必要だ。摺りガラスは窓などに使われたものだが、写真用 としてはちょっと荒い。理想は細かい粒子のサンドブラストだろう。



 組み込み。このチリトリは後ろに微動ネジがあり、正確に合わせられるが、画面上下でピントの違いは無いので微調整は不要だった。



 テイクにシュナイダーのシロナー150o5.6、ビューにフジナー150o6.3を採用、シロナーは1/500秒まであるセイコーSLVに組み、 ビューは壊れた0番シャッターの中身のほとんどを取り去って簡素化したものに組んだ。ただし、絞りは被写界深度確認用に残した。 4×5ともなるとレンズは使えないものなど存在しないから、焦点距離と口径・開放F値で考えるだけでよい。

 この状態で暫定のピントグラスとホルダー部を取り付け、テイクとビューのすり合わせに出かけた。上下のレンズのピントが ずれていれば、ピントは全部ずれてしまうから二眼レフでは最も大事な作業だ。







 フィールドでのピント合わせでは、カメラは暗いところ、景色は明確で十分遠い目標が見えるところが望ましい。新東名下のトンネル 出口にカメラを据え、ピント位置の微調整を行う。2ミリほどピントグラスを持ちげることで同調した。テイクレンズの シャッターにはプレスレバー(シャッターを開放固定するレバー)があるから、ケーブルレリーズは不要だ。



 上下がフイルムより広いピントグラスに摺りガラスを切って入れ、その下にフイルムとほぼ同サイズの穴を開けたマスクを製作



 マスクは4×5用ホルダーを分解してピントグラスを作った時に不要になったヒキブタを使った



 奥に見える針金がマスク駆動部。前板に連動して回転し、マスクを駆動する





 マスクが動くようになったので、無限位置に合わせる。ピントグラスはこの上に4点で浮くように取り付ける。これによって レンズ前60cmくらいまで写る範囲が確認できる。見える範囲は実画面とほぼ一致している。ちょっとした接写には重宝だ

 ピントグラスの少し上にフレネルレンズが固定されている。フレネルは集光とわずかに拡大効果がある。ビューレンズが F6.3と暗いので、フレネルが無いとピントがよく見えないから必須アイテムだ



 610さんから頂いた(フライス盤で厚みを加工していただいた)バック部の取り付け。レバーで持ち上げる構造で、ネジの長さで バネレートが変えられるから挟める範囲が広く、国際規格ホルダー、ポラパック、ガチャガチャ(6枚ホルダー)に対応する



 外装に入る。一部を黒く塗り、繰り出しギア部にはプラ板を貼り付け、全体を革張りする。革はソフトシープ。本来はバッグなどを 作るための物で、感触が柔らかい。これを包む様にしながら不要部分を裁ち落として貼り付けた。ファインダーのフタは前から一 つながりにした。今のところ無印だが、ネームプレートが入る予定





 最後まで悩んだのがファインダー。結局、機能優先で遮光幕を使って開閉式にした。これは開く途中



 遮光幕の中には、形を保つプラ板と上の枠を組み込んである



 立ち上がったところ。ここで赤いプラ板を手前に押し込んで固定する



 つけてあるのは100円ショップの老眼鏡。これで視度を自分に合わせ、目を密着して全体を確認できるようにした







   テスト撮影。手持ちで十分使えるが、三脚なら一般的な4×5同様に、ピントグラスで精密に合わせられる両用システム。 両用はおまけ機能だが、何らかの故障でファインダーが使えなくとも、固定できれば4×5としてきちんと使える。これは スペシャルルビー(改)以来の私の4×5の共通項だ。圧倒的な精密感が命だから、直視ピントグラスはある方が良い。



これが現在の形態。名称はMUTOFLEX Vr とした。最後の「r」はリヴァイズド、改訂版という意味。改良ではないので 小文字で表わした。まあ劣化版というのが正しい評価だろう。

《試写》

 試写は最初に大幅期限切れのポラで光漏れなどの確認、一日におよそ2カットずつ数日で行った。

 ポラ(FP100)の確認カット(手持ち)



 これでいけそうだと思ったので、フイルムで写してみた。ピンが甘く感じるのはポラの劣化による



 三脚で絞り込んだら、風で被写体のレンゲがぶれた(Acros100)

実用化できたので正式に試写に入る。以下はTXP320にて





 このカットではうっかりホルダーをぶつけて光が入ったので、スクエアにトリミングした。以下はその中央部分の1200dpiのママ





 上が中心部、下は合焦させた部分。ファインダーの連動は良さそうだ



 非常に暗い中、開放・近距離・車の中で手持に挑戦。ピントはドアの把手にしてみた


☆カメラは道具であり、結果が全てだと思う。もちろんその結果に至る過程で、使い易さと安定性、その他の要素が考慮される。 最高の画質でも大きく重ければ稼働率が下がり、結果は得られにくい。

 当機はセミキット(基本はあるのでレンズ等を用意してまとめる)だから、自作機ではない。レンズやバック、マウントの無い 一眼レフを完成させたようなものだ。基本は全て610さんの手の中にある。


 使っていて感じるのは、4×5としての使い易さ。 愛用しているグラフレックスのクラウングラフイックに比肩する。 ピントグラスで正確に合わせられる(M)とフレームファインダーの見易さ(C)が最大の相違点で、これは フォールディングカメラと二眼レフの本質的違いだから比較は意味が無い。当機をM、グラフレックスをCとして理由をあげると、

−−−−−−−−−

 動きモノには距離形式で素早いC、じっくりならほぼ実画面のMが勝る

 重さは同等、ハンドリングは一長一短で、どちらが勝るとは言えない

 即写性はホルダー部がほぼ同形式なので同等

 Cはライズなど多少のアオリが使えるが、その際に三脚必須なので、スナップ撮影では比較要素に入らない

 レンズは互いに交換できるが、自由度でCが勝る(Mでは適応範囲が狭く、改造作業を伴う)

 −−−以上の理由から比肩すると判断した−−−


 街中でスナップすると、当機がカメラだとわからない人がほとんどだ。しかも上から見る二眼レフだから全く警戒されない。 街中スナップに強いと言える。手作りカメラだがあくまで実用、それが最大の魅力だ。


☆よく写ります。楽しいです!>610さん、きどさん


April 2016


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