ZEISS IKOFLEX Ta(Novar)




 イコフレックスTa、ここまでにテッサーのものトリオターのものを報告しているが、これはノバー、三枚玉つきだ。前回の ヤシカフレックスに続いてOYU_SANさんから預かった。

 これを直すことになったのは、ヤフオクに出ていてシャッター故障などだが直せるだろうかと相談を受けたから。 画面で見る限り、セルフタイマーが途中で止り、シャッターが開きっぱなしで止っている。これなら簡単だろうと 行け行けサインを出してしまった。ところが、届いてみるとそんな生易しいものではない様子が伝わってくる。 そこで、私が代わりに調べてみることになった。



 シャッターを点検するとセルフタイマーのスタックだけではなく、まともに開閉しない。大量のベンジンで無理に 動かしてみたが、ゴリゴリしていてまともには動かない。洗うしかないと判断して超音波・ガソリンで徹底的に洗った。 途中で羽根が動くようにはなったが、ゴリゴリは解消しない。羽根油はほとんどないので原因ではない。 黄色のセットレバーを強制的に戻さないと動作しないし、閉まりかけで止ってしまう。

 形から見てプロンターだと思うがどこにもメーカー名は無い。また、「オウムの嘴」部分が普通のプロンターとは 異なり、D形のレール部も無い。トグル動作は駆動軸直結の部品がつとめている。始めて見るシャッターだ。

 秘儀「シッカロール漬け」でいろいろ確認しているのがこの写真。このままでは原因不明なのでベースから 分解することになった。できる限りやりたくない作業だが、面子もあるから放り出すわけには行かない。


☆「シッカロール漬け」とは主成分の亜鉛華(酸化亜鉛)は柔らかくてガラスなどへの悪影響がなく、すべりを良くするので、 シャッター羽根や、給油すると羽根にしみ込み易い部分にまぶす方法。絹幕フォーカルプレーンシャッターの すべりの改善にも有効。過剰分は吹き飛ばせば済み、油ではないので予後が良いことから使っている。ただし十数年の 実績しかないので、ごく長期間にわたる保障は無い。使う場合は自己責任で使われたい。




 ベース部と絞りつきハウジング部に分かれた。Aスローガバナー、Bセルフタイマー、Cシャッターセット部、 Dメインの駆動軸とセットレバーである。矢印はシャッター起動のレバーで、なぜか変形している。、一先ず本来の 形と思われる状態に直した。羽根は5枚で錆はないし大きな傷も無い。原因はガバナー周りだ。ただし、ガバナーの動作は 軽く、単独には異常はない。




 一枚目がシャッターセット前、二枚目がシッャターセット後。この動きは問題ない




 セクターリングは始動前は一枚目の位置、黄色で閉め、赤で全開、動作が終わると元に戻るのだが、最後に少し 残して止ってしまう。羽根は開いてガバナーで規制され、閉じるのだが、すっきり閉じきれない・・・スローガバナーは しっかり動作するのに。

 セクターリングは中心角でせいぜい3ー4度の動きしかない。この短い距離で羽根の駆動ピンを動かして開閉させる。 セクターリングにも異常は見られないのに戻りが悪い。



 ごちゃごちゃ動かしていて、数時間がたったころ突然まともに動作するようになった。理由は先のこの写真の黄色く 囲んだ部分にあった。セルフタイマーが完全に戻っていなくて、セクターリングの動きを邪魔していたのだ。

 セルフタイマーはシャッターが起動されるとセクターリングなどの動きを規制し、設定された時間まで邪魔をして 時間が来ると邪魔を外すことでシャッターを動作させる。このシャッターではスローガバナーの後ろにあり、羽根は セルフタイマーの根元の切り欠き位置が完全に戻らず、羽根の動きを邪魔していた。目視ではセルフタイマーレバーは 戻っているように見えて騙されていた。

 届いた時にスタックしていたセルフタイマーは無理やり回転させて戻した。それでセットなどが出来たのだが、 わずかに戻りきれずに羽根の動きを邪魔していたのだ。ほとんどクリアーしているのでチェックから外していたのだが、 完璧に戻っていなくて「動作できるが引っかかる」という位置にあったのだ。観察と動作理解が大事とあらためて 思わされた。


