《レストアの道具》


私にいろいろ質問が来る。質問には意外に道具のことが多い。カメラには特殊な道具が必要だと思うのだろう。
確かにメーカーサイドでは色々な測定器と特殊工具を使うようだが、我々アマチュアに手が届くものではない。
ベテランの方々はそれぞれにいろんな工夫をされている。それぞれなるほどと思える工夫がある。私は皆さんの 工夫をいただいて、自己流工具にしているので、これが全てではないとお断りした上で、私の道具を紹介しよう。

@回す道具


プラスとマイナスの精密ドライバー。これは必須。安物は絶対に駄目でこれだけは良いものをそろえたい。
ついでに並んでいるのはもっぱら、こじる・突っつく専用のドライバー、40年前から使っているがいまだに 欠けていない。ミシンのシンガーの付属品だ(左)


カニ目回し。これはメーカー製だが、実はあまり必要ない。いろいろに使えるよう先端には色々なチップを 自作した。自作が面倒なら買えばよいのだが、意外と高価なものだ。巻き上げレバーの小さいカニ目等を まわすチップは弱く、折れやすいので、下の代用品のほうが使いやすい。このツールについては別途記事にしたので 参照されたし。


金属加工用デバイダと自作カニ目回し。デバイダはホームセンターなどにある。安いが使い道が広い。 写真のものは大きすぎるので、もう少し小さいものが良い。
自作の方はカスタムナイフ用のATS34という鋼材で、焼入れしてあるので強い。カニ目レンチよりアジャストが 簡単なので、レンズや鏡筒の脱着はもっぱらこれだ。
HIROAさんは、カニ目回しの代わりに、ノギスを加工して使うそうだ。幅の変更など使いやすいとのこと。 私も実験してみようと思っているが、なかなか道具を加工するタイミングが無いまま今に至っている。


ゴム栓とゴム板はフリクションで廻す時に使う。カニ目が無い場合や、レンズまわりに活躍する。ホームセンター には椅子の足用などさまざまなものがあるので流用できる。傷つけにくいので、カニ目回しより安全だから、 これで廻せる時はカニ目回しよりベターだ。


☆追加記事へのリンク


Aはさむ・つかむ道具。


ペンチ・プライヤー類とピンセットなど。プライヤー類は、100円ショップのものが先端を加工してカニ目 代わりにするのに都合がよい。当然買ったままではなく、やすり等で加工する。失敗しても苦にならないので おすすめだ。ピンセットは外科用などしっかりしたものが望ましい。先端にゴム系接着剤を塗ったものも 用意すると、力を入れすぎてネジを飛ばしにくいので便利だ。


B切る道具


レストアではモルトや遮光紙、貼り皮などを切る場合が多い。カッターナイフと鋏は必須アイテム。 アクリルカッターなどもプラスチック加工には便利だ。ちょっとした堀込みには彫刻刀、
特殊な形をしているのは自作の皮包丁。外装の皮張りやジャバラなどに使う皮革を加工するのに使う。 もちろんカッターナイフでも大丈夫だが、この方が使いやすい。それにプロっぽくてカッコ良い(?)


Cお手入れ道具など


レンズの手入れはクリーニングペーパーの使い捨てが良い。クリーニング液はいろいろ市販されている。 また、オキシドール(過酸化水素水)はカビの除去に、ガソリン・アセトンなどは接着剤や油脂類の 清掃に使える。全体をきれいにするには薄めた台所洗剤やOAクリーナーなどが良く落ちる。

☆最近CRCをシャッターなどに吹き付けたものがオークションに出る事がある。これは最悪で、確実にシャッターや 絞りが使えなくなる。この場合などには車のブレーキドラム清掃用のブレークリーンが有効だ。レンズを外してシャッターやガバナーの 清掃には威力を発揮する。使った後は要所に必ず注油すること。油脂が完全に落ちるからだ。

