. Camera Restore

レンズシャッター備忘録

@スローガバナー、シャッターの肝

 先日のピジョンフレックスのレストアで、スローガバナーについて下記の記事を書いた。その記事に実例を追加してレンズシャッターの 備忘録とする。諸氏の参考になれば幸いだ。



 一般的なレンズシャッター。35mmカメラが00番、120カメラの多くが0番、その上は120以上のカメラに主に使われる。 この写真で00番が乗っているのはマミヤ6のボディーなので大体の大きさがわかるだろう。

 簡易的な単速シャッターを除くと、レンズシャッターにはスローガバナーが仕込まれている。最高速で作動しようとするシャッターを 途中で規制し、設定速度までホールドする遅延装置だ。レンズシャッターの正確さはスローガバナーの正確さに依存するといって良い だろう。

スローガバナーのほとんどはギアで増速してその先にガンギ車+アンクル(時計とは異なりその先には何もつながっていない)という 構成である。増速するから必然的にトルクが落ちる。速くても弱いトルクに軽い抵抗を与えるのにガンギ車とアンクルの摩擦を使う。 そういう構造だけに、軽く動くことが必須で、潤滑不足やゴミなどで故障が多い部位だ。

 機械式スローガバナーはこのガンギ車とアンクルのぶつかり合いで特有の音を立てるから、この音で作動状況がほぼわかる。故障判定 には、シャッターテスターを持ち出すまでも無い場合が多い。


《薀蓄・スローガバナーの作動》

  −−−最近整備したピジョンフレックスのもので動作を解説する。−−−



 黄色のピンを押された扇形ギアの動きは、次々に数段の増速ギア(赤⇒水色⇒緑)に伝わり、最後にあるガンギ車とアンクルは、 機械時計の一歯ずつ送る部分と同様にして回転を規制する。この扇形ギアの回転角度で秒時が決まる。この時のガンギとアンクルの動きが ジーという音の元になっている。この音程や安定性である程度の状態が判断できる。このギア構成は機種により段数や減速比が異なる。


 機械式カメラのスローガバナーは、先ず最高速をガバナー無しで出すようにし、それより低速は羽根が全開した所で扇形ギアの先が 引っかかってシャッターセットリング(コンパータイプ)やメインレバー(プロンタータイプ)を止める。シャッター親バネのトルクは 扇形ギアを押しているからスローガバナーを駆動し、設定時間にはシャッターが閉まる。

 ギアで増速するから反比例してトルクはどんどん弱くなり、ちょっとした汚れや錆でも止まったり遅れたりしてしまう。軽く確実な 動作を長期間できるかどうかがスローガバナーの命だ。注油しすぎると油膜ができ、かえって動きが悪くなってしまうのはこのためだ。 (スローガバナーは清掃して、希釈した油をごく少量与えるのはこのためだ。決して重い油をたくさんつけてはいけない。)

  以上の動作なので、シャッター速度は必ずしも定位置でなくても正常動作する。つまり無段変速は可能だが、採用例はほぼ無い。 カムプロフィールを段にしないで斜めにすれば良いのだが、そうすると設定値がわかりにくくなるので採用されなかったのだろう。

 一般のタイプの場合、ガンギ部分はシャッターセットしていない時はギア部から外れているから、調速カム(≒シャッター速度リング) を動かしても動くのはギアのみで、(コンパーなど、ギアがシューでキャンセルされて動かないタイプもある)ガンギ車は作動しない。 セット後はスタンバイ位置から作動位置になるので、速度設定を変える時にガンギも動くから、音と抵抗が大きくなる。

☆ここからこの動作は機械に悪いだろうと言う想像が生まれ、レンズシャッターはシャッターセット後に設定を変えると故障するという 迷信に繋がったのだろうが、これは全く意味が無い。強制駆動されて壊れるようなガバナーは元々壊れているのだ。もちろん力任せに ガチャガチャするのは論外で、常に静かに操作すべし。

  旧コンパータイプでは最高速のみアシストバネが働く。これはセットリングを廻す時に力が掛かるのでわかる。このタイプの場合は シャッターセット後にはセットリングを最高速にしたり戻したり出来ない。無理に廻すと壊れるので注意する。


  機械式スローガバナーにはこのほかにもいろいろな形式がある。はずみ車をつないでイナーシャで減速するタイプや、ガンギ車など を持たず、ギアを廻すトルクで少し低速を得る、基本バネの引っ張り強さを変えるなど、簡易的なものを含めれば、カメラメーカーの数 ほどあるとも言えよう。しかし最高速を出して邪魔を入れることで低速を作る理屈は変わらない。(昔の写真館の名人は、バルブで シャッターを開閉してちゃんと絵にしてしまう。人間スローガバナーだ。)

  マーキュリーやペンFなどのロータリーシャッターや多くのフォーカルプレーンシャッターでは、高速(シンクロ速度以上)は スリットの開度でコントロールするが、低速は後幕のスタートを機械式スローガバナーで規制しているから、本質的には同等のシステムと 言えよう。


☆開く時はバネの力を使い。開くのをスイッチにしてホールド磁石で開いたままにし、その間にコンデンサーにチャージし、設定時間で ソレノイドに通電してホールドを解除してシャッターを閉じるのが電子シャッターの初期のもの(エレクトロ35シリーズなど)。 開閉それぞれをソレノイドなどで直接駆動するのが最近のカメラに多い。これらは全て電子遅延回路をスローガバナーにしているから 極めて精度が高い。これらについては本稿とは別システムなので記述しない。(というか、出来ない・笑)



《B音で診断》

「チーン」レンズシャッターの作動状況は音でわかる。気持ちよく切れた場合、音の最後にセクターリングの音が小さく「チーン」 と響く。

「チッ」という音だけだとリングは動きたいが羽根が開かない時や、羽根が途中まで開いてスタックしてしまう。この場合は 一番 多いのがシャッター羽根に油が付いて張り付いている場合が多い。他に、セクタリングの動きが油切れで悪いとも考えられる。

「チッ・ジジ・ジ・チャッ」などはスローガバナーが悪いことが疑われる。低速で「ジジジ」という音はスローガバナーの音だが、 これが短く気持ちよく聞こえないのはガバナーの動きが悪いのを示唆する。多くのスローガバナーはセクタリングに続くアーム類が レリーズでシャッターを開いた後にその動きを止めるように割り込み、バネのトルクは2または3段のギアで増速されてガンギの動き を作り、これが回転速度を規制することで低速を得る。スムーズでないと回転トルクが少ないので遅くなったり止まる。この原因の ほとんどは油切れだ。最高速はガバナーが関係しないので低速のみ不調という場合はここだろう。

*レンズシャッターが渋いとスローガバナー不調と即断して外す人があるが、これはあまりお勧めしない。外さずにベンジンなどで 洗浄とごくわずかの給油で復活する事が多い。ガバナーとセクタリングなどとの関係は非常に微妙で、古いものは公差が大きい。 ベストポジションを見つけるのは非常に面倒だ。先ずは良く観察し、「必要ないところは緩めない」のがコツだ。

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