☆途中で「バネを強化すれば強制的に開閉できる」と思い、バネの追加を考えた。しかし、錆びて折れてしまった場合は 別として、カメラに使われているバネはあまり劣化しない。速度が遅くなったりするのはいろいろな部分の摩擦増大が 原因で、摩擦が少なければ正常動作する。数十年間セットされたままスタックしていても、バネが使えなくなった例は 私にはない。原因を追究して摩擦を減らすのが王道だ。

(フォーカルプレーンシャッターで、シャッター遅れをバネのテンションで直そうとすると壊れるのもこの理屈なり)



 完璧に動作するようになったので記念撮影





 これが一番嫌っていた作業、羽根の組み込み中。この状態にしてハウジングを被せるのだが、わずかの振動であっさり 外れてしまう。この作業が好きなレストアラーはいないだろう。

 今回は3度目で組めた。10分くらい掛かったが非常に順調といえる。もちろん羽根の開閉もすっきり完璧になった。



 テストでこの部分の連係が悪く、時に引っかかると判明した。本体側とシャッター側のリンクが悪いとシッャターレバーを 押したまま戻らなくなる。部品の変形を直したが完全とは言い難い。撮影中に引っ掛かりが起こるとカバーがあるので きちんと戻すのは難しい。





 上が元、下が改造後。缶ビールのアルミを切り出してカイモノとし、接触面積を広げた。また両者を軽く接着して より確実に動くようにしてみた。これでシャッター起動レバーのレリーズと戻りが確実になった。



 試写でファインダーが暗く、とんでもないところにピンが来る。ファインダーを開いてみたらなんと表面鏡ではなく普通の 鏡、それも周辺が曇ったものが入っている。このファインダーは止めているネジが3本だけだ。4箇所目は本体と絡んで 固定されるからこれで良いのだが、面白い構造だ。ついでにシャッターの二重露出防止部に給油した。シャッター自体の 動作が軽くても、ここが邪魔する。給油でだいぶ軽くなった。



 これが外した鏡。鏡の痛みからおそらく数十年前に組み込まれたのだろう。バックコートがないので、本来は表面鏡で、 間違えて裏返しに組んだと推測した。これではファインダーのピント位置が前にズレ、無限遠はアウトフォーカスになって まともには使えない。それで嫌になって放り出し、何年も寝ているうちにシャッターが渋り、セルフレバーを動かして これもスタック、完璧なジャンクとなったので安く出したのだと推測した。

 手持ちのちょっと形が異なる表面鏡を仕込んだ。変形だが本来の鏡面積より大きいのでケラレはなく、画像は明るく クリアーになり「どこにピントがあるかわかる」ようになった。もちろんピント位置も治った。



 Novar Anastigmat 75mm F=3.5













《試写》

 良く晴れていたので富士NS160にて実施。ただし上述の通りファインダーのピントがおかしいので全て目測にて撮影。 また、レリーズの不調で二枚が失敗したが、現場で応急処理し、その後は問題なく写っていた。







 1.2枚目は1/250秒で11と16の間、三枚目は開放にて写している。絞ればすっきりは当然だが、開いてもちゃんと ピントの芯がある。

☆全ての苦労は試写で報われた。予想よりずっと良いすっきりとした解像度で、周辺まで乱れずに表現している。 今までいろいろ試してきた二眼レフの多くの75oを凌駕する立派なものだ。

 このカメラについて、テッサー・トリオター・ノバーと写してみた感想はノバーがベストだ。チャート撮影などではなく 私の直感に過ぎないが、普及機用と見られているノバーの実力はイコンタ系でも感じていた。今回はそれを再認識する 結果となった。

 何はともあれこの魅力的なカメラを復活させる事ができてうれしい。完全清掃したからこの先当分は働き続けられる。 ずいぶん長時間戦ったように見えるが、カメラが届いた翌日の清掃と深夜の数時間の作業だった。しかし、今回も貴重な 経験が得られた。何がどうなっているか理解できればレストアはほとんど成功だと。


☆やったぜ、ご愛用を!>OYU_SANさん

 


August 2017


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