金属部の錆落としは、ピカールやコンパウンドで磨くとピカピカになるが、その後の手入れが悪いと 前よりひどくなる。私はもっぱらスーパーCRC-55-6を布や綿棒に取り、これで磨いている。錆止め 効果も期待できるからだ。ただし、絶対に直接吹き付けないこと。染み込むと各部に悪影響がある。 空きビンなどに噴出させてしばらくしてから使うと良い。自動車用のワックスは磨くのにとても良いが、 絶対にレンズにつけないよう注意すること。


注射器は給油する時の必須アイテムだ。これも100円ショップの香水用などが安くて便利。


歯ブラシと筆は、掃除用・塗装用に良く使う。部品を中性洗剤で洗う時にも使える。塗装用は面相筆と 細い平筆があればほとんどの作業に使える。ごく小さなスポッテイングには爪楊枝が使いやすい。


Dその他のいろいろ


細かい部分を見るルーペ、懐中電池、など必要に応じて準備する。特に専用は無いが、百円ショップなどで 使えそうなものをいろいろ探すと良い。ルーペはまわりからの採光を考えるとオープンなものが使いやすい。 ポジの確認用のものはバックライトが無いと見えにくい。ジャンクカメラのレンズもルーペ代わりに 使いやすいので捨てることはない。


消耗品としてのモルト(書道用下敷きなどで代用可)、遮光紙(内面反射防止用=必ずしも必要ではない)
サーキットテスター(電気回路用には必須・安物でよい)回路の導通や抵抗値測定など使い道は広い。 ついでに蓑虫クリップのついたジャンパーコードを作っておくと測定などに便利だ。


☆デジカメは作業の記録用で、特に面倒なところは必ず写しておく。人間の記憶は当てにならない時が多いので 記録は大事だ。細かい部分の作業では必須。



細かいところの作業用に、竹串が使いやすい。爪楊枝やウエスなども便利である。綿棒(コットンチップ) は100円ショップのものを使い捨てで利用する。


皮張りの接着などにはほとんどこの「ボンドG17」を使っている。扱いやすくなれているからだが、穴埋め 等はエポキシ系の接着剤やパテを使う。速乾性より時間がかかるものの方が接着力は大きい。
「瞬間接着剤」はほとんど使えないと思ってよい。白くなること、染み込んでトラブルの元など弊害が 大きすぎるからだ。セメダインのりは、皮の仮張りなどに便利で愛用している。


ジッポーオイルはシャッターなどの清掃用、ナフサ=粗製ガソリンなので、白ガソリンなども流用できる。 油落しにはシンナー類やアセトンなども良いのだが、普通には手に入りにくいので、もっぱらこれを使っている
機械油はこれとレコードプレーヤー用の、精密モーターオイル(スピンドルオイルより軽い)を使っている。


ピントグラス代用品のスリガラスも無限遠の狂ったレンズを調整するのに必要。透明アクリル板に細かい 擦り傷を片面だけつけたものはスリガラスより明るく、使いやすい。使うときはルーペを固定しておく。


削ったりする作業もいろいろある。ヤスリは必需品だろう。ナイフ用も含め、何本あるか数えたことが無い。 それとサンドペーパー(耐水ペーパーが使いやすい)は接点復活などに威力がある。


その他いろいろなものを必要に応じて使う。部材は材質や特徴などを知っていると簡単な部品製作に役立つ。 何をどこに使うかもレストアのセンスの内だろう。先輩諸氏にはこの使いまわしで教えられることが多々ある。
流用と工夫は既にメーカーのサポートの無いカメラを生かす大事なテクニックだ。ジャンクは絶対に捨てない と言うのは、この部品の流用などに役立つからなのだ。写真は私のジャンクストックなどのごく一部、物置には 訳がわからないほどのジャンクが(多くはバイクや車用だが)眠っていて、日の出を待っている。(いつのことやら)

台所用品や日曜大工用など使えるものは何でも使い、過去の色々な趣味から得た経験も使いまわす。
私の場合、陶芸・バイクレストア・絵画・彫刻・木工・カスタムナイフなど、いろいろやって来ているのが すべて役立っている。その意味では無駄は無いだろう。

レストアとは究極のパズル


2016 December 改訂

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